vol.01 This is the beggining...都市と差別、電動スクーター、1.5メートルの可能性
2020/07/02 配信記事
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じとじとと煮え切らない天気が続く6月。
世界がこんなことになるなんて誰が予想しただろうか。
コロナウイルスの自粛期間が終わったとはいえ、第二波の噂もありなかなか動くに動けない日々が続いている。アメリカを中心に、世界の各都市で多くの人が構造的な差別と闘っているというのに、梅雨の日本にいる私たちは、無力さともどかしさの渦中で宙ぶらりんな気分だ。そんな私たちがこの1週間で考えていることを、ご紹介したい。
by Mariko
🎧 Podcast New Release
【#12】BLMの抗議運動、都市と人種差別について
https://anchor.fm/good-news-for-cities/episodes/12-efjcro
私が都市に惹かれる理由のひとつは、人混みと多様性のなかで、心地よい匿名性を味わえることだ。ヨーロッパに住んでいた頃は、アジア人女性として、道端でちょっとした差別の言葉をかけられたことが、少なからずあった。歩いていて居心地悪く感じるし、行く場所、行動の仕方に無意識に影響を及ぼしていたように思う。けれど、ロンドンやニューヨークなど多様性のある大都市に行くと、アジア人だからといって注目を浴びたりする機会もあまりない(もちろん地域や場所によるが)。それが心地よいと思っていた。
けれどどうやら、都市と差別は、無縁ではないようだ。
不平等や差別は、触れられない、目に見えない抽象的なものではない。都市空間の構造のなかに、それらは深く染み込んでいる。地域による教育レベルや雇用機会の格差。特定のネイバーフッドに付与されるスティグマ。安心して歩ける場所と、避けるべきストリート。「都市×人種差別」というテーマは、日本の友人とはあまり話したことがなかったけれど、一度きちんと意見を交換してみたいと思った。そういう意味での、今回のエピソードである。
👀 Good News of the Week
ニューヨーク市で、電動スクーター&自転車が合法化
日本ではまだ珍しいが、主に欧米の諸都市に最近行ったことがある人は、街のあちこちでシェア型電動スクーターや自転車を見たことがあると思う。BirdやLimeなどアメリカ生まれのサービスが代表格だが、新しい類似サービスも続々と登場しているようだ。私自身、海外に行くときは使用していたし、アプリひとつで借りれて乗り捨てられる手軽さと、自転車よりも速い&バイクよりも遅いスクーターのスピード感が、心地よいなとも思っていた。さて、こうしたシェア型電動スクーターと自転車の合法化を、ニューヨーク市議会が先週、正式に決定したという。正直、今までは合法ではなかったのか、と驚いてしまったが、サービスが登場してから、交通規制や安全性、マナーや乗り捨てなど、多くの街で賛否両論、数々の白熱した議論を繰り広げているようだ。Netflixのショートドキュメンタリー「Follow This」の第1話、「Scooter War」が導入としておすすめだ。スタートアップのスピード感と、都市の政策決定の速度との間にあるギャップを思い知らされる。自転車やバス、電車などと並んで、日本の街にシェア型電動スクーターが現れるのは、いつになるのだろうか。
1.5mの「間」を考える研究プロジェクト「Capacity 1.5」
- ロッテルダムを拠点とする建築家集団MVRDVがスタート
1.5m。コロナウイルスの登場により人と人との距離を1.5m取らなくてはいけなくなった今、都市や環境はどのように変わっていくのだろうか。MVRDVが、その1.5mの「間」の可能性を考えていく研究プロジェクト「Capacity 1.5: Explorations on Contactless Urbanism」をスタートさせた。youtube上でのビデオシリーズとして様々なテーマを考察していくというものだ。建物や環境を作るために基準となるのが人の身体のスケール感だ。それが1.5mまで広がった時に日々の暮らしや交通、道のデザイン...それらはどのように変わっていくべきなのだろうか。最初の8つのエピソード"The You(s)"では、パーソナルスペースの再考察と共にそれらが将来の地球にどのように影響を与えていくかを考えていくシリーズとなっている。(現在エピソード01まで公開中)
👭 Our Urban Diary
あなどれない「高尾」by Yukako
先日、友人に連れられ高尾に行ってきた。東京の西に位置し都心部から日帰りかつ初心者でも簡単に登ることができることでも人気の登山スポットだ。その高尾に「Taproom」という素敵な場所ができたという。ここは高尾ビールという高尾でマイクロブリュワリー(省スペースのビール醸造所)を始めた池田さんによるお店。その店は、のどかで正直栄えているとは言えない高尾駅の駅前のビルの二階にひっそりとあった。高尾ビールはもちろん美味しかったのだが、面白かったのがそこに来るお客さんたち。高尾に住んでいるとは思えないほど(失礼...)おしゃれな若者夫婦がやってきてなにやらそれぞれ生ビールをお土産に買って帰ったり、マイボトルを持ってきてビールを持って帰るスーツのおじさま。どの人も近所に住み仕事帰りに立ち寄って池田さんと少し会話をして帰っていく。まさかこんな場所にこんなあたたかいコミュニティが広がり始めているだなんて想像もしていなかった。鎌倉や逗子に面白い人たちが集まっていくように、東京の周縁の地域でのライフスタイルが今後人々を惹きつけていくかもしれない、そんな予感を感じさせる素敵な場所だった。
フランス人建築家が京都につくる空間 by Mariko
先日、知人の紹介で、フランス人の建築家チーム「2M26」が京都で改修した家に足を運んできた。築100年の民家。朽ちて穴の開いた天井に、前の住民の持ち物などが散乱した改修前の写真を見せてもらった。現場で寝泊りをしながら、6ヶ月ほどかけて、自分たちで改修したという。京都の職人や個人商店と少しずつ関係を築きながら、日本の伝統的な建築技法や素材を学んだようだ。コンクリート打ちっぱなしの床に、古民家らしい剥き出しの天井裏が映える、いつまでも居たくなる空間だった。彼らは、建築だけでなく、アートによる実験的な実践も行っている。例えば、手作りの家具を徒歩で運びながら、東京やニューヨークを横断するパフォーマンス「CROSSINGS」では、歩道などの公共空間にベッドや机などのパーソナルなアイテムと自分を投入することで、見える街の姿を切り取る。道路や広場などの公共の場にベッドを広げて、毎晩外で寝ていたというから驚きだ。工事現場に寝泊りしたり、人通りの多い広場で眠ってみたり、あえて”居心地の悪い”状況に身を投じること。そして、人と関係性を築きながら、時間をかけてつくること。そんなことを2人から学び、背筋が伸びた。
「The Urbanist」で都市の動向を学ぶ by Mariko
米国メディア「The Urbanist」を読み始めたのは、いつ頃からだったか。2018年にシアトルに足を運んだ時、そこが「The Urbanist」の本拠地であることを知った。都市に関するさまざまなニュースを取り扱うほか、定期的に学びのためのイベントやワークショップを開催していて、私も滞在中、シアトルのウォーターフロント開発について学ぶツアーや、アフォーダブル・ハウジングについてのツアーなど、彼らが運営する「The Urbanist Tour」によく顔を出していた。ツアーの度、「The Urbanist」で活動するライターや編集者に会うことができて、彼らの都市に対する情熱と知識、経験に、くらくらしてしまったのを覚えている。シアトルを離れてからも定期的に「The Urbanist」に目を通すようにしていて、特に、編集部が毎週ピックアップする都市に関する記事をまとめた「WHAT WE'RE READING」が良い。コロナ禍、主に米国の交通事情や住宅に関するニュースなどがまとめられていて、都市に関する動向をさっと把握するのに便利だ。
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次回の配信もお楽しみに。
石川由佳子 / アーバン・プロジェクト・ディレクター(WEB/instagram)
杉田真理子 / 編集者・リサーチャー(WEB/instagram)