【映画感想】 『Chime(チャイム)』今年一怖い凄い映画。観てない人は全員観るべき
『Chime』 監督 脚本 黒沢清
シモキタ - エキマエ - シネマ K2で観賞
現役映画監督最強 黒沢清
黒沢清監督は、シネフィルからホラーマニアまで認める、現役の映画監督の中で最強のひとりです。
小津安二郎からロベール・ブレッソンまで映画史の巨匠から、トビー・フーパーやジョン・カーペンター、鶴田法男といった、公開当時は世間一般からはマニア向け俗悪ジャンル映画としか思われていなかった職人監督まで、あらゆる優れた映画をリスペクト。手法を自分の血肉にし、邦画では他の追随を許さないレベルの映画を撮り続けている神監督です。
サイコホラーの歴史的傑作『CURE』(1997年)
Jホラーの頂点『回路』(2000年)、
『降霊 KOUREI』(2001年)、『叫』(2007年)
当時トップアイドルの前田敦子ソロPV企画だったはずが凄いことになる『Seventh Code』(2014年)。
戦争に進みそうな今の日本のキナ臭さを4年前に予見したドラマ『スパイの妻』(2020年)をはじめ、1983年のデビュー作から最新作まで、ヤクザVシネもホラーも人間ドラマも全作レベチで凄い映画という、邦画最強の監督です。
なのに、知ってる人しか知らない…
冒頭で「シネフィルからホラーマニアまで認める」と書きましたが、現役最高レベルの凄い監督なのに、なんと、シネフィルとホラーマニアしか、その凄さを知りません。上記の講演会でも、ご自身で「代表作が無い」「物好きな人しか観ていない」というようなことを嘆いておられました…
私のようなホラー映画好きや、Twitter等で日々素晴らしいレビューを書くような映画を沢山観ている人々にとっては、新作なら観て当然、凄いのはもはや平常運転、の最高の映画監督ですが、一般層には全然知られていないのです。
映画『Chime』は、黒沢清監督を認識している映画好きは既に全員観ています。
この記事は、黒沢清監督をあまり意識したことがなかった、あなたの頭の中に向けて電波を送っています…
映画の力で見せる、本当の「怖さ」
妙に照明が薄暗い部屋で、お料理教室をやっている主人公。料理教室の生徒の中に、ひとり浮いている挙動不審で異様に焦燥しているヤバい男がいる。その男は「頭の中にチャイムの音が聞こえる。誰かがメッセージを送っている…」とか言ってるのです…
このヤバい男の恐ろしい行動がきっかけだったのか、もともとそうだったのか? 主人公の周囲には、死ぬほど不安で苛立ってる人々がいることが見えてきます。そしていつの間にか、その焦燥に男も感染してしまい、本当に恐ろしいことになります。
この作品は、単純なメッセージをセリフで喋らせるような平凡な作品ではなく、「映画」そのもので表現している作品のため、内容を咀嚼するのは容易ではありません。私は、自分のことしか考えられなくなった現代人のヤバさや不安、焦り、混乱、怒り、様々な感情を、ホラーの形で風刺した?作品のように感じました。
「映画そのものが凄い」ホラー
これまで黒沢清監督は「半透明の幕の向こうになんかいる」や、「明らかに人間ではない遅さで動く人の形をした何か」など、様々な映画表現で恐ろしい幽霊を描いてきました。
その手法はむしろ、外国の映画監督にキャッチされました。ジェームズ・ワン監督『死霊館』シリーズや、『パーソナル・ショッパー』(オリヴィエ・アサヤス監督.2016年)、A24作品など、今では洋画ホラーもJホラー的手法を取り入れ活かしています。