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人生にセーターを編んでやる

人生に
真っ白いセーターを
編んでやることにした

真っ白い糸を買ってきて
慣れない手つきで編んでゆく

途中なんどか失敗して
やり直すこともあった

けれども
順調に編んでいた

ある日
真っ白い糸がなくなった

買いに走っても
どこにもない

そんなはずはない!
そんなはずはない!

どんなに騒いでわめいても
世界に真っ白い糸はもうなかった

次の糸が見つからない
他の色にしたくない

もうおしまいだ
セーターは未完成で終わるんだ
この人生とともに

糸…糸…
次の糸…どこ…
つづけたい…まだ…

すべて終わらせようと思ったけれど
こんなに絶望しているけれど

この手は次につなぐ糸を
死にものぐるいで探している

あぁまだ
この人生にとどまって
セーターを編み続けていたいのか

赤い糸があったから
ずいぶん迷って悩んだ末に
その糸をつかむことにした

それからも
いろんな色の糸をつかんできた

誰かがくれた
糸もつかんだ

一緒に編んでくれた人もあったし
誰かのを一緒に編んだこともあった

編み上がりが
近づくにつれて

ほつれたり
縫い目が曲がったり
我ながら不恰好だなと
笑ってしまう

真っ白いきれいなきれいな
理想のセーターを
着せてやるはずだった
この人生

赤や黄色やオレンジや
青や緑やむらさきや
ごちゃまぜになっていた

最後に息を吐いたとき
神さまが

まったく不恰好なセーターだ
まったくおもしろいセーターだ
まったくたいした人生だ

と笑っているのを
みた気がした

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