三上喜孝

本と映画と音楽についての過去・現在・未来。書ける範囲のことを書いていきます。

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    「ふとしたとき、どうしているのかな?と気になってしまう。自分の中に爪跡を残している。でも、連絡をとったり会おうとは思わない。そんな、あなたの「忘れ得ぬ人」を送ってもらっています」 という、TBSラジオ「東京ポッド許可局」のコーナー「忘れ得ぬ人々」にヒントを得て書いています。

最近の記事

山本昭宏編『近頃なぜか岡本喜八 反戦の技法、娯楽の思想』(みずき書林、2020年)

「近頃なぜか岡本喜八」という言葉は今の私の気持ちともなぜか重なる。最近、岡本喜八監督の映画『ジャズ大名』を観たからかもしれない。 しかし岡本喜八監督の映画は、実は数本しか見ていない。代表作の『独立愚連隊』すら観ていない。そんな私が岡本喜八監督について何かを語る資格などないのだが、やはりずっと気になっていたのは、私の尊敬する大林宣彦監督が岡本喜八監督に対して特別な敬意をはらっていたということを知ったからである。以前のnoteにも書いたように、大林監督はかつて「敗戦後の日本映画で

    • 連想読書·レベッカ·ソルニット著、ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』(左右社、2018年)

      「マンスプレイニング」(mansplaining)という言葉が広まるきっかけになった本と言われているが、実はこの言葉の創出には著者は関わっていないことがこの本に書いてある。うっかり著者発の言葉として自慢げに紹介するところだった。やはり知ったかぶりはよくない。 「説教したがる男たち」というタイトルを見て、「いるいるうちの職場にも!」と膝を打つ人は多いだろう。知らないことや中途半端な知識を年上の男性が知ったかぶって若い女性に説明したがる、という光景は、はたからみれば滑稽である。あ

      • 読書メモ·武田砂鉄『テレビ磁石』(イラスト堀道広、光文社、2024年)

        入院して最初の頃は何もすることができないが、しばらく経って体調が少し安定してくると、1日が長く感じられるようになる。そうなると身体に負担がかからないていどに何かしたいと思えてくる。むろん、仕事はストレスをためるのでもってのほかだし、テレビも面白くないので見るという選択肢はない。すると必然的に読書をしたいという欲求が生まれてくる。 入院中でも読める本はないだろうかと吟味して、読みかけていた武田砂鉄さんの『テレビ磁石』と、もう1冊の本を家から持ってきてもらった。『テレビ磁石』は、

        • 妄想·山下耕作監督『緋牡丹博徒』(1968年)と相米慎二監督『セーラー服と機関銃』(1981年)

          以下は記憶を便りに書いているので不正確な事実認識をしているかもしれません。 映画「緋牡丹博徒」(1968年)を観た。 私はこうした任侠モノというのをほとんど観たことがない。だからほぼ初心者に等しい。 主演の藤純子が初々しい、のひと言に尽きる。やくざの親分が死んで、その一人娘が、跡を継いで一家の親分となる。 これって、基本的なプロットは「セーラー服と機関銃」と同じではないか。もっとも「セーラー服と機関銃」の場合は一人娘という設定ではないが。 映画の中では藤純子を陰ながら見守る

        • 山本昭宏編『近頃なぜか岡本喜八 反戦の技法、娯楽の思想』(みずき書林、2020年)

        • 連想読書·レベッカ·ソルニット著、ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』(左右社、2018年)

        • 読書メモ·武田砂鉄『テレビ磁石』(イラスト堀道広、光文社、2024年)

        • 妄想·山下耕作監督『緋牡丹博徒』(1968年)と相米慎二監督『セーラー服と機関銃』(1981年)

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          オトジェニック·キム·グァンソク「宛のない手紙」

          韓国で一番好きな歌手はと問われれば、迷わずキム·グァンソクと答える。 1964年生まれのキム・グァンソクは、フォークソング歌手として同世代の若者のカリスマ的存在だったが、1996年、31歳の若さで自ら命を絶って、この世を去る。 彼の遺作が「宛のない手紙」という歌である。この歌は、映画「JSA」のエンディング曲として使われた。 私はこの曲が大好きで、ことあるごとに何度も何度も聞いている。 2011年の東日本大震災。津波の被害に遭った町に佇んだとき、なぜかこの曲が頭の中を流れた。以下、拙訳の歌詞を掲げる。 「宛のない手紙」 草の葉は倒れても空を見上げ 花咲くことはたやすくても 美しくあることはむずかしい。 時代の夜明けの道をひとりで歩いていたら 愛と死の自由に出会い 凍てついた川、風の中に 墓もなく 激しい吹雪の中に 歌もない 花びらのように流れ流れ 君よさらば 君の涙はいま 川の流れとなり 君の愛はいま 歌になる 山をくちばしに取って飛ぶ 涙の小さな鳥よ 後ろをふり返らずに 君よさらば

          オトジェニック·キム·グァンソク「宛のない手紙」

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          妄想·森谷司郎監督『動乱』(1980)

          森谷司郎監督は、たしか黒澤明監督の助監督をつとめたこともあり、どちらかといえば大作志向のイメージがある。「日本沈没」(1973)、「八甲田山」(1977)、「小説吉田学校」(1983)あたりは好きな作品である。以前、未見だった同監督「動乱」がテレビで放映されていたので見てみることにした。 観た感想は…、森谷作品にしては、やや凡庸な印象だった。高倉健と吉永小百合の共演ということで、ちょっとハードルが上がりすぎた感がある。 最後のエンドクレジットのところで、助監督が、先般亡くなっ

          妄想·森谷司郎監督『動乱』(1980)

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          オトジェニック·YMO「M16」

          1983年12月のYMO散開コンサートの直後に、その素材をもとに制作された映画『プロパガンダ』(1984年)のエンディング曲。だからこれがほんとのほんとのYMO名義の最後の曲。当初はどこのアルバムにも収められていなかった。しかもタイトルの「M16」は映画で使う16番目の曲という意味で、つまりは「無題」である。しかしこの曲が大好きなのは、当時感じていたYMO散開の喪失感を浄化し、未来への希望を感じさせてくれたからである。ここにもさりげなく職人的音楽家としての教授のすばらしさを感じさせる。まさにYMOの集大成の1曲だ。

          オトジェニック·YMO「M16」

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          オトジェニック·坂本龍一「Dear Liz」(ストリングス編)

          テレビCMのために作られた音楽で、クレジットも出なかったので教授の曲とは最初わからなかった。この頃の教授は数々のCM音楽の名曲を名前を出さずに作っていた。まさに職人的音楽家というにふさわしい。このストリングスバージョンはCM用のオリジナル版で、ファゴットの存在感が光る。吹奏楽の木管アンサンブルでやってほしい1曲。

          オトジェニック·坂本龍一「Dear Liz」(ストリングス編)

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          オトジェニック·細野晴臣「はらいそ」

          これぞ究極の癒しの音楽。YMO結成直前に出したアルバム『はらいそ』より。

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          楳図かずお『おろち』より「ステージ」

          入院中なのでなかなか情報が遮断されているが、楳図かずお先生の訃報に接した。小学生の頃は『漂流教室』を貪るように読み、それがきっかけで怪奇漫画に傾倒していった。 一番好きな怪奇漫画は何かと問われたら、『おろち』というシリーズの「ステージ」をあげたい。主人公のおろちは永遠に年を取らない少女で、数多くの人の人生を見届ける。その連作漫画である。 おろちが注目した人生の一人が、ある少年である。その少年は幼い頃、親がひき逃げ事故に遭って亡くなった。少年はひき逃げ事故の犯人をはっきりと見た

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          オトジェニック·高橋幸宏『サラヴァ!』より「エラスティック·ダミー」(坂本龍一作曲)

          職人的音楽家としての坂本龍一さんの才能と、高橋幸宏さんのドラムが堪能できる稀有の名曲。YMOより前。

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          オトジェニック·高橋幸宏「四月の魚」(live)

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          オトジェニック·坂本龍一&カクトウギセッション『カクトウギのテーマ』

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          いつか観た映画·パク・チュンフン、アン・ソンギ主演『ラジオスター』(2006年、韓国)

          韓国映画には名作が多い。私は15年来のソン・ガンホの大ファンなのだが、いまやソン・ガンホは世界的な大スターである。 ソン・ガンホ主演の映画はどれも名作が多く、もちろん大好きな作品ばかりなのだが、あまりに名作すぎて紹介するのが気がひける。 もし韓国映画で好きな作品をひとつだけあげろといわれたら、パク・チュンフン、アン・ソンギ主演の「ラジオスター」をあげるだろう。 かつて一世を風靡したミュージシャン(パク・チュンフン)は、麻薬で逮捕されたり、暴力事件に巻き込まれたりして、今では

          いつか観た映画·パク・チュンフン、アン・ソンギ主演『ラジオスター』(2006年、韓国)

          読書メモ・光浦靖子『ようやくカナダに行きまして』(文藝春秋、2024年)

          さて、『50歳になりまして』を読了した私は、その続編『ようやくカナダに行きまして』にようやくたどり着いた。私がこの本に並々ならぬ関心を持ったのは、私も15年前の40歳のときに1年間、当時勤めていた職場の許可をもらって韓国に留学したからである。韓国語がまったくわからない私が、なぜ40歳のときに韓国留学を決めたのか、うまく説明できない。でもこの本を読むと、そのときの心情がよみがえってくる。ひと言で言えば、「知らない強みでございますな」(三代目三遊亭金馬「転失気」より)。 言葉も

          読書メモ・光浦靖子『ようやくカナダに行きまして』(文藝春秋、2024年)

          読書メモ・光浦靖子『50歳になりまして』(文藝春秋、2021年)

          前回のnoteにお笑いコンビのオアシズのことを書いたら、光浦靖子さんのエッセイ集が急に読みたくなった。光浦さんは最近2冊のエッセイ集を上梓されているが、時系列に沿って書かれているので、まずは最初のエッセイ集を読まなければならない。 2020年、コロナ禍の真っ最中だったころ、Web上で光浦さんのエッセイが掲載されたのを見つけた。エッセイのタイトルは、この本のタイトルと同じ「50歳になりまして」だったと思う。読んでかなり心が揺さぶられた。2020年4月にカナダに留学する予定が、

          読書メモ・光浦靖子『50歳になりまして』(文藝春秋、2021年)