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歯医者が考えるウズラの卵事件。


食材の形状変更だけでなく「よく噛む」ことの大切さ

ウズラの卵事件は、私たちに多くの教訓を残しました。尊い命が失われたことに、心より哀悼の意を表します。この悲劇を受けて、学校では食材の形状や給食の管理方法を見直す動きが広がっています。しかし、歯科医としては、これに加えて「よく噛む」ことの重要性を改めて訴えたいと思います。噛むことがもたらす安全面や健康面の効果について考えてみましょう。

食形態の変更とその限界

事件を受けて、学校は窒息リスクの高い食材を避けたり、形状を変更したりする対策を講じています。これは確かに必要な対策ですが、それだけで窒息事故のリスクを完全に排除することは難しいといえます。食形態の変更は「対症療法」であり、根本的なリスクを取り除くわけではありません。

たとえば、食材を小さく切ったり、柔らかくすることは、喉に詰まりにくくするための一時的な解決策に過ぎません。小さくなった食材でも、噛まずに飲み込む習慣があれば、誤嚥(ごえん)や窒息のリスクは依然として残ります。そのため、「噛む習慣」を育てることこそが、根本的な解決策の一つとなるのです。

噛むことの多面的な効果

噛むことには、以下のような多くの効果があります。

  1. 食物の細分化と唾液の分泌
    噛むことで食物が細かく分解され、飲み込みやすくなります。また、唾液の分泌が促進されることで、食物が口の中で滑らかになり、消化がスムーズになります。これにより、誤嚥や窒息のリスクが減少します。

  2. 消化吸収の向上
    よく噛むことで、消化酵素が含まれる唾液と食物が十分に混ざり合い、消化が効率的に進みます。これは、子どもたちの栄養吸収を促進し、健康な成長を支えることにも繋がります。

  3. 口腔機能の発達
    噛むことで、顎や歯の発達が促されます。適切な噛み合わせが形成されることで、将来の歯並びの改善や噛む力の強化に寄与します。噛む習慣が不足すると、顎の発達が不十分となり、歯列不正などの原因となることもあります。

  4. 認知機能の向上
    近年の研究では、噛むことが脳の認知機能の向上にも寄与することが示されています。しっかりと噛むことで、脳への血流が増加し、注意力や集中力の改善が期待されます。

学校と家庭でできる具体的な取り組み

では、具体的にどのように「よく噛むこと」を促進できるでしょうか?以下のような取り組みが考えられます。

  1. 給食時間での啓発活動
    学校の給食時間を使って、「一口ごとに20〜30回噛む」ことを習慣化するための指導を行うことが有効です。具体的には、各クラスで「噛むことを意識する日」を設定し、その日には特別なポスターを掲示したり、教師が直接指導したりすることが考えられます。

  2. 噛む力を鍛える遊びや運動
    学校や家庭で、ガムを使った噛むトレーニングや、噛む力を鍛えるための楽しいゲームを導入することも効果的です。また、口の筋肉を使う運動や、よく噛むことを意識した料理(例えば、硬い野菜を少し柔らかく煮る)を提供することで、子どもたちに自然と噛む習慣を身につけさせることができます。

  3. 家庭での意識づけ
    家庭でも、食事の際に「ゆっくり食べる」「よく噛む」ことを意識するよう子どもに伝えることが大切です。例えば、家族全員で「何回噛むか」をゲーム感覚で競い合うなど、楽しみながら意識づけを行う工夫が求められます。

食材の形状変更と噛む習慣のバランス

食材の形状変更と噛む習慣を両立させることが、最も効果的な安全対策です。特に、成長期の子どもたちにとって、噛む力を育てることは将来の健康につながります。食材の提供方法を変えるだけでなく、子どもたちの「噛む力」を育てるための多角的な取り組みが必要です。

おわりに

ウズラの卵事件を通じて、食の安全について考える機会を得ました。食材の形状変更は一つの解決策ですが、それだけでは根本的なリスクを取り除くことはできません。噛む習慣を育てることで、子どもたちが安全で健康的な生活を送れるようになることを目指していきましょう。学校や家庭、歯科医師が連携して、この大切な習慣を育てていくことが、未来の世代の健康を守る鍵となるでしょう。

学校歯科医というものはいますが、現状本当の意味で連携ができていないのが事実です。多職種連携という言葉が段々と浸透してきていますが、まだまだ足りません。それが私の歯科医師としての課題です。

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