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旅立つのなら満月の夜に

錆びてしまった支柱
割れてしまった留め金
軋みを上げる土台
脆く崩れる洗濯ばさみ

張りを失った肌
つやを失った髪
細くなった声
やがて一握いちあくの灰となる

古くなるとはそういうことだ
人でも、物でも、心でも
風化からは逃れられない
全てはいつか風に還る

だからだろう
こんなにも惹かれてしまうのは
だからだろう
こんなにも焦がれてしまうのは

君がまた輝き始める
雨上がりの澄んだ風が連れてきた夜に
夜の天辺てっぺんひざまずく雲の切れ間で
満ちては欠ける疑似的な輪廻の果てに

やっぱり奇麗だ
何も変わらない有様に安堵する
少し眩しすぎるくらいだ
感傷に塗れた寂しい夜には

見送ってばかりだ
夢を追う大きな背中を
変化を求める勇ましい背中を
二度と会えない偉大な背中を

誰か見送ってくれるだろうか
私が風化する日が来るとして
誰が見送ってくれるだろうか
こんなちっぽけな背中を

だから君よ、頼まれてくれるか
きっと何一つ変わりはしない君よ
私が消えた後にも輪廻を行くなら
その長い旅の道すがらに

いつになるかは分からない
君より後ということはないだろう
選べはしないが願うばかりだ
旅立つのなら満月の夜に、と


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