見出し画像

10月の自選10首を選んでみるのだよ!

 もう1か月経ったことに驚きが隠せない俺である。
 どうも、11月もまもなく半ばに差し掛かる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。俺は先日レトルトカレーの賞味期限を切らしたことに動揺しています。みなさまもローリングストックの期限の確認は定期的になされますよう。
 そんなことはどうでもいいのだ、よくはないけど。
 先月の自選は5首だったのだが、今月は気に入っているものも、そもそもの母数も多いので、自選10首を紹介したいと思う。先月よりちょっと長めであるが、俺の道楽短歌紹介に少しお付き合いいただきたい。


会いたくて会いたくて我が生魑魅お前ばかりが夢を渡って

 RIUM(短歌のお題)様のお題「初句 会いたくて」で詠んだもの。
 生魑魅(いき‐すだま)というのは、生霊のことである。
 古い日本の考えでは、相手を思って眠りにつくと相手の夢に出られるらしい。相手のことを思って眠れば、自分の生霊は相手に触れられるのに、生身の自分はと言えば夢にも出てきてもらえないし、無論この手で相手に触れることもできない。
 愛しい人を思うあまりに、自分の生霊ですら憎らしく思えてしまうような、押し殺しに押し殺して歪みゆく恋の歌だ。

『可愛い』は会うたびに言ういつの日か君を彼氏に取られちゃうまで

 「単語で短歌」様の「デート」というお題で詠んだもの。
 幼馴染が、とても可愛くなったのだ。
 可愛くなっただけならまだなんと言う権利もないが、女の子に、なった。
 小学生の頃から知っている、ちょっと今思うと幼さゆえにひどいことをしたこともある、その時にしか共有できない美しいものを知るすべもなく共有した幼馴染が、女の子になってしまった。
 しかし友情というものはそう簡単に衰えるものではなく、多くの女の子同士がそう称するように、ふたりで出かけることを遊び半分にデートと呼ぶ。
 恋愛というのは本当にむごい事象で、長年積み重ねた友情を張り飛ばして君臨する関係性の王者であり、多くの場合、それに許されざる間柄の属性に属していたが最後、微笑んで祝福し、何事かあった暁には快く話を聞くしかない。
 ああひどい。可愛いね。ひどいね。

長すぎる昼寝をしてる駅前のロータリ広場でダイヤを恨む

 「単語で短歌」様のお題「駅」で詠んだもの。
 しょっぱなから重たいやつを挙げてしまったので、のどかなやつをここでひとつ。俺の故郷は絵に描いたような田舎の駅があり、そもそも1時間に2,3本のバスが、お昼ごろは昼休みとでも言わんばかりに1時間以上来ない。
 大体、田舎の駅は辺鄙なところにあって、お店からも遠ければ家からも遠いのだが、さすがに1時間となると待つには長い。とはいっても、お昼真っ最中の親を駅まで呼び出すのも憚られたり、仕事中だったりして、結局家までてくてくと歩いて帰る羽目になるのである。それはそれで悪くないのだが、あのダイヤどうにかならんのだろうか。

「出入」から残すとしたら「入」だろう放送室を出禁になった

 「短歌マガジン」様の一文字お題「禁」で詠んだもの。
 小学生の頃、放送委員会が給食の時間にする「お昼のラジオ」というものがあった。他の委員会がコーナーを持っていたり、先生が告知に来たりする、結構本格的なものである。俺が5年生の頃、6年生が修学旅行でおらず、放送委員の俺ひとりでそれを仕切ることになったのだが、読み間違いか何かでゲストを爆笑させてしまい、それがすべて放送に乗るという放送事故を起こした。放送委員会の恐ろしい顧問に怒られたくない一心で謝罪の一文で放送を締めくくったのだが、当時10歳の俺はまたとんちんかんなことを言ってしまったらしい。
 その週の委員会から10年間、放送室の出禁が解けていない。

白魚の指と指輪の隙間からあの子は彼のイニシャルきらり

 RIUM(短歌のお題)様と毎日短歌様のコラボ企画、「 #画像で短歌 」で詠んだもの。
 午後の授業の、石を投げればカップルに当たる教室で、隣には2個上の先輩と同棲してる華奢な女の子の同級生がいて、最近吸い始めたっていうアイコスのメンソールの残り香がいやに鼻について、真っ白な首になんか小指の爪ぐらいのあざがあって、右手の薬指のぶかぶかのリングが机に当たる音が変によく聞こえるわけです。
 本当にいい加減にしてほしい。

雨の日に人魚を拾う予定です。/風呂トイレ別でお願いします。

 「単語で短歌」様のお題「魚」で詠んだもの。
 あなたの人魚はどこから?俺は夢枕獏の「陰陽師」の「白比丘尼」から。
 日本的な人魚のモチーフは、魚が強く、簡単に言ってしまえば醜いものである印象が強い。人魚を食べて不死身になった人間の方は美しいことが多いが。
 最近の創作でよく出てくる、「美しく、食べると不死身になる」人魚はどこから出てきたものか分からないが、極めて日本的で好きだ。

微笑みを大丈夫ってルビを振りまた密やかに緩やかに死ぬ

 「単語で短歌」様のお題「死」で詠んだもの。
 改めて見ると、上の句の助詞の収まりが悪い。推敲することを覚えて5年と経たないので、もにゅもにゅ仕切らないうちにアウトプットしてしまったやつだろう。
 初めて、作り笑いをしてみたときのことを実は覚えている。保育園の年中か年長さんぐらいだったはずだ。洗面所の鏡に向かってニコっとしてみたのだが、写真の中のとてもかわいい俺はどこにもおらず、これを毎日やり合わなくてはならない大人は大変だと思ったものだ。
 いまや、定刻にタイムカードを切るまでのわずかな時間に、今日来た腹立たしい客のことや、珍妙な事象の話を聞くときに浮かべる笑いが、本物なのか作りものなのかすらよくわからない。
 

黄緑のキャメルの5ミリの色にした100円ライター君に貸す用

 RIUM(短歌のお題)様の「連想短歌 火」というお題で詠んだもの。
 妹と呼んでかわいがっていた後輩がいるのだが、とても人当たりの良い子で、「いい子ぶってる」といじめられてから心を病んでしまうようになった。
 俺が上京してからは連絡も特に取ることはなくなっていたのだが、どうやら自由の利く高校に進んで、事務系の就職を得、更に幼馴染を彼氏とし、楽しそうにしていたので、にいちゃんはひとつ胸をなでおろした次第である。
 煙草は褒められたもんじゃないけど、ちゃんと隠れてやるなら何も言わない。君が生きていてくれてうれしいよ。

カーテンのない窓があり青色のエンドロールで夜が明けていく

 こちらは、俺の絶望の歌である。
 「短歌マガジン」様の「一字題 『明』」で詠んだもの。
 よく眠りよく食べるもちもちボディにくりくりおめめで評判のわたくしだが、去年の冬に体調をメキャメキャに崩してより、時折寝つきがひどく悪い日がある。大体は身体が疲れている日なのでたちが悪い。
 波打ち際で、浅い覚醒の波が絶えず寄せては返し、身体が冷える。
 夏目球の朧げな橙色の照らす部屋が、ある時を境に寒色に傾いていき、カーテンのない、嵌め殺しの窓から青色の帯が差し込んでくることを知覚する瞬間の淡い淡い絶望を、できるだけ詩的にすくいあげたつもりだ。
 なんだってあんなに、美しい青で夜が明けていくんだろうな。

生活は続くセブンの春巻きを胸ポケットにそっとねじ込む

 「単語で短歌」様のお題「コンビニ」で詠んだもの。
 父がセブンイレブン党で、コンビニはもっぱらセブンイレブンである。
 どういうわけか、父は中華まんや唐揚げなどより五目春巻が好きで、ホットスナックと言えば春巻きだった。食事で春巻きが出る家ではなかったので、春巻きを見ると、俺の迎えの時間までに現場が終わらなかったからと学校帰りに肌寒い新築未満の家に連れて来られ、おしゃれ住宅の配線と格闘する父親と同僚を見ながら食べた五目春巻を思い出す。
 非常に分からん思い出である。

 以上で10月の自選10首である。
 あんまり短歌の話をしている気がしなかったように思ったりなんだりだが、割合いろんな風味の短歌が詠めているようでうれしい。11月もあれやこれやと詠んでいるので、またこうやってご紹介できればと思っている。

いいなと思ったら応援しよう!