秋の空、時計。
「ふー」
吐く息と共に宙を舞う紫煙。
ーー女心と秋の空か……。
普通に話していたつもりだったが、急激に気分を害した御様子で彼女は帰って行った。
公園通りに取り残されたオレは、ベンチに座り仕方なく煙草を燻らせる。
携帯灰皿に灰を落として、
オレのテンションも地に落とした。
ーー何がいけなかったんだ?
公園通りを歩いてる最中、突然。
『気付かないんだね!もういい!』
ーーなんかマズイ事でも言ったか?
思い出す会話の言葉の数々。
別段彼女の逆鱗に触れる様なことは言ってない。
ーーわからん……。何が彼女を怒らせたんだ……?
公園通りの前にはCafeに居た。
そこで何かしたか?
彼女のお気に入りのCafeだ。
機嫌良く好きな珈琲を飲んでいた。
ーーあ。
ふと感じる左手の軽さ。
彼女から誕生日プレゼントで貰った腕時計が無い。
『時間あまり気にしないから、コレあげるね』
時間にルーズなオレに彼女が選んでくれた腕時計を失くした。
変な汗がジワリと浮かんでくる。
ーーあ!Cafeでトイレに行く前、手を洗う時に濡らしたくなくて外してテーブルの上に置いていた!
腕時計を付ける習慣が無いオレは、全く慣れてなく付けていない事に違和感が無くなっていた。
走った。
疾走った。
Cafeまで出来うる限りの最速で。
すると、其処に彼女の姿。
息も絶え絶えのオレにーー。
『やっと気付いた。絶対忘れると思ったから私が持って出たの。大事にしてくれるか試してみたのよ』
ーーやってしまった……。
『まぁ、まだ慣れてないし、思い出して来てくれたから今日は許してあげる』
もう手も足も出ずにオレはひたすら謝り続けるしかなかった。
『この後、ご飯奢ってね♡』
「はい……ごめんなさいでした」
秋の空、腕時計を見てほっとしたのと、これから消えていくであろう財布の中身を憂いだ。
たはらかにさんの
【毎週ショートショートnote】
企画に参加させていただきました。