Education in the U.S. 【後編】―出自の持つ宿命性ー
時間が空いてしまいましたが、学校のイベントの一環で行った、今住んでいる街の高校でのボランティア経験をベースに、高等教育以前の家庭教育等について考えました。
Origins determine fates
米国は同じCityの中でも完全にエリアによって生活水準、ひいては人種構成が分かれている国である。日本も多少はそうで、勿論住むエリアによって、雰囲気がハイソだったり下町だったり、高級住宅街だったり炊き出しがよく行われるエリアだったりと特徴が異なるが、米国の場合はその差が著しく激しく、エリアによって人種構成が相当異なる。
以下は完全に個人的な体験だが、学校のボランティア活動の一環で、いま住んでいる街(大都市)の貧困地域にあるCharter Schoolにボランティアをしに行った。
Charter Schoolとは、“従来の公立学校では改善が期待できない,低学力をはじめとする様々な子どもの教育問題に取組むため,親や教員,地域団体などが,州や学区の認可(チャーター)を受けて設ける初等中等学校で,公費によって運営”されている。(出典:文部科学省『アメリカ合衆国のチャーター・スクールについて』)
私が行った学校は、将来のLawyerを育てることを理念としたCharter High Schoolで、学費や文房具なども無料で提供していた。
その学校が立地するエリアは、一般的には日本人の駐在員などは間違っても絶対に住まないようなエリアで、道すがら目にした人はほぼ全員黒人、エリア全体も活気がなく、複数のホームレスがカートに大量の荷物を乗せて道の片隅に座って虚空を眺めていた(アメリカ治安悪いあるある)。
ボランティアとしては、ちょうど新学期前の時期だったので、新入生に提供するバインダーやIDなどの「学用品セット」を準備する手伝いをした。100人近くの新入生の学用品を整理した気がするが、新入生は100%BlackまたはHispanicだった。確実に白人もアジア系も一人もいなかった。
この時、以前教授のお宅にホームパーティーでお呼ばれした日のことを思い出した。教授は白人で夫婦ともに高名なロイヤー、ご自宅はホームアローンの映画の舞台かと思うほど広く、教授のお子さんはハープを習っていた。
ここで身をもって初めて、アメリカの貧富の差が出自によって相当程度運命づけられていることをはっきりと理解した ーどの家庭に生まれ、どの職業の両親から生まれ、どの人種に生まれ、どのエリアに生まれたのかー それがその後受けられる教育とキャリアに直結している。
出自がその子の宿命を生まれる前から決めている。論理的には以前から理解していたが、それを目の当たりにした気持ちだった。
出自の持つ宿命性が大きい国は米国以外にも沢山あるだろうが、ボランティアからの帰り道、ブランドショップ通りを抜けた先にあるお洒落なステーキハウスのテラス席で、おそらく一人$200くらいはするであろう食事を楽しんでいる客がほぼ全員白人である様子を見て、この国におけるEqual Pursuit of Happinessとは一体何だろうと思った。
彼らはこれが当たり前だと思っているのか、問題だと思っているのか。そのとらえ方もおそらくDividedだろう。
Museum or Gun Violence?
家庭環境は受けられる学校教育のみならず、その子が受けられる総合的な家庭教育にダイレクトに関係する。日本でもコロナ禍で家庭の持つ体力・子供に与えられる家庭教育の差が顕著になったと感じるが、アメリカでも同様の、勿論それ以上の家庭教育に対する考え方の差を随所で感じる。
私は博物館・美術館が好きでよく行くが、Museumにいる家族連れの体感7割くらいは白人である。彼らは教育熱心で、よく子供にこれは誰の絵で、画家はどういった人物で、どういうタッチが特徴か熱心に教えている。
また、米国のルーツにまつわる史跡(Boston Tea Party Museumや星条旗生誕の地など)に行っても、ほとんどが白人である。アジア系すらいないことが多い。
今日食べるものに困っている家庭は一人$20以上のMuseum ticketなどとても買えないだろう。低賃金で働いても食うにも困る家庭が、米国のルーツを学び、米国人としての誇りを子供に教えたいと心から思えるだろうか。
ボランティアの話に戻ると、ボランティアのオーガナイザー(私のローのAlum)に何がこの学校にとって最もChallengingか?と聞いたところ、「少なくない生徒が身近で銃や暴力のトラウマを持っており、それに対するケアが必要」という回答だった。Gun Violenceを身近で見るなどとてつもないトラウマだろう。闇の深さが自分の想像を超えていて、それ以上私は何も返せなかった。
居住エリア、両親の職業、両親の学歴、リテラシー、家庭教育に対する考え方・熱心さ、暴力に対する許容性、こういった複数の要素がすべて相俟って格差、ひいては出自の宿命性を生んでいる。現代の主要産業はGold Rushとは異なり高度に専門的で、教育の差が職業機会を決定づける。もはやAmerican Dreamは存在しないという言にも納得である。
ただ、そこで一つだけ救いだと思ったのは、(連邦政府がどう思っているにせよ)ローカルコミュニティはこの状況を少しでも改善したいと考えていて、ボランティアリーダーのAlumやその仲間が校長と連携して学校をサポートしていることだった。
日本でもチーム学校というコンセプトが少し前に生まれたが、ローカルからSmall Changeを生み出していくという考え方は普遍的であり、かつ最初のトリガーになる。Grass Rootsは決して力を失うことは無い。希望も感じたし、日本におけるチーム学校の理念に対する信頼を感じた瞬間でもあった。
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