手の上の桜。【春弦サビ小説】
抜け出せない。
ひたすらに軀を貪られ、心を千切られていく毎日。
あたしに明日なんて必要なかった。
それすらも認めてもらえず。
ただ……少しずつ削り取られていく。
ひと思いに消えてしまえたら。
とあるビル5階の遊郭で独り感情を殺しながら生きている『さゆり』は、
いつ終わってもよかった。
客も少なく鬱ろに過ごしていたさゆりの午後は、男達の怒号で破られた。
押し入ってなぎ倒されていっているであろう男達の声。
ウチの用心棒の声か?
はたまた、侵入者の声か?
あたしにはどうでもよかった。
「さゆり!来い」
遊郭のボスがさゆりの手を掴み、部屋を出ようとした際に白衣の男と出くわす。
「くそ……」
ーーお医者……さん?
『その辺にしとけや、あんた。往生際が悪いぜ……』
「来るなっ!この女殺すぞ!」
さゆりを盾にする遊郭のボス。
ーー丁度いい。殺しておくれよ。
『残念、死ぬのはその女じゃない』
白衣の男は言葉の終わりと同時に、即座に間合いを詰めて、ボスの頸動脈辺りを指で撫でた。
刹那、飛び散る紅。
『オレは医者だが、お前には死をくれてやるよ』
ーーあたしも殺して。
『大丈夫か?おっ、あんた、綺麗な人だなぁ……そんだけ気建てが良けりゃいい男と幸せになれんだろうぜ。もう自由だから……好きに生きろ』
白衣を翻して、仲間の元へ走る男。
笑顔が子供みたいな人。
優しい声。
あんなに怖い顔してたのに。
あたしに、あんな笑顔見せるんだもの。
「変な……お医者さんも居たもんだね……」
さゆりは久しぶりに微笑んだ。
ーーまた、あなたに会いたいな。そしたら……あたしを何処かへ……。
エンディングテーマ『手の上の桜』
Inspired by mimosa lyric.
Composed by NyancoGALAXY
Song by 𝐂𝐡𝐢𝐲𝐨 Ohashi
From『Dear doctor。』スピンオフ