![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/130715365/rectangle_large_type_2_35c093f5565dbd3b0158c94c46c2d2fa.jpeg?width=1200)
今夜も召し上がれ 横着者のちゃんちゃん焼き
第20夜 横着者のちゃんちゃん焼き
味噌を買うか迷っている。
近所のスーパーである。
俺はほぼ毎日自炊はするが、なにぶん寿命が減るほど忙しい時期があったり、気に入ったメニューをしばらく作り続けたりするので、味噌が傷まないうちに食べ終える自信がない。
コーナーを見回しても、味噌というものは結構な量で売られているものばかりだ。
なにせ、忙しさのあまり冷蔵庫の中に放置したチーズが液体になっていたことのある俺だ。食材を無駄にせずに済むのなら、それ以上のことはない。
今は、お湯を注ぐだけのインスタント味噌汁も売っているし。
そんなことを考えながら、調味料売り場を抜けて、鮮魚コーナーに向かう。
今日は魚のポイント10倍デーらしい。音割れしたラジカセがしきりに魚を勧めてくる。
独り暮らしをすると、魚を食べなくなるらしい。
ときどき安くなっていた切り身を焼いたり、自分への労いに寿司を回したりはするが、確かに、給食があった小中学生の頃は、基本的に週1回は魚の日があったことを考えれば、魚を食べなくなったともいえる。
給食の魚と言えば、年々小さくなっていった西京焼きや、ついぞ何の魚なのか分からないままだった白身魚のフライが懐かしい。
今日は給食で食べた魚にしよう。
本日の夕飯は、鮭のちゃんちゃん焼きにきまりである。
我が城の、猫の額のような台所の、雀の涙ほどの収納スペースに買ってきたものをしまい終えたら、手を洗って、料理開始だ。
まずは袋ごともやしを洗う。玉ねぎの皮を剥き、キッチンバサミで細切りにしたら、次は鮭の下準備だ。
二切れの鮭にぱっぱと塩を振り、少し置いてからキッチンペーパーで水気を取る。
そうしたら、皮目を下に火をつけたフライパンにそっと入れてやる。
弱めの中火で焼き目をつけたら、裏返して身にも焼き色を付ける。
全体に加熱された色に変わったら、さっき用意した野菜だ。
本当は、キャベツやらしめじやらも入れるらしいのだが、あいにく俺は包丁を持っていない。葉物野菜や根菜は多くが扱いにくいのでパスである。キノコは、俺の母親が馬鹿みたいにデカいなめこの取れる農場でパートをしていた時に、来世の分まで食べた。
とはいえ、玉ねぎとモヤシだけではあんまりなので、冷凍ほうれん草を足して、蓋をして蒸し焼きだ。
蒸し焼きにしている間に、今回の横着者ポイントである。
給食で出たちゃんちゃん焼きは味噌味だったが、この城には味噌がない。
そこで、インスタントの味噌汁だ。
一袋を砂糖少々と混ぜて、本当はみりんと料理酒で溶きたいのだが、ないので水道水で少し薄める。多少わかめが入っているが、まあ見た目似たようなほうれん草も入れてるし大丈夫だろ。うん。
蓋の隙間から湯気が出てきたら、味噌だれを回しいれて、野菜になじむまでもうひと煮立ちさせれば、横着者のちゃんちゃん焼きが完成である。
俺は胡椒が好きなので、仕上げに黒胡椒をぱっぱとやって、スーパーに行くまでにらめっこしていたノートパソコンをどかし、鍋敷きにしているキルトのミトンとフライパンを置く。
ちょうどよくご飯の解凍も終わり、夕飯の支度が整った。
横着者が美味いもんを食べたがったっていいじゃないか。
「いただきます」