「羊飼いの暮らし」
「羊飼いの暮らし」
ジェイムズ・リーバンクス
“600年以上つづく羊飼いの家系に生まれ、オックスフォード大学に学んだ著者が、一家の歴史をたどりながら、厳しくも豊かな農場の伝統的な生活、そして湖水地方の真実をつづる。”
美しい春夏秋冬に合わせて、伝統的な羊飼いの暮らしや仕事が飾らない文章で細やかに語られていきます。その合間合間(分量は五分五分くらいだけど)に、フラッシュバックするように挿入される読み応えのある回想や歴史、そして著者の想いは淡々として朴訥、しかし気づけば肌が粟立ちながらページを捲る手がとまりません。
謙虚で勤勉な人々の風景、ずっと続いてきた名もない人間の歴史と目に見えない無数の仕事。その土着であるはずの自分たちが、学校や世間でもてはやされるロマンティックな湖水地方の物語や意味の一部ですらないことへの戸惑い。
合理的な経済意味の枠の外にある仕事の山。
無数の制限の中でいつも新しい切り口を模索しながら、義務ではなく強みとして未来を作る羊飼いたちの矜持。条件の悪い土地でより少ない投資でコストや経営を熟慮した上で選ばれた伝統というシステム。“旅行先での束の間の恋というよりも、長期にわたるタフな結婚生活という感じ。“
コントロールできる何か、選択肢を求めて飛び出した学術の世界。今までの経験よりも大きなレベルで自分の運命を決める大切さを知り、
チェルノブイリや口蹄疫、度重なる困難に見舞われながら、その上で伝統を受け継ぐ決意と覚悟を固める。
世代は移り変わり、
そしてまた巡る季節。
座右の本にしたいと思います。