【小説】隔たる日々を折りたたむ中【約25000字】
〈1〉
月のない夜、憧れのような視線を空に送る。
冷えた空気は鋭く澄んでいるのに星ひとつ見えない。
都会の夜空はいつ見ても寂しいな、と遥は思った。視線を落とすと、星の見えない寂しさを覆い隠すような色とりどりのイルミネーションが目に入り、遥は思わず目を細めた。
等間隔で植えられたイチョウの木は、秋に赤や黄色の葉を落としたあと、今は緩やかに青白い光を纏っている。その不規則な光の中を、遥はコートのポケットに手を入れて歩く。
2年前のセールで買ったアッシュグレーの厚手のコート