Education in the U.S. / 米国教育の特徴【前編】
法律とは少し異なる話題ですが、ロー生活を通して感じた米国高等教育の特徴や、先日高校にボランティアに行って感じたこと等をまとめました。
※書いていて長くなったため、前編は高等教育についてのみです。
米国高等教育の特徴
いわゆるトップスクールは私立大学が大半
公立大学の有名校はUCシリーズやミシガン大ほかで、数では圧倒的に私大が多い。トップロースクール群T14のうち、公立大学はミシガンとバージニアのみ。米国は日本の私学助成金のような経常補助がなく、公的補助は連邦政府や州政府からの競争的研究費等の研究開発予算のため、大学経営の自由度が高い。寄付金も多く、一人の富豪Alumがとんでもない金額を寄付したりもする。校内設備も寄付によるものが多数。
尋常でない授業料
私の学校はLLMの年間学費はついに8万ドルを突破(Professional Schoolなので高めで、Undergradは半額の年4万ドルほど)。他方、Scholarshipが充実しており、トップスクールではFinancial aidを受けずにフルで支払う学生は少数派と言われる。また、ただでさえ高い学費がインフレ率の反映等を口実に毎年値上げされている。私の在籍するLLMでは昨年比で$3,000も値上げされた。
留学生ビジネス
LLM(ほぼ留学生)からなるべくフルで授業料を取り、それをJD(米国人が大半)に還元しているパターンが多い。自身も留学生ビジネスのクライアントになっているなあと感じるが、国策としては正しい方向性だとも思う。日本の大学経営にも導入可能では。
入学はたやすく、就職は困難
米国の方針として、世界の名だたるトップスクールを売りに世界から留学生を呼び込んで金を落とさせているが、こうして渡米した留学生が卒業後米国で就職口を見つけるのは非常にハードルが高い。USスチールの買収しかり、米国は米国人から職を奪う外国人に決して容赦しない。
私は帰国後元の職場に戻るためJob Huntingはしないが、LLMで一緒だった非米国人の友人たちは1年間のOPTのポストを得るのに非常に苦労していた。私よりはるかに英語が達者なネイティブレベルの子たちでさえ、200社応募して1社採用だったり、Linkdinで個別にメッセージを送ってなんとか面接にこぎつけたりと、とても大変だったようだ。
大学ビジネスは巨大産業
アパート・教科書から学校グッズ・卒業記念品に至るまでとにかくお金がかかり、また隙あらばお金を取ってくる(笑)。寮ですら高く(私が在籍していたローは相部屋でも月$1,500)、円安や物価の違いを考慮しても、日本の国立大学の寮のように近隣の賃貸相場の半分以下で住める寮は無い。私の大学のLLMのCost of Attendanceは学費と生活費併せて年$105,000(!)にも及び、米国国内には現在留学生が100万人いるそうなので、非常に雑な計算で年1千億ドルのお金が米国に落ちていることになる。
中国人留学生はガチ富裕層
あくまで自分の在籍するローでの感覚だが、東アジア人留学生の中では人数比で圧倒的に中国人が多く全体の40%程度、次が韓国・台湾で、日本はドベという印象。
留学形態として、韓国・日本は企業派遣など誰かしらスポンサーがいるが、中国人は中国国内で学部を卒業してすぐに留学してきている人がほとんどで、学費・生活費は全額親持ち。旅行代など嗜好品的支出を除いても年$10万近くかかるにもかかわらず、中国人留学生は加えて頻繁に旅行に行くし、着ているものや持ち物も良いものばかりで、中国国民の頂点の富裕層の子弟なんだなと肌で感じる。
とは言え彼らも中国国内における若者の異常な就職難に困って、将来に有利になるようにと留学しに来ており、中国人留学生の一部は明らかに今の中国政府に反感を持っている。友人談だが、中国では若者の失業率が20%を超えた時点で国が統計を取るのを止めたそうで、実際には大学卒業生のうち約半分が就職できていないそうだ。日本では法定統計を政府の一存でストップすることなどありえないが…。
また、台湾人については人それぞれだが、台湾を祖国として愛しているものの、中国からの脅威に対する台湾の将来への不安から、生存のためのプランBとして将来の米国移住を考えて留学している人もおり、強い切迫感を感じた(TaiwaneseはJapaneseにはこうした事情を割とオープンに話してくれる)。
高等教育、特にGraduate Schoolがキャリアの形成・転換に直結
米国ではキャリアの方向性を変えたい場合は大学院に行くのがデフォルトで、現場からマネージャーへの転換を希望している場合や、専門領域を変える場合はまず大学院に行く。年功序列で自然にマネージャーになったり、OJTで自分の専門を形成していく日本とは、社会人のリカレント教育に対する意識が明確に異なる。
ゲストスピーカーの講師の一人に、ファッション産業で働いてからLawに進み、今は連邦政府の宇宙法部門で働いている人がおり、ある程度年齢がいってからでも(能力次第で)ドラスティックなキャリア転換が可能であると感じる。それ故学生は本当に皆必死に勉強するし、学校の成績がJob Huntingに直結するため授業は真剣勝負で、モラトリアム感は皆無である。
日本の高等教育の特徴
国立大学がGood Schools
これは心底思うことだが、学費の安い国立大学がトップ校であることは素晴らしいことで、社会階層の固定化を(昔ほどではないとは言え)防ぐ大きなファクターになっている。人生を変えたいと思って大学に行かせたくても、米国の貧困家庭がトータル16万ドルのUndergradの学費をどうやって子供に出してあげられるだろうか。
国立大学がGood Schoolsであるデメリットとしては、公的補助に多くを頼っているために大学経営の自由度が米国ほど高くはないことだが、制度的には自由度を上げるために国立大学を法人化したはずなので、日本の国立大学にはぜひもっと自由に色々手を出して欲しい。
学費の安い国立大学が制度上すべての国民に門戸を開いていることを日本の大学の強みだと考えると、昨今議論されている国立大の授業料の値上げは少し行き過ぎで、値上げはインフレ率の反映程度の上昇に留めておいて欲しい。今の大学経営の課題を授業料の値上げだけで解決することはできないはずで、逆に日本の強みを自ら失うことになりかねない。
国際化の低さ
東アジア人留学生のところで上述したが、人口比で東アジアで2番目の日本の留学生が1番低いのは変な話で、日本の大学はソトに対する視点が十分ではないと感じる。海外からの留学生の呼び込みについても、大学経営の改善の視点として、私は開き直って留学生ビジネスをしてもよいと思う。
この点、日本の大学に流れている公金が外国人に使われるのか、というのは賛否両論あると承知しているが、大学が定める入学基準を突破して入学し、既定の学費を支払った外国人留学生を拒絶する理由はないはずだ。留学生からフルで授業料を取ることで大学の経営が改善するかもしれず、それによって日本人も含めた全学生の学費の値上げが防げるなら、Win-winではないだろうか。
国際化指数が不足しているので日本の大学の大学ランキング順位が下がっている、大変だ、日本の大学の国際化を進めるべきだ、でも外国人留学生に日本の公的リソースを使わせないぞというのは矛盾しており、さすがに無理がある。国際化は外国人教員と留学生の受け入れ無しには達成できず、それにより日本の大学の魅力度が上がって更に留学生が増えれば、日本経済にとってもメリットがある。
日本の大学が世界から顧みられなくなるのは非常な脅威であり、また、昨今の不安定な国際情勢からしても、Japan-Friendlyな若い知識人層を世界に増やすことは、長期的な投資として決して日本の国益には反さないと思う。
この点、留学生が増えると日本の大学における機微技術の技術流出防止という論点が浮上するが、この論点は技術安全保障上の課題である。教育においては国際化を達成する・安全保障においてはクリアランスを確保する(機微技術データへのアクセス範囲をJapanese Citizenに限定すること)ことはどちらも必要なことであって、論点が違う問題なので、ダブスタとの謂れは当たらないだろう。
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