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手首のメモリー

初めて使うケトルでコーヒーを淹れようとしたら、お湯がどばっと出てしまった。

慣れてくると水が細い線を描いてゆっくりとぽとぽと注ぐことができるようになった。

料理に慣れるまでは目分量などわからない
始めて入る和室の障子を引く力加減がわからない
他人の家の水道レバーに込める力がわからない

手や指先には専用のメモリカードがあるかと思うほど
たくさんのことが記憶されている

見るだけでは覚えられない
言葉を聞くだけでは身につかない
手先ほど経験で学んでいくものはないように思う

たくさん描く人はきっときれいな線を引くのだろうな
たくさんPCを使う人は、たくさんピアノを弾く人は、手元を見なくても正確に指が動くのだろうな
たくさんコーヒーを淹れる人はあの細い注ぎ口からゆっくり一定にお湯を注げるのだろうな

たくさん「それ」に触れる人は「それ」を美しく使うことができるのだろうな

難しいことを考えず、呼吸するようにすぅっと傾く手首のその角度がきれいだ

なめらかにコーヒーを口に運びながら