インドにおけるオンライン学習の活用:BYJU’Sのケース
インドにおいては教育環境の格差が大きく、特に農村部においては教育の環境はまだまだ整っていません。
この記事では「全ての子供に楽しく、参加したくなるようなオンライン教育を提供したい」という目標を目指し創業したインドのスタートアップ企業「BYJU’S」を紹介したいと思います。2022年7月時点での評価額は、230億ドルにのぼります。
インドオンラインラーニングプラットフォーム、BYJU’Sについて
会社基本情報
BYJU’Sは2011年にThink and Learn社として、教師でエンジニアのByju Raveendran氏(以下Byju)が創業しました。インドのベンガルールの本社の他に、アメリカカリフォルニア州パロアルトにもオフィスをかまえています。学習用のプラットフォームBYJU’Sは、インドで2015年にサービスが開始されました。現在世界中で1.5億人以上の学生が利用しており、年間650万人が有料サブスクリプションに登録しています。ロックダウン期間中、もっともダウンロードされた教育系アプリのトップ10にもランクインしています。
対象は幼稚園から上級中等学校(日本の高校相当)卒業までの学生で、試験対策として使用することができます。登録している学生は1日あたり平均71分ほどBYJU’Sで学習しています。
BYJU’Sは世界中で1万人以上の従業員がおり、そのうち2500人以上はカリキュラムを開発する教師または専門家です。学習コンテンツはストーリーテリング(物語を語って伝える)手法や映像を使い、学習への興味を高める工夫が組み込まれています。インドにある10種類の言語で使用することができ、数学や物理、歴史やコマースなど幅広い学習分野に対応しています。
Byju’sはまた今年、8億ドルもの資金調達をおこなっています。
創業者の紹介
Byju Raveendran
1980年に教師の息子として生まれ、学校ではエンジニアリングを専攻しました。学生時代は友人に数学や、インドのマネジメント学校への共通入学テストCommon Admission Test (CAT)対策などを教えていました。彼自身はこのテストで満点を取得しています。2005年には当時の仕事を辞め、MBA志願者に数学を教えることに専念し始めました。教え始めると一躍彼の授業は人気となり、6週間で1200人以上の受講を希望する生徒が集まりました。人気に応えるため、Byjuは自分の授業の録画と配信を始めました。その後、2011年にBYJU’Sの元となるThink & Learn社を設立、2015年にはBYJU’Sのサービスを開始しました。
2020年、Byjuはインドで最も若いビリオネアとなりました。現在の資産価値は3.5 B USDと言われています。彼はBYJU’SのCEOとして、株式を25%所有しています。
Divya Gokulnath
1987年に腎臓学者の父とプログラミングエグゼクティブの母の元に生まれ、2007年にベンガルールにあるRV College of Engineeringでバイオテクノロジーを専攻しました。
大学院入学に必要なGRE(Graduate Record Examinations)対策中にByjuから勧められ、彼の授業を受講しました。それをきっかけにByjuと教育に惹かれ海外の大学院に進学はせず、インドに残り教育に携わることを決意しました。
BYJU’Sでは、授業を教えるかたわら、教育や理系分野における女性の参加についてなど様々なトピックについて執筆活動も行っています。また女性起業家としての苦悩についてイベントなどで登壇しています。
彼女はBYJU’Sの共同創業者で、現在はBYJU’Sのディレクターに就任しています。株式の4%ほどを所有しています。
サービスについて
BYJU’Sは自社提供サービスの充実のため、買収を繰り返してきました。
例えば自社サービスの中でも、新しい分野を補填するために、2019年1月にOsmoを買収しています。Osmoはアメリカのカリフォルニア州パロアルトにある教育ゲームメーカーで、現実世界とデジタル空間をつなぐ技術を持ち、3歳から8歳の子供向けのコンテンツも持っている会社です。
また2021年1月には、12歳までの子供を対象にした読書用のデジタルプラットフォームを提供するEpicも買収しています。
高学年の生徒へのサービスとしては2020年8月にムンバイにあるプログラミングのスタートアップ企業であるWhiteHat Jr.を買収しました。この会社は子どもたちにコーディングのスキルを教えることにフォーカスしています。同様に2021年12月にはオーストリアにある算数・数学用の学習ツールを提供するスタートアップも買収しています。
また高等教育や専門性の高い教育分野の強化のためにシンガポールに本社を置くGreat Learning社とテスト対策のプラットフォームを提供しているToppr社を2021年7月に買収しました。
BYJU’Sは今までの累計で19社を買収し、そのうち10社は2021年に買収しています。費用は2.4 B USDにのぼります。
下記がBYJU’Sによる買収先のリストです。
ここからはBYJU'Sの主要サービスをご紹介してきます。
サービス① BYJU’S FUTURE SCHOOL
対象:幼稚園から上級中等学校卒業まで
このサービスは子供たちにコーディングや算数・数学、音楽などの科目のプライベートレッスンを提供しています。1.1万人以上の教師が登録していて、21.1万人以上の生徒が利用しています。
サービス② Tynker
対象:幼稚園から上級中等学校卒業まで
Tynkerは学校向けのコーディング学習用のプラットフォームです。実際のコーディングで使用されるJavaScriptやPythonを使用する前の基礎固めなどを対話形式でストーリーベースの学習方式で提供してくれます。10万人以上の世界各国の学校で6000万人以上の生徒に使われています。
サービス③ ディズニー版BYJU’S Learning
対象年齢:幼稚園から小学校3年生
BYJU’Sの学習アプリ、ディズニー版は子供一人ひとりに合わせた学習を提供します。このサービスには2つの製品が含まれます
1つ目はディズニーキャラクターが3000以上の学習のためのアクティビティを提供してくれるアプリです。レッスン動画や物語を一緒に読んだりする機能などがあります。
2つ目がBYJU’Sマジックワークブックです。オンラインで習った内容を練習できるワークシートです。こちらにもディズニーのキャラクターが登場しています。
サービス④ Osmo
対象年齢:幼稚園から中学生まで
Osmoの特徴は現実世界とipadなどのタブレットを通じたデジタル空間を融合させたハイブリッドな体験型学習ゲームです。
サービス⑤ Epic
対象年齢:幼稚園から中学生まで
EpicはBYJU’Sの読書用のデジタルプラットフォームです。4万冊の本のデータ、オーディオブックや学習用動画が入っています。様々なトピックの本を扱っており、昔ながらの名作、Epicオリジナル作品などがあります。
また1人ひとりの興味やスキルからオススメの本を表示したり、読み上げ機能や単語を辞書で検索する機能なども提供しています。
サービス⑥ GeoGebra
対象年齢:上級中等学校生
GeoGebraは全ての教育レベルに対応した数学用の学習ソフトで幾何学や代数学などの数学分野に対応しています。数学の学習用ソフトウェアの分野で人気があり、理解分野の教育支援に加え、世界の教育や学習の分野でイノベーションを起こしています。
ビジネスモデルと成功要因
売上からみる3つの収益源
BYJU’Sの売上には、3種類あります。
1つ目はアプリ経由で入金される授業料です。ビジネスモデルはフリーミアムと言われるもので、無料期間(7日〜15日)があり、期間終了後に全てのコンテンツにアクセスしたい場合は有料になるというものです。
2つ目はオンラインコース(ストリーミングサービス)の収入です。
3つ目が最も大きな収入源であるタブレット端末の販売です。主にインドマーケットにおいて販売をしています。コースごとにタブレットがあり、ビデオやテスト、練習問題などが収録されています。
ターゲットにあわせたリッチなコンテンツ
BYJU’Sは幼稚園生から上級中等学校卒業まで、幅広い年齢層をターゲットにしているのも特徴ですが、はそれぞれの年齢層に合わせた高いクオリティのコンテンツを用意していることが特徴として挙げられます。低学年向けにはディズニーとコラボレーションしたりOsmoを買収したことにより、より参加型のゲーム体験に近い学習体験を提供しています。高学年は自分に合わせたカリキュラム設定などが魅力です。
またBYJU’S FUTURES SCHOOLでは、2人担任制を採用しています。基本的な学習スタイルとしてはオンラインのコースを学生は受講します。その後、担当の先生とオンラインやオフラインの練習問題を行い、定着をはかります。
現在国際的にビジネスを拡大しており、売上も伸びています。現在のターゲットは中東のマーケットで、その後北米やヨーロッパでも複数の言語で対応する予定です。
ブランド認知の強化
またBYJU’Sはブランド認知にも力を入れています。インド市場においてEdTechは年々競合との競争が厳しくなっているため、BYJU’Sは広告戦略として有名人のコラボレーションや学生の人生にポジティブな影響を与えていることなどをアピールしています。例えばインドの映画業界「ボリウッド」の俳優でスターのShah Rukh Khan氏がブランドの広告塔に選ばれています。
おわりに
BYJU’Sは教育格差が起きやすい農村地域などでも無料トライアルからコンテンツにアクセスできる気軽さから需要をつかみ、コロナ禍の追い風も経て大きく企業価値を伸ばしました。
EdTech市場が盛り上がりを見せる中、今後はオンラインとオフラインのハイブリット教育の中で、どのようにオンライン教育を浸透させるのか注目ですね。
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