きっと気持ちは通じ合うー『夜中に犬に起こった奇妙な事件』
イギリスの中学校に通う息子が、英語の授業で使う本だということで読み始めた。邦訳も出ているし、ウェストエンドで舞台化もされるほど、イギリスでベストセラーになった児童小説。
主人公は15歳の男の子。アスペルガー症候群がある。この主人公クリストファーが語り手となって、家の近所で起きた犬殺害事件の犯人を探し出す話だ。
読者は1ページ目を開いたときから、もうすでにこのクリストファーの特異な脳内に面食らう。
彼は数字が大好きで、筋が通っていないことが嫌い。逆に筋が通っているものが好きなので、自分がシャーロック・ホームズのように演繹的アプローチを使えば『バスカヴィル家の犬』みたいに犯人だって見つかると行動に起こすが、知らない人と話すのが苦手なため名探偵のようにスムーズに聞き込み調査ができると言うわけではない。
読んでいるほうも、一般常識とはかけ離れた世界に住むクリストファーの行動にハラハラしながら読み進める。
でもこの小説の魅力は、たんなる少年探偵推理小説ではないところだ。主人公は、人の感情が読めない。そして彼の感情表現も一般とはかけ離れていて、周りの人が容易に理解できない。両者が平行線を辿っていくようにも思えるが、語り手のクリストファーの中では、彼なりに外の世界を理解しようとしていて、その思考回路がとても新鮮で面白い。
また、クリストファーの行動を通して、彼を取り巻く登場人物の心情がくっきりと浮かび上がってくるところも良い。特にシングルファーザーとしてクリストファーと暮らしている父親が、愛情はあるのにクリストファーに伝わらないもどかしさを感じながらも、息子に愛情を与え続けていく展開にとても救われた気持ちになる。
この本を使って、おそらく学校ではマイノリティに属する人々を理解するというような教育も含まれていたのかと想像する。学校で実際にどんな授業をしたのか私も授業に出てみたかったなぁと思う。