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気が向いたので9月に詠んだ短歌の自選をするのだよ!

 ええ、読んで字のごとくです。もう10月も中旬を名乗れるのに。
 ありがたいことに、俺の垂れ流す三十一文字にぽつぽつと、短歌をなさる方の目に届くものが出てきたらしい。秋の物書き日和に乗じて、軽率に調子に乗って自我を出していこうと思う。
 保険をかけるわけではないが、短歌について特別に勉強をしているわけではないし、文字を手のひらの中でもにゅもにゅする趣味の範疇は出ない。だが、この頃は割合気に入った形のまま無理なく取り出すことができるようになってきた気がしている。
 ではここから、5首とそれについての余談を。


まあ君に届くことなど一回もなかったとしても声を枯らして、

 「単語で短歌」のお題「歌」で詠んだものだ。
 高校時代、実は部活のバンドでギターボーカルをやっていた。歌は好きだしどっちかというと上手いにギリギリ入ると思うが、なにぶん声がよくない、特に低音が全然駄目だと評判(?)だったし、ギターの方はと言えばほぼ弾けるというだけだった。どうあがいたって青春物は始まらない。
 文化祭が近くなって、俺は当時の片恋の相手にライブに来てくれないかと誘ってみたが、行けたら行くねと言われてそれきりだった。
 なのに俺の動画が(しかも盗撮が)(しかも俺のいない)クラスラインで回り、この1年の上達のしなさ加減を笑いものにされているのだ。本当にひどい。
 けれど、精いっぱいに歌ったことも、そのラブソングに想っていた相手を重ねていたことも本当なので、後悔は何もない。
 なんにも、たぶん、全然、ほとんど。

ジュースでも買っといでって大叔母にもうない店を教わっている

 「短歌マガジン」の毎日短歌「つづくもの」という題で詠んだもの。
 俺は一族のアイドルとして育ったので、血族のおじいおばあから可愛がられることが多い。なかでも、俺の父親を可愛がって育てた世代のひとからしてみると、可愛さもニ倍といったところなのだろう。つまりひいおばあちゃん世代の可愛いちゃん。
 なぜひいおじいちゃんを言わなかったかというと、ほどんとが鬼籍に入っているからだ。そして元気に長生きしているひいおばあちゃんも、もうベテラン後期高齢者。俺を見ていつの俺を可愛がっているのか、俺の父親を可愛がっているのか、それともほかの可愛いちゃんなのか、正直判断に困ることも多い。
 けれども俺は、一族のアイドルのベテランなので、可愛いちゃんと思ってくれるひとのいる限りは可愛いちゃんを全うするつもりでいる。

帰りたい帰りたくないばあちゃんはもう父の名で俺を見ている

 これも「短歌マガジン」の、お題「老」で詠んだもの。
 一族のアイドルをやっていると避けられないのがこれだ。特に、同居が長い家族からのこれは堪える。
 俺は今家を出ていて長期休みにしか帰らないし、家を出てから服装の趣味が変わったり、金髪になったりもしている。そして、幼い頃の父親に歩き方も顔つきもそっくりらしい。
 片や父親は、遅くまで仕事をし、たまの休みは風呂で煮込まれている時間が長く、なによりもでかい。高校時代に急激に伸びたそうで、縦は190㎝くらい、横も相応しくあるので、ひいばあちゃんからしたら知らん壁ぐらいの扱いを受けている可能性がある。
 辛い。俺はもちろん、父ちゃんもおそらく、とても。

涙止めのチュッパチャプスの頓服がまた必要になる月曜日

 暗い歌詠むのが好きなんだろうか。
 「単語で短歌」の「泣く」で詠んだ歌。
 これは俺が泣くほど月曜日が憂鬱だったわけではなくて、不得意な作業でミスを連発し、日曜夜にリベンジ夜更かしをする社会人の親友を見ていて、大学の課題が辛すぎてメキャメキャになっていた俺自身のことを思い出したというちょっとややこしい経緯がある。
 割と、結構、かなり、本当に綱渡りだった。
 俺のツボのはずの、お笑いの、それもハイテンションな歌ネタ動画を見ては泣き、シュールギャグ系のエッセイを読んでは泣きといった状態で、人型を保つためによく口にしていたのがチュッパチャプスのプリン味と、キリンのファイアの缶コーヒーだった。
 その頃に買い込んですっかり「泣いた」チュッパチャプスが、まだ鞄の中から出てくる。

雨傘を風呂場に干して雨粒は電球色の星の光だ

 今度はちょっと明るいやつ。
 これもまた「短歌マガジン」の一文字お題「傘」から。
 2回も雨なんちゃらと言っているのがスマートでないのだが、それを抜きにしても気に入っているので挙げておく。
 俺の傘は、マジックアワーのような紫から群青のグラデーションの、透明なビニール傘だ。こんなにきれいなのに、西友で400円だった。
 ただ、これがまあよくくっつく。畳んだ状態で乾いてしまうと次に開くのが億劫なほど。俺の風呂場は物干し場の機能を備えているので、雨の降った日の夜はそこへ広げて下げ、乾かしておく。
 すると、まるでどこかの田舎から宵の口の空をちょっと剥がして持ってきたかのような景色が楽しめるのだ。
 いやに黄色い浴室の照明は、たぶんこのときに水滴を星のように光らせるためにこの色なのだろうと思う。

 以上、9月の自選5首でした。
 背景の話をするとまた違ったご覧になれ方ができると思う。
 10月はもう、結構気に入っている短歌があるので、ぜひ日本語もにゅもにゅ短歌の自選(10月)を楽しみにしていただきたい。
 あと気が向いたら、俺の好きな短歌とかご飯日記とかをこっそり教えてください。

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