彼方伽奈の当たり前な奇妙な日常 #1
初めまして
こんばんわ。
お仕事ご苦労様です
彼方伽奈です。
初めにこれは、私の身に降りかかった瑣末な出来事を書き記したものです。
毎週月曜日に更新します。それ以外に更新するときは私の気分の乗った時になります。
まず、簡単に私の自己紹介をさせてください。
改めまして、私、彼方伽奈と申します。
読み方は「かなたかな」と言います。「彼方」って苗字は初めましての人には大体驚かれます。珍しいのでしょう。私も生まれてこの方、自分と同じ苗字に出会ったことはございません。
そして、名前も「かな」で苗字と名前を続けて呼ぶと「彼方かな」。
字面だけだと、なんだか、すごく遠くのものを見つめて感慨にふけっている感じがしますね。でも、誰もそんな浸った気持ちで呼んでくれたことはないです。
脱線しました。私はよく脱線します。話もですが、よく街中でメインの通りの脇にある細い路地を見つけるとつい入っちゃうんですよね。太々しい野良猫にみつられるとついつい、、、、、。
年齢は27歳で一人暮らし。都内にある企業の事務職をしています。可もなく不可も無く、ストレスフリーにお仕事させていただいております。
家族構成は存命なのは両親、3個下の妹と弟、母方の祖父母、それにペットのシャルル。それに、つい最近落命してしまった父方の祖母、だいぶ昔の戦争で落命してしまった父方の祖父がいます。先祖も数え上げればキリがないですね。
あとは趣味。これ!!と言って鳩胸を張るくらい堂々とした趣味はないのですが、強いてミジンコくらいの度胸で言うなれば散歩でしょうか。休日はのんびり歩いています。
かく言う私がこの執筆をさせてもらうようになったのは散歩のおかげなんです。?。「おかげ」?。「せい」?。ニュートラルな感情を表したいんですけど、、、、。難しいですね、日本語。
さて、私のベストオブ細路地について書いてもいいんですが、今回は担当者さんとの馴れ初めについて書かせていただきましょう。あ、独身ですよ、私。
先週の日曜日、モテ期なり
先週の日曜日の午前のことです。いつも通り特に何もすることのない私はS公園へ散歩に出かけました。
その日の空は突き抜けるような青で、カンカン照りの太陽がいました。
私はこの二つの組み合わせがとても大好きです。近所にいる底抜けに明るい、人類皆応援党のおしどり夫婦みたいな感じがして、どんなに怠惰でもシャッキと、ネガティブな日も「頑張ってみよ!」と思わせてくれるからです。大好きを通り越して尊敬です。
だから、「クソあちぃ!死ね、太陽」と言いながらスマホ片手に脇を通り過ぎる小学生たちを見て、「よくないぞ!」と思ってしまいます。もちろん、大人にもです。
ただ、まぁ、暑いことは確かで、スタミナの全くない私はものの10分ほどで木陰のベンチに避難しました。座れたのはラッキーです。ただ、木陰は想像以上に涼しいんですけど、昨今の暑さの中では気休め程度にしかなりませんね。
「ねぇ、お嬢ちゃん」
8時の方向から、銃声ならぬ獣声が。
振り向くと、でっぷりした肉付きの良い体を使い古された雑巾みたいな紺色のスーツで覆った井の頭、いえ、猪頭がいました。
みなさん、私があまりの暑さに気が狂ったと思うでしょう。まさか、太陽と青空のコンビへの200文字くらいの敬愛を示していることも暑さに脳をオーバーヒートされてしまったと思うのでしょう。
いえいえ、猪頭と青空・太陽師匠への老愛も事実なんです。
告白しますと、私は小学生の頃からこういうのが見えるんです。人のふりした人外たちの姿が。どうやら他の人に見えないっぽくて、私が会ったことないだけかもしれないんですけどねー。
もし見える人がいたら、連絡待ってまーす。
で、このサラリーマン猪頭。なかなか年季の入った牙と獣獣したお顔を持ってらっしゃる。他の人からは、40代後半から50代前半の中年男性くらいに見えているんでしょうかね。
「はい、どうしましたか」
「ちょっと、おじさんとお茶しな〜い」
ナンパでした。初ナンパ。猪にナンパ。しっくりこない字面、全く重さがないですね。Not リアリティ。私の心が浮き足立ってるせいもあるでしょう。
初めてのことを提供してくれるのは誰であっても嬉しいタイプです。
「初めてのお誘いで大変嬉しいんですけど、私猪さんと将来どころか現在を添い遂げることは流石にできないです」
「え、お嬢ちゃん僕の姿見えてるの!!」
「はい」
「そうなんだ・・・」
「ねぇ、お嬢ちゃん可愛いね。そんなおっさん無視してさ。俺と今からちょっと遊びに行かない」
今度は3時の方向からじっとりした若々しい男性の声が。失礼、蛇声が。
振り返ると、アロハシャツに水色の短パンにサンダルといった、いかにも「遊んでまっせー、俺の人生超楽しー」みたいないで立ちの蛇の顔した兄ちゃんがいました。
ただ、やっぱ蛇なので少し陰が好きなのでしょうか、肌は美白で、首や指につけたギラギラのシルバーアクセサリーと一緒に輝いていました。ところで、常々思うのですが、こういったシルバーアクセサリーを男性の方はどこで手に入れるのでしょうか。こちらも連絡待ってまーす。
とは言え、1日に二匹にナンパをされるとは・・・。これが、私のモテ期の頂点なのだろうか。せめて、一度いいから人にナンパされてから死にたい。
「いいえ、蛇さんとも無理です」
「え、マジ。つーか、俺の姿見えてんの!?」
デジャヴ。でも、人外の方からすると、私は普通の人間で普通に見えてないと思うのが普通ですから、よくある反応です。あと、こんな話かけられているけど危険じゃないのか、って思うかもしれませんが、接してみると人間の倫理観を遵守しているというか、一周回って人間に飼い慣らされているというか、とにかく彼らは人間世界にすごく馴染んで人間味あふれる存在です。
だから、人間と接すれば基本的には問題ないかと。ただ、フィジカル的な特徴に関してはよくわかりません。触られたことも、タックルされたこともありませんから。
それから、サラリーマン猪頭とチャラ蛇男は口をあんぐりと開けたまま、私の頭の上で、見合って目をぱちぱちさせていました。それを私は交互に見てました。
まばたき3回して、ほんのりなが〜く見開くのを3回、それからまばたき3回。あれ、モールス信号のSOS?。「目で会話する」って言葉がありますけれど、人間以外もするんですかね。
「ちょっと、困っているじゃないですか!」
3体目かぁ〜っと思ったら、今度は正真正銘の成人男性でした。それも私と同じくらいの年頃。しかも爽やかな塩顔系イケメン。体の線は全体的に細いけれども、薄い青地のワイシャツを捲り上げて露わになった二の腕からは青筋と筋肉が浮き上がり、逞しさを感じられる。
なんか・・・、漫画みたいな展開と思いつつ、まずはどうやら日曜出勤している彼にご苦労さまですを込めて、首だけの一礼を。
「ほら、困っているじゃないですか」
あららら、確かに今の私の挙動は彼の言葉に同意しているように受け取られますよね。塩顔系イケメンの目は一層険しくなり、2体を睨みつけています。
さて、文面だと感じられないですが、彼の声は非常に大きいです。意識的か無意識的か分からないですが、高校球児並みに大きいです。もしかすると、高校球児だったのかもしれません。
その結果、公園を歩く色々な人たちの注意を一挙に引くことになりました。
サラリーマン猪頭とチャラ蛇男の目は左右上下色々なところを目まぐるしく動き、目に見えて心がオロオロと狼狽えるのが見て取れました。
「へっ、へへ悪かったね、お嬢ちゃん」
「じゃ、じゃあ」
そう言い残し、塩顔イケメンの彼が来てから1分も立たず、二体はそそくさと私のもとを去っていきました。
「大丈夫ですか」
彼らがずいぶん遠くにいったのを確認すると。険しい表情をほわっと解いて、柔らかな笑顔を私に向けました。歯は適度に白く、肌も綺麗で幻滅する要素はこれといって見られず。
こういうシチュエーションに乙女はキュンキュンしちゃうんだよなぁ〜、と思う自分がいることに気づいてしまった自分はもう乙女の心を持っていないんだなぁとを痛感させられました。
「ありがとうございます」
私は立ち上がり、今度は感謝の言葉を添えて礼をしました。
「うん、じゃあさ僕と今からお茶してくれない」
爽やかな笑顔でお誘いを受けました。またかぁ、と思いました。イケメンならいいかなと思ったんですが、面倒だったので丁重に断らせていただきました。あと、「じゃあさ」っていう助けるという行為の対価として「お茶をしてくれ」を提示するその感じに底知れない恐怖を感じました。
すると、彼は手首をガッと掴みました。
『おや』
『おやおやおや』
悪い予感的中。心臓にまで粟立つような心地でした。
「これは・・・・、どういうことでしょうか」
「だって、僕助けたんだからさ。感謝しているんでしょ。いいじゃん、お茶くらい」
爽やかな笑顔を浮かべながらなんと気持ちの悪いことを言うのでしょうか。これもある意味漫画的シチュエーション。この感じなら、更なるヒーローが登場して、しかもそれが小学校の頃仲良かったけど、卒業と同時に転校してしまった幼地味の彼みたいね。
ただ、そんなことは起きませんでした。ちょっと期待してみて待ってみましたが。
イケメンは硬直状態を打破しようと、私を強引に引っ張って行こうとしました。仕方ありませんね、最終手段であり常套手段です。私は息を大きく吸い込みました。よし、準備万端。
「この人、痴漢です〜、私を引っ張ってホテルに連れ込もうとしてます〜」
さて、事の顛末。
周囲の人間は今一度私たちに注意をむけ、塩顔キモイケメンはギョッとした顔をして、すごい速さでどっかへ逃げていきました。不思議ですね、誰か助けに来る気配があったわけでもないのに。
ふぅ、久しぶりに大声を出しました。星が舞ったみたいに目の前がチカチカしました。
すると、視界に隅に人の影が。やめて、私の体力も気力ももうないのよ。
「大丈夫?」
なんと、俯き加減の小学生くらいの男の子がいました。どうやら私の助けを求める声に応じて来てくれたようです。その子の手には、小さな飴玉が。
「いいの?」
と私が確認すると、男の子は無言でうなづきました。私が飴玉を手に取ると、男の子はダッシュでお母さんと思わしき人の元へ走っていきました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?