あとで読む・第24回・佐々涼子『夜明けを待つ』(集英社インターナショナル、2023年)
「本屋大賞2020年 ノンフィクション本大賞」を受賞した『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル、2020年)もまた、武田砂鉄さんのラジオ番組で知った。ゲスト出演した著者の佐々涼子さんとの対話が印象的な回で、後日書店でこの本を見つけると吸い寄せられるように手に取り、レジに並んだ。
私の人生は、「紀元前」と「紀元後」のように、「病気前」と「病気後」で大きく変わるのだが、もしこの本を「病気前」に読んでいたらどんな気持ちだっただろう。「病気後」を生きるいまとなっては、もう全くわからない。少なくとも「人生の閉じ方」なんてことは自分事としては考えなかっただろう。
この本をひと言で紹介するとすれば、終末医療を在宅で迎える患者と、それをケアする訪問看護師についてのノンフィクション作品である。私は「病気後」にこの本を読み、涙が止まらなかった。
「死ぬ前に家族と一緒に潮干狩りに生きたい」と願う、37歳の末期がんの女性。とてもそんな体力は残っていない。しかし本人の意志は固く、訪問看護師たちはどうしたら彼女の希望が叶うかを慎重に検討し、それを実行に移した。彼女は海辺にいる間だけ奇跡的に小康状態を保ち、家族との潮干狩りの希望が叶う。しかし帰りの車の中で容態が急変し、自宅に戻ったときに帰らぬ人となる。――この本の初めのほうにあるエピソードを読むだけでも、胸がつまる。
これと少しだけ似たような状況に立ち会ったことがある。がんが進行して体力が衰え、なかなか外に出られなくなった知り合いがいた。友人である画家の個展を見に行きたいという彼の希望を、彼の友人たちは総出で叶えることにした。ある友人が運転して、自宅から1時間半ほどかかる美術館に向かい、そこで待ち構えていた友人の画家が、自分の作品の一つ一つを彼のためだけに懇切丁寧に解説する。終わるとこの日集まった友人たちは彼を囲んで、併設のカフェで他愛もない話に興じた。
その時点での彼の病状は、潮干狩りの女性ほど深刻ではなかったけれど、実現できるかわからなかった彼の希望を叶えることができたことには変わりないし、なにより彼自身が希望の実現を喜んでいたことに友人たちは安堵した。私もこの場に立ち会っていて、潮干狩りのエピソードのことを思い出し、胸がつまって仕方がなかった。
標記の本も、2023年11月24日の武田砂鉄さんのラジオ番組で知った。番組オープニングのフリートークの中で紹介したということは、ぜひ手に取って読んでほしいという砂鉄さんの強い気持ちがうかがえる。「あとがきを読んでください」と示唆されたので読んでみると、衝撃的なことが書いてあった。佐々さんも、余命を告げられる病を抱えていたのである。私と同じ年齢なのに。
砂鉄さんのラジオを聴き返す。いつもは冷静な砂鉄さんの声が心なしか感極まっている。大切に読まなければならない。