【映画感想】『悪魔と夜ふかし』 メディアは悪魔だ!
『悪魔と夜ふかし』
監督 コリン&キャメロン・ケアンズ兄弟
TOHOシネマズ日比谷で観賞
1977年のハロウィン夜。視聴率に苦戦していた深夜の生放送トークバラエティ番組はハロウィン企画として、霊感占い師などのオカルト者と超常現象否定派のマジシャンを呼び面白い番組にしようと試みる。そしたら大変なことに…
よくできたドキュメンタリータッチの名作ホラー映画
『悪魔と夜ふかし』は、かなり出来の良い、ドキュメンタリータッチのホラー映画です。映画は、1977年当時の生放送番組をリアルタイムで見ていく形で進行します。
この映画は1977年当時に放送されていたという設定の架空のテレビ番組なので、普通のホラー映画のようにすぐにゾンビに囲まれたり殺人鬼が暴れ回ったりはしません。最初は、霊の声が聴こえると自称する占い師系霊能力者がゲストで登場。観覧席のお客さんの悩みをズバリ当てたりします。
しかし、霊能力者vs否定派のトークバラエティなので、否定派のゲストである凄腕のマジシャンは、霊能力者の行為を全て否定します。霊の声を聴いているというが、誘導尋問をしているし、事前に情報を聞いていたらできることだろ、などと指摘します。
何が本当か?
『悪魔と夜ふかし』のエキサイティングな点は二つあります。ひとつは、テレビ番組を観ているという映画の構成。そしてもう一つは、番組が視聴率に苦しんでおり司会者もプロデューサーも視聴率が上がればなんでもいい!みたいな感じになっている状況。
もしかしたら、番組を盛り上げるための嘘ややらせ、仕込みがある可能性があります。我々観ている側からは、どこまでが台本通りでどこまでがアクシデントなのかが曖昧なまま展開します。
本当の超常現象のようにも見えるし、否定派の言うことにも説得力があるのです。
さらに分からなくなるのは、否定派のマジシャンが世界トップクラスの超凄腕であること。彼はまるで魔法のようなマジックを披露。そして催眠術まで極めています。その腕前は、スタジオの観客全員と視聴者の多くを催眠術にかけられるレベル。
逆に最初のゲストである占い系霊能力者は、そこまで強い能力者ではない(?)ので、占いを時々外してしまったりする始末。生放送なので、その瞬間もバッチリカメラに映っている。
しかしこの霊能力者、時々ボソッと、霊の声が聴こえないと知り得ないようなことを言ってる気もする…
あと、観客席の中に、全く喋らない骸骨みたいな人とか、違和感のあるヘンな奴がいる気がする…?
でも、単にハロウィンの仮装をしている無口な人かもしれない…
『悪魔と夜ふかし』は、そのように、嘘か本当か曖昧なまま進む中で、それでも心霊現象みたいなことは起こり、時に否定され、さらに所々に違和感のある場面や台詞が紛れています。
放送は誰も見た事ない刺激的な内容となり、視聴率も上昇。そして、オカルト肯定派のゲストとして、まるで映画『エクソシスト』(1973年)みたいな設定の悪魔憑き(だと言われている)少女と、その保護者の心理学者が登場。番組はさらに盛り上がっていきます。
そして、単なる面白トークバラエティだったはずが、いつの間にか取り返しのつかない大変な事態になってしまいます。
メディアは悪魔だ!
映画『悪魔と夜ふかし』は、そういうタイトルのホラー映画なので、もちろん悪魔ホラーな大惨事が展開します。しかし、この「悪魔」とは、超常的存在の悪魔さんだけを指しているのでしょうか?
プロデューサーと司会者が視聴率目的で刺激的な番組を仕掛けなければ、そんな大惨事は起きなかった。
低視聴率を問題視するスポンサーがプレッシャーをかけなければ、番組制作サイドは無茶な放送を仕掛けなかった。
刺激的な生放送でも、多くの視聴者がリアルタイムで食いついて視聴率が上昇しなければ、生放送の内容はエスカレートしなかったかもしれない。
悪魔は、TVというメディアと、その視聴者が結果的に協力して初めてその力を発揮し、大惨事を起こせたのです。
今やメディアはTVだけではない
『悪魔と夜ふかし』は、1977年が舞台の作品なので、当時誰もが観ていたTVというメディアの悪魔的側面が描かれています。
今となっては、多くのTV番組は台本や演出のある「作り物」であり、製作者やスポンサーなどの意向が反映されている、ということは、多くの人が知っています。
もし今、TVが発信している情報を丸々信じてベラベラ喋っている人を見たら、愚かな人だなーと多くの人が思うでしょう。
しかしです。2024年の現在、影響力のあるメディアはTVだけではありません。YouTube、TikTokなどの動画。Instagram、Twitter(X)などのSNS。ネットニュースなど、1977年よりも多種多様で伝わるスピードの恐ろしく速い新しいメディアが数多く存在しています。
TVとそれに踊らされる視聴者は悪魔だ。
でも、新しいメディアも、製作者やスポンサーなど、それぞれ誰かの何かしらの意図があって発信されています。また、悪意が無かったとしても、製作者だって人なので、間違えることもあります。
TVの言うことを鵜呑みにしてはいけない。それは常識。
では、それ以外のメディアは簡単に信じていいのか? 手元にあるそのメディアも悪魔ではないか? 自分もメディアに踊らされて無意識のうちに悪魔に協力していないか?
私たちは、1977年当時と比べて無限に増殖した悪魔に警戒をしながら、自分がいつの間にか悪魔になっていないかよく考え確認し、日々を過ごす必要があるのかもしれません…
『悪魔と夜ふかし』は、そんな二重三重の意味でも恐ろしい名作ホラー映画です。
ぜひ映画館で、テレビ史上最恐の放送事故を体験してください。
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