ワクワクが止まらない職場
ヨロンの病院で働く前に、アパートに案内されました。
鉄筋コンクリートでできた2階建ての建物には
同僚の看護師のほかに、薬剤師さんが入居していると言われました。
隣の部屋に、ご挨拶するためにインターホンを押してみると、
明らかに島の人ではない雰囲気の女性が出てきました。
移住してきた人たち
このアパートに住んでいたのは、島外の看護師さんたちです。
引っ越しをしながら他の部屋の人たちに挨拶をしていると
『どこから来たの?』と聞かれました。
『北陸です。』
『へぇ~珍しい、はじめてきたかもよー』
北陸からは私が初上陸?そう思ったら、ちょっと嬉しくなりました。
方言交じりのオリエンテーション
入職当日は、オリエンテーションだったのですが担当看護師さんは、
鹿児島出身だったこともあり、薩摩弁交じりで仕事の流れを説明してくれました。
(薩摩弁はわかりづらく意味を予測しながら聞いていました。)
その周囲で”島の方言”で患者さんと会話している姿が気になっていました。
『なんて言っているんだろう?』
そんな顔をしていたのでしょう、同僚が島の言葉を通訳してくれました。
驚くべき歓迎会
さて、仕事が終わった後は歓迎会!
18時に病院会議室に集合することになっていました。
なので集合時間に間に合うように5分前に病院についたのですが・・・
18時になっても18時半になっても、誰も……こない。
『時間、まちがえたかなー』
でも料理はテーブルに並べてられているので、
『間違ってはいないような気がする』
そう思いながら一人でうろうろしていると、常温のままの
お刺身らしき魚がラップを掛けて置いてあります。
『これって、まさかねー(; ・`д・´)』
心配になってきましたが、
『刺身?生では食べないよね?』
そして19時近くになってから人が集まりはじめてきました。
※※※※※※※※※※
この時には知らなかったのですが
島では”島時間”という時間の風習があって
、”集合時間に家を出る”
ぐらいの気持ちでいるので、ゆったりしているのです。
そんなわけで、私一人が律儀に時間厳守していたのでした。
刺身ってこんなふうに食べるものなのか?
結局、歓迎会が始まったのは19時30分を過ぎていました。
『まったく・・』
(最初のころはそんなふうに感じていました。)
島口で話す声が、あちらこちらから聞こえてきても、理解が出来ない私は
輪に入れずにいました。
その場で自分は浮いているような感じがしていました。
人が集まった後、院長あいさつが終わり、乾杯してから食事が始まりました。‥‥先ほどのさかなのラップが外され
『もしや』
と思っていると、
みんな、醤油とお酢を混ぜたタレでさかなを食べ始めました。
『刺身やん』
『あ、あかん。』
『あの時間帯で、この気温で、常温のままの刺身・・・』
日本海育ちの私としては、刺身の鮮度が気になるし
こんな状態の生魚を食べたことはないけど、嫌な予感しかしない。
だけど‥‥、みんな食べている。
『どうしょう~』
迷っていないで聞いてみよう(p_-)
『刺身って酢醤油で食べるんですか?』
『あたるとよくないから、お酢を入れて食べるさー』
『?』
とりあえず、みんなと同じように食べてみることに・・
一口食べてみると、
独特のにおいがする上、お酢で風味がおかしくなってしまう。
『無理だ―』
『ご、ごめんなさい』
『いいっさ。いっさー』
『島んちゅはね、さかなはあんまり食べつけないからいっさー。』
と笑っていました。
この他にも、黒いフナのような魚のあまずあんかけがあったのですが
『これも見たことあるね?ピキ』
『こんなおさかな見たことないなぁ~』
『ピキは癖があるよー』
そういわれましたが、どんな味だろうと一口食べてみることに、
『うっ!』
甘酢あんかけされた”ピキ”も残してしまいました。
※※※※※※※※※※
後で知ったのですが、常温のお刺身・・
実は氷の上で冷やされていたそうです。
歓迎会が遅くなったことで、氷がとけてしまったらしいです。
(いやいや、いつから置いてあったんだって思うけど)
刺身で出てきたさかなの名前はエラブチ(イェラブチと発音する)というきれいな魚だそうです。
腹痛に苦しむ
歓迎会もほどなく終わり、二次会には参加せず、
早めにアパートに帰ってきました。
備え付けのベットに横たわって、TVを見ながら1時間ぐらいたったころ、
なんとなく胃の辺りに違和感を感じていました。
それからしばらくすると、胃がじわじわ痛くなってきて、
吐き気と耳鳴りがしはじめました。
『気持ち悪い……』
すぐにトイレで吐いて、すっきりしたので
『ちょっと当たったかな~』
ぐらいの感じに思ってしまって、そのままTVの続きをみていました。
ですが急に冷や汗が出てきはじめて、猛烈なお腹の痛みに悶絶。
それから2時間半苦しみぬいた後で、
痛みが波のように、強くなったり弱くなったりする中で、うつろな感じのまま気が付いたときには、すでに朝になっていました。
何とか出勤しましたのですが、
『顔!・・・真っ白よー』
夜勤明けの同僚が、私の顔を見るなり慌てふためきます。
『ピキ 食べたの?』
『あたったんでしょ!』
『島の魚は内地の人には向いてないんだよ。』
『だれも言ってくれんかったん?』
何かいわれている気がしましたが、
その時には生気がなく、そのまま診察室に連れていかれました。
院長先生も、看護部長も心配しながらも
『ピキだな』
と言っている声が聞こえました。
私にとっては記念すべき最悪な2日目となりました。