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食事処れとると:弐
四
「今から710号室に行ってみません?」
「それもいいけど、
蔵之助さんに現代の生活の仕組みを
知ってもらうのも悪くないと思わない?」
「蔵之助さん、
早く元の時代に帰りたいですか?」
「いや、甲本さんの言う様に、
見聞を広めてから、
帰る算段を考える方が、おいらいいと思うぜ」
「分かりました。
じゃあ、家具店とか見て回ります?」
「宮大工の創造力を鍛える見聞になりそうね。
私はこれから当直だから、
二人で行って来て頂戴」
「蔵之助さん、私と二人でもいいですか?」
「あぁ、おいらは構わないけど?」
五
「酒咲さん、なんでぇ、
この車輪が付いたでかい鉄器は?」
「てっき? ああ鉄の塊ってことですね。
ゼストスパークっていうんですよ」
「ぜすとすぱあく?
見た目通りの厳つい名前が付いてるじゃねぇか。
ふむふむ、ぜすとすぱあく、と」
「じゃあ、家具屋に出発しましょう!」
酒咲さんは、はるみ苑の時は、
白装束に桜色の衣をふわっと羽織っていた。
今は白くて清潔でぱりっとした雰囲気の衣と
黒地の腰巻を着用している。
おいら、本当は帰れる方法を知ってるんだ。
でも、何度もこの世界と
元の世界とを行き来することは叶わないだろう。
公に認められれば、
素晴らしい文化交流だが、
明らかにこの世界に住む住人の方が
情報量でおいらたちを上回ってる。
それはとても危険であり、
悟られた時点でほぼ終わり。
酒咲さんが操るぜすとすぱあくに乗りながら、
流れる風景を
ぼけっと見つめながら漠然と思った。
六
「ぉお! 職人の粋を集めた様な展示場だな。
あの穴が空いた机はどう使うんだい?」
「あぁ、あれはこたつって言って、
布団を被せて板を敷いて、
その中に潜るんです」
「へぇ、発想も1300年越えだな。
ふむふむ、こたつ、こたつ、と」
「なぁ、酒咲さん、
この時代の食文化についても
ご教授願えねぇか?」
「食文化……、
蔵之助さんの時代の主食はなんですか?」
「おいらたちの身分では黒米が
碗一杯食えれば満足かな?」
「そうですか、
だったらレトルト食品なんかを
蔵之助さんの時代に
持ち帰ることが出来たら
重宝されるでしょうね」
「知らない単語ばかりが出過ぎて
頭が破裂しそうだ。
何々? れとるとって言ったっけ?
そいつはどんな食べ物なんでぇ?」
「お湯で温めて、
米にかけるのが主流なんですよ。
試しに何種類か買ってみて、
はるみ苑で実際に作ってみます?」
「いいのかい?
そんな厚かましいことして?」
「はるみ苑はお昼過ぎには、
利用者さんの集いはお開きになりますから、
台所は自由に使えますよ」
「お、おぅ、
じゃあ、やってみようか、れとると料理」