ガイド的食事処の選び方
ガイドが仕事を請け負って、最初に考える事は、このお客様方に食事制限はあるだろうか、です。
日本人は好き嫌いや健康問題の食事制限を除いて、何でも食べる人種と言っていいでしょう。日本のレストランでは、ベジタリアンメニューやアレルギー対応メニューはほとんどありません。
しかし、海外から来る人々には様々な食事制限を持つ人々がいます。
ベジタリアンについて
ベジタリアンと自認する方々は、アレルギーでも宗教に基づく制限でもなく、あえて言うならば主義主張と言っていいと思います。
同じ家族の中で、一人だけベジタリアンがいる場合もあり、かなり個人的な嗜好と私は理解しています。
「何故ベジタリアンなのか」とお客様にお聞きしますと、「生まれた時から」とか「屠殺現場をみて食べられなくなった」とか「母親がベジタリアンでそれに従っている」とか「以前はベジタリアンではなかったけれど、太ってきたので転向した」「資源保護・動物愛護の観点から」などなど理由は様々です。
インド人のグループなどでは、カースト上位の家柄に属している方々にベジタリアンが多いそうですが、これも、家族の中で統一されている訳ではないです。
様々なベジタリアンの形態があり、ここでの詳述は避けますが、私のお客様で一番多いタイプはオボ・ラクトベジタリアン。
この方々は、卵と牛乳はOKで、肉魚はダメです。出汁もダメなので、日本に来ると食事選びに苦労します。
そのような方にガイドとして雇われた場合、その苦労はガイドが負います。
蕎麦、うどんはカツオ節の出汁、ラーメンは動物系の出汁なので、麺類はパスタくらいしか食べるものはありません。レストランによっては昆布出汁だけで調理してくれるところもありますが、一人のベジタリアンの為にそれをお願いするのはかなりハードルが高いです。
その上、和食が世界遺産に指定されてからは、海外からのゲスト達は和食をたくさん食べて帰りたいと考えているので、要望と現実が全く噛み合わないように思えて、食事処選びがかなり憂鬱になります。
それでも仕事なので、頑張らなければなりません。お客様を飢えさせるわけにはいかないのです。
ベジタリアン向きのお食事
では彼らは何なら食べられるのか、それを考え捻り出すのがガイドの知恵です。
卵とご飯なら、肉なしオムライスか、肉なしチャーハン。実は両方とも純粋な日本料理ではありませんが、それでも海外の人々にとっては「日本でしか食べられない料理」なので和食なのです。オムライスもチャーハンも、もちろん喜ばれます。
そのような「引き算」料理に応じてくれるレストランならば、焼きそば、野菜餃子、お好み焼きなど、肉なしで作ってもらうという手があります。最近はベジタリアンバージョンのラーメンを用意しているお店もあります。
広島でお好み焼きを食べたとき、ベジタリアンのインド人は肉なしチーズトッピングのお好み焼きをとても喜んでいました。
もし見つかるならば、精進料理専門店や、豆腐料理専門店などはとても日本らしくて良いと思います。しかしどの観光地にもあるわけではありません。残念ながら。
もし和食にこだわらないなら、ピザ・マルゲリータやパスタ・ぺぺロンチーノという手もあります。長い行程の中で、お客様が日本の外食事情を理解してくださり、最後はイタリアンで妥協して頂いた経験は何度もあります。
しかも、その際には「日本のイタリアンのレベルは素晴らしい」とお墨付きをいただきました。
和食は出汁文化なので
出汁はOKというベジタリアンもいます。その場合は、かなり有利になります。山菜蕎麦、キツネうどん、味噌汁。これらの典型的な和食が食べられるのです。特に味噌汁が大丈夫であれば、肉なし野菜炒めにご飯と味噌汁というパターンもありですし、鶏肉抜きの卵丼という可能性も出てきます。
昆布以外の出汁はダメ、というベジタリアンに出会うと、つくづく、日本の食の美味しさを支えているのは出汁文化だなあ、と皮肉にも痛感せざるを得ないのです。
余談になりますが、50代60代のお客様から「日本人の長生きの秘訣は何?」とよく聞かれます。この現象は食生活だけに起因するものではないと私は考えますが、食に限定するならば、「何でも食べること。しかも魚介多め」という事が言えるのではないかと考えています。
この情報がどなたかのお役に立てば幸いです。
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