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4:レビー小体型認知症の探索と要介護認定までの長い道のり

インターネットは、田舎の人間にも平等に情報を流してくれるありがたい通信網だ。本や雑誌も隈無く検索した。
近くに、頼れる医者はいないのか、レビー小体型認知症をより理解してくれる医師を探して、映子はいくつかのサイトに辿り着いた。
最初に、レビー小体型認知症を発見した権威として必ず出てくる小坂憲司の本を読んでみた。Youtubeの動画サイトも閲覧した。しかし、大吉の症状をケアする方法は見つからなかった。権威である医師は、アリセプト導入の立役者でもあった。アリセプトを飲んで、状態が悪くなったのを実感している映子にとって、この権威者を信頼することなど全くできなかった。レビー小体型認知症を特定したからと言って、患者の何を救えたというのか。アリセプトの導入によって苦しみを増やしているだけに過ぎないのではないか。映子は腹立たしかった。情報は、その制作年月日を注意しないと、古いものもまるで新しい顔で検索に上がってくる。実際、この医師の情報は古く、有益なものは何一つなかった。
同じ動画サイト「認知症なんでもTV」で、レビー小体について語っている医師がいた。医師は、自分の臨床経験からレビー正体型認知症を詳しく説明していた。その説明から、映子には今までの大吉の言動全てにピタリと符合するものを見つけたのだった。認知症は一日にしてならず。その人の発達特性と非常に深く関わっているのだ。
そして、さらに驚いたのは、アリセプトやリバスタバッチ、レミニール、メマリーなど、日本の厚生労働省が認知症薬とし認可し、奨励しているこれらの薬が、フランスでは2005年から保険適用から外されていたという情報だった。つまり、「これらの薬は、認知症に改善を与えたり、死亡率を下げたりという良い結果の証拠は不十分であり、有害事象の多さは無視できないほどだ」という評価をフランスの厚生省が下したのだ。
重大なニュースなのに、日本では語られていない。日本の医師は、日本の厚生省の言うままに認知症の患者にそれらの薬を投与し続けている。しかもアリセプトは、3mgから初めて3ヶ月後には、5mgに増量すること、という増量規定まで作られている。
映子が独自の判断でアリセプトの服用をやめてから、大吉の背中は伸び、歩幅も広がり普通に歩けるようになってきたのだ。手の震えも止まった。フランスの厚生省の判断は正解なのだ。日本は、認知症の重症患者を作り続けている。医療を信用できない悲しい現実に映子は愕然とした。
レビー小体型認知症の患者は、平均余命4年と本には書かれていた。確かにアリセプトを飲み続けたら、今頃大吉は、車椅子に乗っていたかもしれない。そして2年後には、寝たきりで死亡していたかもしれない。
今思えば、そのほうが早く介護から開放されることになっただろう。映子の心の傷も深くは残らなかったかもしれない。しかし、このときは、頼れるのは、自分のみ、そう思い頑張ってしまったのだ。人としてそうあるべきだと、悔いのない選択をしなければならないと映子は思った。最期まで寝たきりの期間はなるべく少なく生きてほしいと願う。それが大吉の幸せにもつながると信じていた。
しかし、医師でもない映子が、幻視、妄想を抱えた大吉を介護しながら、情報を吟味するのは容易な作業ではなかった。それを支えたのは、バッチフラワーの力と言えるだろう。レビー小体型認知症の人が陥りやすいうつ症状が大吉に出ないのは、バッチフラワーの力だ。映子の毎日の落ち込みを支えたのもバッチフラワーレメディーの力だった。
ただ、それだけでは、この病気と対峙するには足りないかった。
大吉の症状は、毎日これでもかと変化していく。新しい妄想、物の消失、夜間の徘徊。それは映子の想像を軽く超える出来事の連続だった。毎日が負のワンダーランドだった。
夜間になると寝ては起きてを繰り返し、家中の電気をつけて回るせん妄状態は、ほぼ毎日続いていた。バチバチと電気をつけたり消したり、家中の扉を開けたり締めたり。
ある時、夜間にトイレに起きた映子は、部屋の入口でびしゃっと言う足元にびっくりした。廊下にあるはずのない水たまりができていた。大吉は、せん妄状態でトイレと思い廊下に放尿して、自分はまた寝てしまったのだ。小水に踏み込んだスリッパは、そのままごみとなった。そして夜中の3時に掃除をし、小水まみれになった自分の足や手を洗い流す。眠気も失せて、怒りと気持ち悪さと吐き気に耐えながら、再びベッドに戻る。まだ、夜明け前だ。少し眠っておかないと持たないと、映子は自分をなだめる。
しかも放尿する場所はいつも違うのだ。あるときは、食器棚の下、あるときは玄関、あるときは別の部屋の扉の前、あるときは、、、。
映子は、夜間熟睡することができなくなった。いつ起きても対応できるように、トレーニングウエアで寝た。

名古屋のクリニックの医師が、認知症に効くというサプリメントを開発したという情報を見た映子は、藁にもすがる思いで、そのサプリメントを試したいと思った。しかし、ただ通販で買うよりも、そのサプリメントを使った治療をする医師の話を聞きたいと思った。HPのリストには山梨県には、二人の医師の名前があった。家に近い方の病院に予約を入れた。
割と若い医師だった。
今までの経緯を話し、アリセプトは飲みたくないことを伝えた。医師は、卓上の検査と血液検査をして、お試しとしてサプリメントを1ヶ月分くれた。映子が、通販で買おうとしていたものだ。これで少しは、幻視、妄想が改善してくれればと映子は祈るような気持ちだった。
サプリメントは、1ミリも効かなかった。1ヶ月では効果が出なかったのか。とにかく、幻視妄想に少しの変化もなかった。医師は、それ以上サプリメントをくれなかった。ただ、血液検査の結果ビタミンB12がとても不足しているということで、それを補う薬を処方してくれた。そして、介護認定をするならいつでも書類は書きますよと言った。
「介護認定できるのでしょうか」
「介護認定は、介護する人が必要だと思ったらすれば良いのですよ。」
映子は、介護認定というのは、医師が患者を見て判断するのだと思っていた。春川医師は、大吉のことをずっと認知症未満だと言い続けてきたのだから。これだけ幻視、妄想があるにもかかわらずだ。でも、そうではなくて介護者が大変だと思ったら申請すれば良いというのは全く新鮮な驚きだった。そして、介護認定を役所に届けて、大吉は、病院に行き始めてから1年6ヶ月で要介護1の認定となった。

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