雑感・桜木紫乃『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(KADOKAWA、2021年)
桜木紫乃さんの小説は、いままで読んだことがなかったのだが、読もうと思ったきっかけは、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」を聴いたことによる。
まだこの小説が、『野性時代』に連載中だった頃、ラジオで大竹まことさんがこの小説についてしばしば言及していた。それはおよそ、以下のような話である。
あるとき、直木賞作家の桜木紫乃さんと食事をしながらお話をする機会があった。桜木さんが北海道に住んでおられるということで、自分が若い頃、それこそまったく売れてない二十歳の頃に、北海道のキャバレーに、師匠と二人で営業に行ったことがあったことを思い出した。季節は真冬、しかも年末年始という時期である。泊まるホテル代もないので、キャバレーに泊まりながらの生活である。
年末のステージが終わると、大晦日と正月三が日はお休みとなる。そしてまた年明けから数日間のステージをしなければならない。4日間が休みとなるが、一度東京に戻るわけにも行かず、無為に過ごすことになる。そこには、「俺」と「師匠」のほかに、「ブルーボーイ」と「ストリッパー」がいて、いっしょに無為な時間を過ごした。
「俺と師匠とブルーボーイとストリッパーでね、年末年始のキャバレーのステージをこなしたんだよ」
その言葉がきっかけで、桜木さんは、小説の構想を固め、それが『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』となって完成した。
「小説家さんってのはスゴいね。俺が少しばかりお話ししたことを設定にして、まったく違う物語を作り上げるんだから」
と、大竹まことさんは何度も感心していた。
物語自体は根も葉もないものであったとしても、その底流に流れている「想い」は、大竹まことさんが共感できるものであったらしい。
「正月休みに何もやることがなくて、師匠が『海を見に行こう』とみんなを誘ってね。寒い中、海を見に行ったんだけど、あまりに寒くてすぐに帰って来ちゃった。そんな他愛もない話を桜木さんにしたら、小説の中にその場面を入れてくれてねえ。それが嬉しかった」
実際に小説を読んでみると、市川森一脚本のドラマ『淋しいのはおまえだけじゃない』(TBSテレビ、1982年)を思い出した。
人生のどん底にいる、さまざまな事情を抱えた人たちが、一つの場所に集まり、人を楽しませるための芸を披露する。
それは一期一会の舞台で、時が来ればまた、離ればなれになる。
あるいは、山田太一脚本の『高原へいらっしゃい』(TBSテレビ、1976年)もそうだ。人生のどん底にいる、さまざまな事情を抱えた人たちが、潰れかけのホテルに集まり、お客様におもてなしをしようと努力する。
いずれも、私が子どもの頃に、大好きだったドラマである。
桜木さんこの小説を読んでいると、映像が浮かんでくる。連続ドラマになればいいなあと思うのだが、ブルーボーイとストリッパーが、いまのテレビのコンプライアンス的には、難しいのかもしれない。しかしこの二人がいなければ、この物語は成立しないし、この二人がいるからこそ、胸を打つ物語となっていると思う。