雑感・赤木雅子+相澤冬樹『私は真実が知りたい』(文藝春秋、2020年)
以前、BS日本テレビで、松本清張原作・緒形拳主演のドラマ「中央流砂」が放送されていたので観てみることにした。もとは1998年に火曜サスペンス劇場の枠で放送されたものである。原作は農水省を舞台としていたが、ドラマでは、経産省へ省庁再編される直前の通産省を舞台にしている。
とある収賄の容疑で検察庁の取り調べを受けた課長補佐の倉橋が、作並温泉で謎の転落死を遂げる。その背後には、自らの権力を守ろうとする岡村局長と、その局長に取り入る業界団体の大物、西による事件の隠蔽工作が存在していた。
主演の緒形拳は、出世とは無縁のノンキャリアの山田事務官を演ずる。岡村局長の下でパワハラに遭いながらいいように利用されている。同じくノンキャリヤ組の倉橋とは懇意だったが、岡村の指示で動いているうちに、次第に倉橋の死に不審を抱くようになる。
岡村と西は、証拠を隠蔽しようとさまざまな画策をする。それだけでなく、残された倉橋の妻を、西の主宰する関連会社へ就職させるなどして、倉橋の妻を取り込もうとするのである。
ドラマを見ればすぐに気づくことだが、いわゆる森友学園の国有地売却問題とそれに絡む公文書改ざん問題の構図と、瓜二つである。公文書の改ざんを命じられて、苦悩のあげく自死してしまった赤木俊夫さんと、残された妻の雅子さんとが重なる。妻の雅子さんは、俊夫さんの死後、財務省の職員に、近畿財務局で働かないかと持ちかけられるが、「佐川さんの秘書ならいいですよ。お茶に毒を盛りますから」と突っぱねた話は有名である。官僚の手口というのは、十年一日の如くである。
ドラマの終盤で、「小官僚」の山田事務官が、倉橋課長補佐が贈収賄について記したメモや音声ファイルを発見し、岡村や西に突きつけるのだが、最終的には「個人的なメモで証拠にはならない」と一蹴され、岡村は罪を免れ、山田は左遷させられる。この手口もまた、今と少しも変わらない。
赤木雅子さんの『私は真実が知りたい』を読んだのは、発売されてすぐだったと思う。文化放送の『大竹まこと ゴールデンラジオ』で赤木雅子さんが初めてメディアに登場し、大竹まことさんが、赤木俊夫さんが肌身離さず持っていた「国家公務員倫理カード」を読み上げながら泣いていたと記憶する。
この本を読んで驚いたのが、赤木俊夫さんが「近畿財務時報」という、近畿財務局の社内誌に、「坂本龍一研究序説」という文章を寄せていたことである(1993年3月)。赤木さんは「教授」のファンが高じて、その想いを文章に認めていたのである。この本ではその文章が全文引用されている。実直な性格が表れた、坂本龍一愛にあふれた文章である。
私もまた、中学時代からYMO、とくに坂本龍一さんのファンで、いまも日に一回は坂本龍一さんの楽曲を聴いている。だから赤木俊夫さんの書いている「想い」が手に取るようにわかる。
そんな中で、私がひときわ目を引いた一節は、次の部分である。
「そのYMOの音楽のなかでも、特にTong poo(東風)などは今でも世界中で愛されている名曲で、最近のコンサートでも別のアレンジによって演奏されていて、非常に快楽的な音楽だ。
近代建築のそびえる街のなかに、静かに建立されている京都の寺院建築が、まったく違和感を感じさせることなくぼくらの心を和ませてくれるように、教授の音楽がもつ快楽的なビートは、ぼくの心を鋭く刺激し、センチメンタルなメロディーラインは、安らかな静寂を与えてくれるのだ。
教授の音楽は、ゴダールの絵画的な映画のように、まさに『音楽図鑑』である」
赤木さん、私もYMOの楽曲の中で「東風」がいちばん好きなんですよ!と語りかけたくなった。と同時に、教授、赤木さんの声は届いていますか?と叫びたくもなった。
「東風」は、YMOのファーストアルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」に収録されている。オリジナルの楽曲より、むしろさまざまなライブで編曲を変えながら変幻自在に演奏する音源の方がすばらしい。「東風」のどのバージョンが好きか?という問題は長くなるので割愛する。
いまになって思う。赤木さんの教授への想いは、教授に伝わっていたのではないだろうか、と。
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