「風よ、万里を翔けよ」
「風よ、万里を翔けよ」田中芳樹
銀河英雄伝説などで有名な著者が、唐王朝へと移りゆく激動の時代に、落日の大隋帝国を支え勇戦した伝説の美少女を描く中国歴史長篇です。
この伝説は中国では時代やディティールを変えながら様々に語られていて、のちにディズニーで「ムーラン」として取り上げられるほど魅力的な題材でもあります。
本作もなかなか骨太な歴史小説となっているのですが、当のムーランよりも、影の主人公である煬帝(ラスボス、隋最後の皇帝、中国史上最大の暴君)の描写の方が力が入って際立っているように感じるのは気のせいではないでしょう。
煬帝は積極的な暴政ではありません。知性も感性も豊かすぎるほどです。しかし自制心と持続力が欠如していて、失敗の責任を全く取りませんでした。快感と不快感が行動基準でありそれがそのまま隋の政治原理となっています。この絶大な権力に伴う渦巻くような詩才と孤独は、クオワディスなどで描かれてきたローマ帝国の暴君ネロにも通じる悲哀があります。この辺りは権力の孤独を銀英伝で描いてきた田中芳樹の真骨頂といえるでしょう。
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