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佐藤仁志の小説

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僕が書いた小説をまとめました。頑張ってたくさん増えていくといいなー。
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#在宅介護

『甘い生活』(1-3・3)

 たとえば、この手。  今、夫の身体を横向きに倒し、支えながらもう一方で尻に付着した便を拭き取るこの手。  週に二度、入浴介助のヘルパーが来る日の他は、毎日温かく湿らせたタオルで夫の首や腋や隠部を拭く、この手。  または、一人暮らしの恋人のためにハンバーグを捏ねるこの手。彼の髪を撫でる時の、この手。  信じられないような多くの役割を持つからこそ、この手には意味があるのだ、と奈緒は思う。恋人の、まだ二十歳になったばかりだと言う彼の手が驚くほど滑らかで、奈緒は思わず手を引っ込