うたた寝
夕飯を食べて、ソファに座ったら身体の奥からどうしようもない眠気が襲ってきて、気づけばクッションを枕にうたた寝をしていた。
子供ふたりとわたし。三人の食卓で、夕飯は冷凍庫コロッケ。冷凍されたままのコロッケを油で揚げた。夏休みのストックの余りなので、4つだけ。数が足りずに、わたしの分のおかずには卵を焼いた。夫が不在の日の、簡単な小さな食卓。
子供たちは食べ盛りなので、おかわりをしたり、食べ終わるには時間がかかる。自分の食べる分量をハナから把握して、一定のペースで食べ進めるわたしとは違う。だから最初に食べ終わるのはわたし。子供たちが食べるのを眺めているのは退屈なだけではなくて、心に悪い。すぐに小さなマナー違反が気になって口を出し、食卓の平和を乱してしまうので、簡単な秩序を守っていれば、小学生ふたりの食卓には口を出したくない。ご飯は楽しく食べてほしい。それで、食後は食卓すぐ横のソファに座る。
ご飯を食べるときにテレビはダメ、というのがわたしの子供の頃の決まりだった。今でこそそんな堅苦しいルールのない実家だが、子育て中には厳しかった。わたしは食べるのが苦手だったので、堅苦しい食卓で見張られている気持ちになるマナーにうるさい食事は憂鬱だった。料理は美味しかったのに、そこまで意識が回らなかった。食べることはしばらくずっと嫌いだった。
今、反動なのか、わたしは食事の時にテレビをつける。それまでつけていなくても、わざわざつけて、何を見るのか意見を出し合い、テレビを見る。まずは、食事は美味しい、食卓を囲むのは楽しい。それでいて、マナーを守らないと不快に思う人がいるから、気をつけようね、それが理想だ。理想通りにいかないのが子育てなんだけど。
そんなわけで、今夜はアニメがついていた。わたしも好きな、子供たちが「みんなで楽しめるもの」と考えてくれた時に選ばれる、「小さくなっても頭脳は同じ、迷宮なしの名探偵」の活躍するあのアニメ。
テレビ画面の中では、ゾンビ出てくるホラーな場面が展開されているけれど、わたしはこの話を知っている。ホラー展開も懐かしく、心地よく耳を通り抜けていく。
おなかがいっぱいで、今日の日はほぼ終わり。わたしは寝不足で、血糖値が上がっている。とても眠くて横になるとすぐそこにはちょうどいいクッションがあって、枕にしたらもう夢の中だった。
ふと起きたら、部屋は暗かった。娘が声をかけてくれる。あ、ママ起きたの?布団敷いておいたよ。おやすみね、早く寝な。と言って部屋に引き上げて行く。21時半。ふとサイドテーブルを見ると手紙が置いてあった。
「テーブルは拭いたよ。洗い物はお願いします。布団は敷いたよ。薬は飲んだから安心してね。いい夢を。ママへ 娘より」
こんなことははじめてだ。あぁ、子供は育っている。わたしが食事のあとに血糖値に負けて、だらしなくうたた寝していても、子供は育っている。
わたしはいま、人生もうたた寝中だ。
なんかちょっとうまくいかなくて、疲れてしまって、ちょっとだけ、休んでいる。家でダラダラしながら、それにもなんだか罪悪感が湧いて、ちょっと豪華な食事を作ったり、お菓子を作ったり、パンを焼いたり、張り切って掃除をしたりしているけれど、基本的にはやることを少し脇に置いて、うたた寝の日々。もちろん、主婦として家庭内で働いている、とも言えるけど、疲れている今はわたしより立派な主婦や、お仕事をしている人が眩しくて、そんなことは言えない気分。それがずーんと重かった。
だけど、時にはうたた寝してもいいんだ、と素直に思えた夜だった。
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