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読書メモ・松本清張『神々の乱心』(文春文庫、2000年、初出1997年)

松本清張の遺作『神々の乱心』は、松本清張の遺作である。
この小説の連載が終わらないうちに、松本清張が他界してしまったので、この小説は、未完のままである。
あらためて読み返してみたが、この小説は、松本清張のそれまでのエッセンスが、すべてつまっていると言ってよい。
昭和初期の日本と満州を舞台にしていることもあって、『昭和史発掘』執筆時の膨大な調査成果が遺憾なく小説の中に反映されていることは想像に難くない。
そればかりではなく、松本清張の考古学に関する該博な知識も、随所にちりばめられている。これも、古代史研究に没頭した松本清張にしか書けない。

北関東で起こった小さな「殺人事件」が、「新興宗教」「宮中」「アヘン」「満州」といったキーワードと結びつき、背後にある壮大で深い「闇」を描き出す。
とにかく、これは松本清張にしか書けない小説であり、松本清張ファンであれば、彼の文筆遍歴を思い返しながら読むことができるので、より楽しめる。
そういう意味でこの小説の楽しみ方は、松本清張ファンにこそ与えられた特権ともいえよう。
惜しむらくは、この小説の結末を、永遠に知ることができなくなった、ということ。本人も無念だったろうと思われる。
松本清張が書きたかった小説は、いままさにこの国で起こっている出来事とも重なってくるような気がする。
現政権の背後に潜む、極右系政治団体。行き着いたのは、ある新興宗教の存在である。
つまり、ある新興宗教の洗礼を受けた者たちが、政権の政策を左右している。
これはまるで、松本清張の未完の絶筆『神々の乱心』を地で行く展開である。つくづく、松本清張の慧眼には目を見張らざるを得ない。

この小文を、松本清張の大ファンだったMさんに捧げる。

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