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その地に暮らす人の声を聞く~モロッコの旅の思い出から~

旅のこだわり

旅が好きだ。

見たことのない景色を見たり、おいしいものを食べたり、全く違う文化に触れて刺激を得ること。

いつもの生活から離れて非日常を味わったり、全く違う価値観を知り、日頃の悩みを俯瞰して見ること。

旅の魅力はたくさんあるけれど、私が旅をするときに意識しているのは、「現地の人から話を聞くこと」である。

学生時代、合宿で行った山中湖で、新幹線越しにしか見たことのなかった富士山を初めて間近で見たとき驚いた。
それまで「日本らしい美しい風景」くらいにしか思っていなかった富士山が、ものすごい迫力でどっしりとすそ野をひろげ、なだらかにせりあがっているのを見て
「こんなに雄大な景色を見て暮らしていたら、きっと人生観も変わるのだろうな」
「毎日この景色を見ていたら、小さなことも気にならず、精悍な気持ちになりそうだ」
と思ったのだ。

誰かに語りたくなって、降り立ったバス停でたまたま居合わせた現地のマダムにその感想を伝えたことがある。

するとその方は、
「あらそうかしらねぇ。毎日見てるからなんとも思わないわ。あっはっは」
と笑っておられた。

なるほど、普段こんなに高く美しい山を見慣れない私はそう感じたけど、常に山と暮らす人の感じ方はまた違っているのかもしれない。

こんな調子で、私は国内外問わず、旅に出ると現地の人に話を聞く。
旅先で道に迷ったり分からないことがあっても、すぐに現地の人に尋ねる。
なんなら言葉も教えてもらう。

そしてローカルな人の思いや価値観を知ることが、旅の醍醐味だと思っている。

この記事では、2013年に訪れたモロッコ旅行で触れた現地の人との対話で知ったモロッコの魅力を振り返りたいと思う。


モロッコの旅

大好きな推しの曲のMVのロケ地であるモロッコに行きたい。
当時20代だった私は年末年始の9連休を利用し、モロッコ一人旅を決意した。

欧米やアジアには行ったことはあったが、初めて行った北西アフリカは、それまで訪れたどの国にもない文化圏で、何もかもが新鮮だった。
アラビアンでもあり、オリエンタルでもあるイスラム文化の国。
町で見る何もかもが刺激的だった。

夢がかなったアイト・ベン・ハッドゥ

最も行きたかったのは、世界遺産アイト・ベン・ハッドゥ。

17世紀にベルベル人が築いた要塞の集落である。
この場所こそが先述の推しのMVロケ地で、ここに訪れたことは、念願の夢がかなった瞬間であった。

MVのシーンをひとり再現

マラケシュからサハラ砂漠へ向かう道中にあるこの地へ向かうには、アトラス山脈を越えていく。

にぎやかでポップなマラケシュの町から徐々に離れていくにつれ、景色は荒涼としたものになり、砂漠に近づいているのが実感できる。

近づくにつれ見えるカスバ(城塞)
大量のタジン鍋
大量のいんげんのような野菜
大量のアンモナイト
エスニックな小物たち。

少しでも現地の人と話すチャンスがあるときは、こうして目についた不思議なものについてその土地の人に尋ねるようにしている。

互いに母国語ではないカタコトの英語なので、通じるときも通じないときもあるが、なんだかんだジェスチャーを交えて通じ合えたりする瞬間がある。

たとえば並べられている人形について聞いてみると、「これはベルベルの戦士なんだ」などと言った言葉が返ってくるので興味深い。

何もない砂漠に浮かぶ雲の影

復路でアトラス山脈を越えているときに見た星空は人生で一番美しかった。
日本では見たことのないほどの無数の星が、まるで降ってくるかのように近くにある。遠くの星、近くの星の距離感まで分かるその光景は、まるで宇宙空間に浮かんでいるかと思うほどで、私は一気にその空間に没入した。
宇宙空間に漂う私は、自然に偉大さを前にあまりに小さく無力で、心もとなかった。地球にいながら宇宙に放り出された感覚に陥った。
宇宙を感じ、神聖な気持ちになるとともに、都会での日常などまるで関係なく宇宙が広がっていることがとてつもなく切なかった。
こんなに心が揺さぶられたのは初めてで、私は大きな感動を覚え、地の果てモロッコまで来られたことに、満足感でいっぱいだった。次に行く機会があればサハラ砂漠から星を眺めたい。


歩くだけで楽しめるスーク

訪れた土地土地にスーク(市場)があった。
町にはビビッドな色合いの小物や食材があふれている。

マラケシュのスーク

ジャマ・エル・フナ広場を眺めるカフェ
(マラケシュ)
人生で一番おいしいと思った
オレンジジュース屋さん
めちゃめちゃ甘いけど現地で飲むと本当に
おいしいミントティー。
モロカン・ウィスキーとも言われる。
ベルベル模様のラグ
色鮮やか


楽器はアフリカ感たっぷり。
アラブテイストのミントティーセット
バブーシュ

フェズのスーク

古都フェズを一望できる丘から。
見てのとおり、メディナ(旧市街)は
迷宮のよう。
スパイスがいっぱい
これもスパイス?
陶器も有名。
フェズのシンボルカラー、
ブルーがあしらわれたものも。
皮なめし産業が盛んなフェズ。
皮のバッグも可愛いものばかり。


オーガニックな生活の知恵が随所に

そんなスークの中でひときわ目を引いたのは、オーガニックな日用品の数々である。

オリーブの石鹸

このオリーブの石鹸をのちに現地のハンマム(公衆浴場)で使ってみたのだけど、肌がちゅるんちゅるんになってびっくりした。

スパイス屋さんに吊るされた謎の物体

これ、なんだと思います??
店員さんに尋ねてみたところ、「チューイングガム」との答えが。
木の皮を加工したもので、歯磨き代わりに使うんだよと教えてくれた。
木の皮をガムにしちゃうなんて、なんてオーガニック!!

またもや謎の茶せんのような物体

木の皮でできたガムに驚いていた矢先、別のお店で見つけた謎の小物。
みたところ茶せんのようなものだけど、ものすごく安価(確か日本円で10円くらいだったような)でカジュアルに売られている。

こちらも疑問に思い、店員さんに聞いたら、茶せん状の細い小枝を一本折り、シーハーするジェスチャーをして教えてくれた。
そう、これはモロッコの爪楊枝なのだそうだ。
ハーブを乾燥させたもので、よく見ると茶筅に見えたそれは、花のおしべ・めしべの形に見える。

この爪楊枝のことを、店員さんは「バシニーハというんだ!」と教えてくれた。

このように、植物などを日用品として活用しているモロッコの暮らしに私は、自然とともに生きる原始の知恵を見た気がした。


バシニーハとの再会



その後古代遺跡、ヴォルビリス遺跡に訪れ際のこと。

メクネス州にあるヴォルビリス遺跡
メインストリートにある門
紀元前からの古代遺跡です

モロッコのオーガニックっぷりがすっかり気に入った私は、(あとから考えたらうさんくさいガイドだったのかもしれないけれど)親しげに話しかけてきた現地の人に、その感動を伝えた。

すると彼は
「バシニーハね!!ちょっと待ってて」
と言って、そのあたりの茂みに分け入り、野生のそれを見つけてきてくれた。

加工される前の天然バシニーハ

インターネットで「バシニーハ」で検索しても何もヒットしないので、この植物が本当にバシニーハなのかは私には分からないが、市場で教わったバシニーハがヴォルビリスで出会ったモロッコ人にも通じたので、一定現地では知られた名前なのだと推察する。

そして、その人は「これがヴォルビリスの花だよ」と言って、また茂みに分け入り、遺跡の名前の由来となった花も持ってきて、花冠を編んでくれたのだった。

メクネスで見つけたヴォルビリスの花
この人とはなぜか一緒に写真を撮るほど
意気投合。

別の町で現地の人で教えてもらったことが、次に訪れた町での交流につながったり、新たな知識として広がっていくことが、この旅では本当に楽しいと思った。

インシャー・アッラー

モロッコはイスラム教の国。
いたるところにモスクがあり、定期的にアザーン(礼拝を呼びかけるお知らせ)が鳴る。
割と野太い男性の声で何かが流れるので、厳かで少し怖くも感じた。

マラケシュのミナレット(モスクにある塔)
モロッコ最大級のハッサン2世モスク
(カサブランカ)

イスラム教徒の人はアザーンが鳴るとたちまち座り込んで一斉に祈りを捧げるイメージがあった。

現に多くの人が祈りを捧げている光景を目の当たりにした。

しかし、とある旧市街で買い物をしていたとき、アザーンが鳴っても特に微動だにしない店員さんがいる。

「鳴ってるよ。お祈りしないの?」
と聞いていみると、
「あはは、お祈りはできるときにすればいいんだよ」
との返事。

なんだ。
みんながみんな、がっちがっちにやってるわけでもないんだなとその時思った。
イスラム教にものすごく厳格なイメージを持っていたが、意外とナチュラルなものなのかもしれない。

この旅で知ったイスラムの言葉に、「インシャー・アッラー」というものがある。
直訳すると「アッラー(神)が望むなら」という意味だ。

約束などをするときに
「8時に集合ね」
「インシャーアッラー(神が望むならね)」
と使うようで、その時間に行けるかどうかは神のみぞ知る。
つまり絶対ではないというニュアンスになるようだ。

関西人の「行けたら行くわ」に近いのかもしれない。

きっちり時間や約束を守る日本人には少し困惑する言葉かもしれないが、私はこの言葉が割と好きだ。

ちょっとアンラッキーなことがあっても、無駄にあがかず、
「神の思し召しだ」
と受け入れてしまう。

祈りの姿勢もそうであるが、日本で汲々と生きている私は、何とも言えないゆるさとあるがままを受け入れて自然や現実とともに生きるモロッコの空気に、とても癒されたのである。

声を聞く

特に異国の地の場合は、安全が第一なので誰彼構わず声をかけるわけにもいかないし、あくまでも無理なくできる範囲ではあるが、現地の人から聞く話はガイドブックには載っていない情報が知れたり、それまでの自分のステレオタイプに気付いたり、発見が多い。

そうした会話の中から心温まる交流につながることもある。
これからも旅に出たら、その地に住む人の声を聞きたい。
いつもの暮らしでは決して知ることのできないことを知り、新たな視点を得られることで、旅は何倍も楽しくなる。





#私のこだわり旅




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