web3×地方創生×障害当事者/文化を守る、社会を紡ぐ「蚕都Grants」訪問レポート
Good Job!センター香芝が取り組むNFTプロジェクト「Good Job! Digital Factory」。2023年春から、アートとデジタルの力で、障害のある人とともに、社会に新しい仕事・文化をつくることをめざすNFTプロジェクトに取り組んでいます。
NFTの事例を調べていくなかで、Good Job! Digital FactoryのCo-founderのミズさんに教えてもらったのが、京都府綾部市を拠点に活動する、蚕都Grantsです。
デジタルテクノロジー、web3で、精神・発達障害のある人たちの一人ひとりの特性をいかした仕事づくりをしていこうとしていること、そして、名前にもあるように、養蚕の文化を守る活動をしていこうとしている人たちがいることを知り、驚きました。
実は、Good Job!センター香芝でも、お蚕さんを育てながら養蚕の歴史や文化、食などを楽しみながら学ぶ「お蚕さんプロジェクト」にも取り組んでいます。2018年からは、毎年、5月〜6月に500〜1,000頭のお蚕さんを育ててきました。
https://www.instagram.com/gjkaiko/
これまでお蚕さんを育てながら、蚕や絹について本や展覧会などで学んだり、絹や養蚕の研究所を訪問したり、桑茶をつくったり、絹糸を挽くワークショップを行ったり。自分たちも学びながら、関心のある人と交流をしてきました。しかし、これまで実際に養蚕に取り組んでいる障害のある人や福祉の現場の人たちとの交流はありませんでした。
今回、当事者の方たちがどのようにweb3に取り組んでいるのか、また養蚕文化の活動をどのように行っていくのかを学ばせてもらいに、Good Job!センターでお蚕さんに取り組むメンバーの藤岡さん、山本さん、スタッフの松本さん、森下、そして蚕都Grantsの応援者でもあるミズさんと一緒に綾部市を訪問しました。
この日、迎えてくれたのは、蚕都Grants代表の久馬憲さんと、デザインや編集なども行うきのさん。蚕都Grantsのオフィスが入居するピースビルで、久馬さんからお話を伺いました。
精神・発達障害者への理解を深めたい
久馬さん:僕たちのプロジェクトの背景にあるのは、障害のある人が抱える生きづらさです。精神・発達障害者は離職率が高く、全国調査では半分くらいの方が3年以内にやめていくという結果もある。僕は離職の原因の一つには、経済効率優先の価値観があると思っています。既存の経済的な価値観だけでみると、障害のある人はどうしても、弱者になってしまう。さらに何が原因かを探っていくと、地域社会のなかでの、精神・発達障害者への理解が不足しているということがあります。
そこで、『Picky』という雑誌を発行したり、養蚕の文化に着目したりしてきました。『Picky』は、当事者がつくる発達障害者情報マガジンで、10月に創刊しました。
https://pickymagazine.studio.site/
当事者に向けた記事だけではなく、一般の人、障害に関心のない人にも手に取ってもらえるように読みやすい内容にし、お店に置いた時に手に取ってもらいやすいデザインを意識し、紙質にもこだわりました。1000冊つくり、1カ月でほぼ綾部市のなかで配布しました。ほかにも、全国から取り寄せの連絡をもらって送ったりもしました。
6月にクラファンにも挑戦し190人から、2,705,000円が集まり、『Picky』はその一部で創刊できたのですが、きのさんが独学でIndesign(冊子をつくることができるDTPソフトウェア)を勉強して、はじめて雑誌をデザインしました。クラファンには、きのさんのデザインや編集にかかわる人件費も含まれています。得意なことをいかして、社会貢献につながっているモデルケースの一つだと思います。
蚕都を障害のある人と復活させる
今、社会全体で高齢化が進み、人口も減っている。そうしたときに、定住者や移住者を呼びこむときにも、支援してくれる人を増やすにも、地域の魅力が必要です。特色ある文化を保護することは、地域のアイデンティティにつながる。綾部は、かつて「蚕都(さんと)」とよばれるほど、養蚕がさかんでした。グンゼ発祥の地でもあり、繊維工業を中心に栄えた歴史があります。地方創生×NFTで有名な山古志の錦鯉のように、僕たちにはお蚕さんがある。
しかし、現在では、養蚕に取り組むのは1軒のみになりました。綾部の魅力として蚕都を取り戻し、そこに障害当事者が関わり、新しい福祉がみえてきたら、そこに関心を持ってくれる人も増えてくるのではと思っています。
今、もともと僕のおじいさんの家で、空き家になっていた養蚕農家だった古民家の改修も行っています。改修をはじめてみるといろんな発見もあって。天井の四隅と床にスライド式の戸があったのですが、調べてみると、かつて床には炉があって、蚕を育てるためにあたたかい空気を上昇させていた。こうした炉のようなかつての養蚕農家の建築を復元することもめざしながら、改修をすすめています。
空き家問題は、全国的な空き家は全国的な課題で、ほおっておくのではなく、利活用し、地域によいかたちで使いたい。復活したら、養蚕のワークショップにも使えるし、あいているときにはレンタルスペースとして活用してもらうこともできると思っています。
第1弾のNFTアートを販売
11月にNFTアートSanto Membership Pass、略してSMPを販売して、2名の方に購入いただきました。第1弾のアートはうちのメンバーの作品です。もともと、自分でデジタルアートを描いてNFTとして販売していたけれども、セルフプロデュースが難しくて、SNS疲れで気落ちしてしまった。今回は、仲介をうちがやるから描いてみてくれということで、発行することになりました。
1カ月ごとに1アーティストの作品、同じものを10枚を発行する。こうした作品としては、少し高額に設定していますが、逆にこれを購入してくれるのはコアなかかわりをもってくれる人になる。そうした人たちをキャッチしていきたいという思いもあります。来月、再来月と続いていきますが、今後は地元にゆかりのある障害当事者アーティストにもお願いしようと思っています。
ユーティリティとしては、ガバナンストークンへの付与、リアルな場面では養蚕WSへの参加や古民家での宿泊なども考えています。『Picky』も発刊毎に送付します。
デジタル上でも、非デジタル上でも、どちらにもユーティリティがあるというパスになっている。ゆくゆくは、福祉系のDAOをつくって、今の経済では守れないものを守ることができるコミュニティをつくっていきたい。
そして、自分たちだけで完結するのではなく、みんなが当事者になれる社会をつくっていきたいと思っています。社会を変えるというよりは、新しい社会をつくるイメージ。それがきっと、既存の社会にも影響を及ぼすと思っています。
久馬さんのお話のあとは質疑応答の時間に。
Q:養蚕はたくさんやることがありますが、どんなふうに人がかかわりますか。
久馬さん:コアとなるところでは、自分たちが行うけれども、入れ替わり立ち替わり、いろんな人がきてくれたらいいなと思っています。当事者の方の中には定時でフルタイムで働くということ自体ハードルが高いと感じる方もおられるので短時間でもいいので一緒に楽しく作業ができる時間がつくれたらいいと思っています。
Q:何がきっかけで、web3とか、NFTに関心をもったのですか。
久馬さん: 元々、社会学やポスト資本主義的な発想や思想には強い関心がありました。それからメタバースを使った就労支援にも関心があったり、Next Commons Labの林篤志さんや日本のweb3リーダーとも言える伊藤穣一さんの発信される情報に触れて、福祉とも相性がよさそうで、自分でもやってみたいと思ったのがきっかけです。今の社会とは別の、生きやすいコミュニティがつくれるんじゃないかと関心をもって取り組むことにしました。
養蚕文化を伝える古民家
その後、久馬さんときのさんに案内してもらい、改修中の久馬さんのおじいさんのもちものだったという古民家を見学に。オフィスからは車で20分ほど、うつくしい里山の風景のなかを通って到着しました。中に入り、養蚕を行っていたという特徴的な床や天井などを説明していただき、メンバーもスタッフもはじめてのことに興味深々でした。床を張り替えたり、引き戸などの建具を整えたり……そうした改修の一つひとつも自分たちで行っているとのこと。
来年春には改修工事が終わるとのこと。できれば、お蚕さんを育てている時期にメンバーと一緒に訪問できたらと思います。
メンバー&スタッフレポート
・藤岡さん:お話をきいて印象に残ったのは、「自分たちの課題を自分たちで解決する」「自分たちだけがよくなるのではなく、地域全体に利益のやることをやろう」です。現在の社会福祉の制度では働くことが難しい障害のある方でも、働ける仕組み(NFTアートや養蚕、DAO構築など)を準備して働いてもらう、さらには経済的自立ができるようにしたいと久馬さんはおしゃっていました。経済的自立は自分も目標としていることなので、とても大事な取り組みだなと思いました。
さらには、自分たちの環境が良くなるだけではなく、蚕都の復興や古民家の活用など、綾部の地域社会全体が潤う活動をしたいと話されていました。私は忙しかったり、やることがあったりすると、つい自分のことばかり考えてしまうので、人のために、社会のためにと行動できるのはすごいなあともいました。
お話を聞かせていただいたあと、改修中の古民家も案内していただきました。建物の屋根にはたくさんの柱が組まれていたり、部屋の天井には養蚕のための小窓が付いていたり、見ているだけでワクワクする場所でした。来年の4月には改修を終えて、養蚕がスタートするとのことなので、始まったらそのようすを拝見したいと思いました。
・山本さん:NFTによる新しい文化の作り方や、古民家を改修して蚕を飼育するための施設づくりなど、さまざまな取り組みを行っていたのがわかりました。また、自閉症を持つ人の社会で生きる力や自立への可能性を生み出す目標を目指しているのがとてもよかったです。今回の京都研修はとてもいい経験になりました。
・松本:綾部という地域にアイデンティティとしての養蚕や蚕というキーワードがあって、実際に古民家にお邪魔することで、そのキーワードにまつわる物語や歴史が感じられてとても魅力的です。蚕棚を立てるために梁の部分に掘られたほぞ穴、床下の蚕専用の暖房など、見るだけでそこにお蚕さんと暮らしていた様子が想像できてわくわくします。グンゼをはじめとした地元の企業や人々が徐々に興味を持って、蚕都Grantsさんと関わりが出来ているのも、自分たちの地域や歴史を大切にしながら発信しておられるからだろうなと思います。久馬さんが綾部にも香芝にも山越にも、関係人口をシェアすることで地域の活性化にとおっしゃられていた部分。GJ!センターや香芝という地域も大切に伝えたい部分は何だろうと、改めて見つめなおして話し合うきっかけにしたいと感じました。
web3と養蚕という日本古来の伝統文化。まったく違うことのように思われるだろうし、どちらも障害のある人が取り組むとは想像されないことかもしれません。
でも、どちらも一人ひとりの個性や得意なことをいかしたり、はたらきがいややりがい、何に時間を使いたいかといった視点から考えると、そこには障害のあるなしは関係はないだろうと思います。
そこに、関心をベースとしたコミュニティが生まれていくという点においてもです。
web3の視点からも、養蚕への取り組みからも、今後も交流し、学ばせていただきたいなと思います。
この日、『Picky』のほかに、お蚕さんをモチーフとしたステッカーや桑の木でつくったという、かわいいキーホルダーをおみやげでいただきました。
久馬さん、きのさん、貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
(レポート:森下静香)
12月11日(月)21時から 「蚕都Grantsさんにweb3×障害当事者で実現したいことをきく」を開催
今回訪問を受けてくれた、久馬さん、きのさんに、あらためて蚕都Grantsの取り組み、そしてこれからの展望をお聞きします。後日、公式Xにてスペースのご案内をします!
https://twitter.com/gjnft_official
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