路川氷魚

本のこと。生活のこと。本と生活のこと。

路川氷魚

本のこと。生活のこと。本と生活のこと。

最近の記事

冬野、りりかる、かみあえる、遠泳ののち、理由をなくす。

・『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読むこと。 (この記事にはねたばれがあります) ・韓国文学に触れること。 ・言語学系の本で知識を増やすこと。 ・詩歌をたくさん読むこと。  というのが、なんとなく決めていた今年の読書目標だった。満足はできていないけれど、ほんのり達成できたのでよしとする。   今回は今年の読書の振り返りである。  ちょっと長くなったので、お暇なときにでも読んでいただけたらうれしい。 ***  今年の一冊目はブレイディみかこさんの『両手にトカレフ』(

    • ひとりごと、見せたげる、つぎはぎの、きれいごとたち、地平を照らす。

       あなたがわたしの文章を読むことは、きっとないだろうけど。 ***  今年も『十一月の扉』(高楼方子/新潮文庫)を読まずに11月を終えようとしている。毎年11月になったら読み返そうと思って、気づけば冬になっている、ということを繰り返して10年が経った。忘れないように、本が見つからなくて読めなくなることのないように、本棚のすぐに手を伸ばせるところにあるのに、実際に本を開いたのは数えるほどだ。読み始める前に本を閉じて、また本棚に戻す。この一連の流れが11月の恒例になってしまっ

      • 三叉路、ともしび、売り物じゃない、片道切符。

         秋になった。  夏から秋に変わる時期、そして冬へと移る頃、必ず思い出すのが、上に引用した山頭火の文章だ。わたしは、季節の変わり目、とくに気温が下がる時期に体調を崩しやすいので、鼻水がとまらない日がくると(寒暖差アレルギーというのがあるらしい)、ああ、山頭火の季節がきた、と季節の移り変わりを実感する。  本棚から山頭火句集を手にとって、表紙をなでる。ぱらぱら頁をめくって、目にとまった句をゆっくり読む。〈風は何よりさみしいとおもふすすきの穂〉両手で挟んで、背表紙の文字を見つめる

        • 寝物語、銀いろの、をんなたち、きまぐれに、残響、向こう岸まで。

           先日、数年振りにねぎを刻んだ。自分で買ったものではなくて、買ってもらった長ねぎだ。ねぎを買うなんて、自分じゃできない。ここ数年のねぎとの付き合いは、小さなパック入りの刻まれたねぎを、年に数度(片手の指で足りるくらい)購入する程度である。もっと云うと、生野菜はカット野菜、あとは冷凍野菜しか食べていない。包丁の扱いが極端に下手だったり、野菜を買えないほど経済が逼迫していたりといった理由ではなく、野菜全般を刻む元気がないからだ。刻む元気もないし、生野菜を無駄にしない自信も、駄目に

          思い出、窓辺の、もう戻らない、離島で、ほんとうは。

           本が好きだ。  趣味を聞かれたら、迷わずに「読書」と答える。家は本だらけで、積読本が数百冊あるのに、毎月新しい本を買う。読書とは別に「本を買うこと」も趣味にあげるべきかもしれない。出掛けるときは、その日は本を読む暇がないと分かっていても必ず本を鞄に入れて行くし、うっかり本を忘れたときや外出先で手元の本を読み終えたときは、可能な限り本屋さんに寄って、新しい本を買う。そうしないと落ち着かないのだ。活字中毒との違いは、本を「読んでいない」と落ち着かないのではなく、本を「持っていな

          思い出、窓辺の、もう戻らない、離島で、ほんとうは。