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逆襲のシャーク①【逆シ1】

アルフレッドとバートは、<花の街>リトへと向かう乗合馬車に揺られていた。

ーーーーベルリオースからエクナ島へと航ったふたり。

ここでアルフレッドのシャストア信者としての師匠、プリメラ高司祭の居所に関する手掛かりを探す、のかと思いきや、ひとつ片付けておかねばならない案件の存在を思い出したのだ。

そう。役目を終えた<神の鳥>の羽を、<スター・アイテムズ>のミオの許へ返却することである。

そうしてアルフレッドとバートは、エクナ島からロベールへと航った。以前にも寄港した小港街から、リト行きの乗合馬車に飛び乗った次第である。

やがて遠景に、街に数倍する面積の広大な花畑に囲まれた、商業都市リトが見えてきた。

街に入ると、勝手知ったるなんとやら、真っ直ぐに<スター・アイテムズ>へと向かうふたり。

まずは隣店である<鍛冶屋マックスの店>の暖簾をくぐる。ミリィにも挨拶をしておこう、と考えたのだが。

「…………あれ?」

看板娘のミリィが居ない。と云うか、店番が誰も居ない。

「……<スター・アイテムズ>に居るのかな?」

以前に聞いた話に依ると、ミリィは結構頻繁に親友ミオが店番をしている<スター・アイテムズ>に入り浸っているらしい。なのでアルフレッドとバートも、そのまま隣の店へと移動する。

ところがーーーー。

「……ミリィ?」

今度はミオが居ない。店先に居たのはミリィと、見たことのない妙齢の女性だ。

「アルフレッド!? それにバート!? どうしてここに!?」

ふたりの姿を認めたミリィが驚いて問うてくる。

「どうしてって……、<神の鳥>の羽を返しに来たんだよ。そう云う約束だったろ?」

するとアルフレッドのその言葉を聴いたミリィと女性、お互いに顔を見合わせると。

「まさかこのタイミングで<神の鳥>の羽が返って来るとはね……。これはもう天啓かしらね?」

「だけど、まさかホントに渡しはしないだろ? どんな悪用のされ方をするか想像もつかない」

「でも羽が手元に無いと交渉の仕様も無いからね。とりあえず戻って来て良かったわ」

と、なにやらミリィと妙齢の女性がどんどん訳の判らない話を進めていくのを。

「ちょ、ちょっと待ってミリィ! 一体何がどうなって居るんだい!? ミオは何処!? そしてそちらの女性はどなた!?」

慌てて止めるアルフレッド。

アルフレッドの言にミオと女性、再び顔を見合わせると。

「そっか。ふたりが逢うのは初めてだったね。こちらは<スター・アイテムズ>のオーナーで、ミオの魔術師としての師匠、レーナだよ。レーナ、このふたりが以前に話した、あたしのお爺ちゃんの兄弟子の紹介で<神の鳥>の羽を借り受けて行ったアルフレッドとバート」

ミリィがふたりに妙齢の女性を、そして女性にふたりをそれぞれ紹介する。

「へえ……、貴方たちがね……? 聞いた話だと3人、ってことだったけど、もう1人はどうしたのかしら?」

魔術師レーナが問う。彼女の服装はたっぷりとした布のローブにマント、そして三角帽子を被っている。肌の露出が殆ど無い服装なのだが、厚い口唇や躰の動きで時折ローブに浮き上がるボディラインなど、信じられないような濃密な色気を振り撒いている。まるで性的魅力が服を着て歩いているような女性だ。

「カシアなら今回は別行動ですよ」

アルフレッドが質問に答える。

「それよりミオは何処だい? 彼女にも挨拶をしておきたいんだけど」

そう云って、アルフレッドがきょろきょろと周囲を見回すと。

「アルフレッド、バート。落ち着いて聞いて欲しい。ミオは…………拐われたんだ」

「「拐われた!!!?」」

異口同音に、大きな声を上げるふたり。

「ど、どう云うことだい!?」

動揺を抑え、アルフレッドが質問をする。ミリィはひとつ頷くと。

「<スタージェン>を憶えているかい?」

アルフレッドに確認してくる。

「勿論憶えているさ。海賊団<ブラッディ・シャーク>の生き残りで、<神の鳥>の羽を盗んだ邪術師……だよね? 確か、羽を触媒にして<神の鳥>を召喚するって云う、およそ実現不可能と思われる大それた企みをしていた」

「その通りだよ。どうやら<神の鳥>の羽を盗むと云うのは、<スタージェン>が単独で思い付いた企みではなく、上役から命令されていたことだったらしいんだ。まああんな下っ端の三下邪術師に思い付くような計画ではないと、ミオも不思議に思ってはいたんだけど」

「命令?」

「うん。あたしたちが<スタージェン>と闘った難破船があったでしょ? どうやら<スタージェン>は<神の鳥>の羽を手に入れた後、あそこで待機するよう命令を受けていたらしいんだ。で、後からやって来た上役に羽を引き渡す、とそう云う段取りだったらしい」

「でも僕たちが先に難破船に到着して<スタージェン>と戦闘になり、結果羽を奪還されてしまったと。あれ? でも<スタージェン>の奴、あそこで<神の鳥>を喚ぶ儀式の準備をしてなかったっけ? 最初からそう云う計画だったの?」

アルフレッドの疑問に。

「いや。そもそも<神の鳥>を召喚するなんて云う計画自体、<スタージェン>の早合点だったみたいでね。あいつが功を焦って勝手に儀式を始めようとしてたみたいだよ。あいつに命令を出した上役には、どうやら別の思惑があったみたいだ」

ミリィが答える。

「上役……。一体何者なんだ?」

バートの呟きに。

「<ブラインド・オルカ>。ガヤン神殿から正式に懸賞金をかけられた賞金首であり、正真正銘<ブラッディ・シャーク>の幹部構成員の生き残りよ。<スタージェン>などとは比較にならない大物ね」

レーナが憂いを浮かべながら答える。

「そんな奴が……。でもなんで<スタージェン>を斃し、羽を奪還したのがミオだと判ったんだろう?」

アルフレッドが頭を捻ると。

「あたしが<スタージェン>の遺体をガヤン神殿に持ち込み、報奨金を受け取ったからだよ。ガヤン神殿の記録から辿られて、<スター・アイテムズ>に行き着いたんだと思う」

ミリィが答える。ミリィの目撃情報が多いのは、実家の鍛冶店かさもなくば<スター・アイテムズ>だ。

「ガヤン神殿が、情報を漏洩したのか!?」

半ば怒り気味にアルフレッドが云う。が、ミリィは首を横に振り。

「今朝未明ガヤン神殿に務める事務官の他殺体が発見された。遺体は酷く損傷して、苛烈な拷問を長時間受け続けていたことが容易に察せられたそうだよ。怖らくは喋りたくて喋った訳ではないと思う。無理矢理訊き出したんだろう」

ミリィの言葉に。

「酷い。何てことを……!」

顔を伏せるアルフレッド。

「<ブラインド・オルカ>は組織の暗殺者よ。残忍な奴でね、本業ではないけど拷問も得意よ。今回の下手人も怖らく奴自身ね」

レーナが情報を補足する。

「<ブラインド・オルカ>が羽を奪いに<スター・アイテムズ>へとやって来た。そしてその時たまたま1人で店番をしていたミオと遭遇した。奴は羽を要求したが店に羽は無かった。アルフレッドたちに貸し出していた訳だからね。ミオは羽は無いと云ったが奴は信じなかった。そこでミオを人質に取り、羽との交換を要求してきた訳さ。事が起きた後で店を訪れたあたしと、久し振りに店に帰って来たレーナが、奴からの伝言を発見したと云う訳さ」

ミリィがミオ誘拐のあらましを説明する。

「ミリィから話を聞いてね。こちらの手元に羽が無いことは判った。けどそれでは交渉の仕様が無いし、どうしたものかと頭を捻らせていたところへ、貴方たちが来訪したと云う訳よ」

と、レーナ師匠。

「なるほど。オイラたちは絶妙なタイミングで訪れた訳っスね」

「そう云うこと。とにもかくにもこれで交渉の材料は出来たわね」

「でもレーナ、本当に羽を渡す訳じゃないよね? 奴ら、何を企んでいるか判らないんだよ?」

ミリィが心配そうに云う。

「そう云えば、<神の鳥>の召喚が目的でないなら、<ブラインド・オルカ>は羽を使って何をしようとしているのでしょう?」

アルフレッドがレーナに訊ねると。

「判らないわ。けどどうせロクな目的ではないでしょうね。ミオを取り戻すには羽を渡さざるを得ないでしょうから、ミオを確保した後で改めて奴の企みをぶっ潰すしかないわね」

レーナが答える。

「そう上手く行くかな?」

ミリィはなおも心配そうだ。当然だろう。

「ガヤン神殿に通報は?」

アルフレッドが今度はミリィに問う。

「駄目だよ。通報したと判った時点でミオを殺すと」

「脅してきた訳っスか。まあ、そうっスよね」

予想出来ていたのか、バートが首を左右に振る。

「交渉に人質交換に下手するとそのまま戦闘か……。よし。僕たちも一緒に行くよ。<ブラインド・オルカ>は僕たちの存在を知らない訳だから、上手くすれば不意を衝ける」

「ま、そう云うと思ったっスよ」

アルフレッドの申し出に、バートがやれやれと両掌を上に向ける。

「……また、助けてくれるの?」

ミリィの問に。

「友だちの危機を、アルフが放っておける訳ないじゃないスか」

いつものことと、バートが答える。

「……ありがとう。正直、戦力不足は否めなかったんだ。レーナは強いけど物理で<ブラインド・オルカ>に勝てる訳じゃない。攻手があたし独りじゃ、ホントに不安だったんだよ」

ミリィが嬉しそうに云う。

「こちらこそ、カシアを連れて来なくて済まない。僕とバートだけでは頼りないだろうけど、よろしく頼む」

「そんなことない! <スタージェン>を斃したのだって、ディワンたちに認められたのだってアルフレッドだったじゃないか! 頼りにしてるよ」

ミリィがアルフレッドの手を握る。

「それで、羽とミオの交換はどう云う手筈なんスか?」

バートが実務的なことを問う。

「あたしたちが<スタージェン>と闘った例の難破船があったでしょ? 明日の夜明けまでに<神の鳥>の羽を持ってあそこに来い、ってさ」

「あそこか……。確か街道を歩いて半日くらいだったっけ?」

アルフレッドが記憶を手繰る。

「あの難破船は崩れかけててあちこち穴が開いてたスから、侵入口には事欠かなかったっスね? じゃあミリィちゃんとレーナさんには正面から目立つように近付いて貰って、オイラとアルフは海側の死角から侵入しやしょう」

最近アルフレッドは、バートから気配遮断や無音移動の技術を学んでいる。幻術との組み合わせで有用な技能になると考えたからだ。

「<忍び>技術の、訓練の成果の見せどころだね」

バートの提案に頷くアルフレッド。

「それじゃあ準備が整い次第、出発しやしょう。今からなら、陽が暮れる前に現場に到着することが出来るっス」

バートの号令に皆が頷くと、闘いの準備を整え、4人はリトの街を後にするのだったーーーー。

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