アメリカという国
本稿アメリカという国はどのような国なのかトピックをいくつか挙げて解説をしていく。あくまでも大枠を確認してもらうのが目的であり、各参加者は当事者視点を考慮しつつ自らのアメリカ像を確立してほしい。本章はその手助けとなるように3個のトピックを挙げて解説を行っていく。
1.富
アメリカは今日に至るまで過去数十年通じて経済大国であり続けている。GDPは一人当たりの生産量とその人口によって出力されるがアメリカはそのどちらも高い水準を保ち続けている。1960年時点で約1.8億の人口を有していた。多くの人口を抱えると必然手時に必要とされる資源が多くなり、日本のように多くの人口を抱えるものの資源に恵まれない場合社会の維持に必要となる物資は海外からの輸入に頼らざるを得ない。このような場合海上交通や流通ルートを遮断されることは国家の存亡にかかわる。実際に日本は第二次世界大戦時アメリカによる通商破壊によって戦争経済を完全に停滞させられた。しかし、アメリカは多くの人口を抱える一方で食料の多くを自給し、テキサスなど多くの油田も領域内に存在している。このような富を創出できる下地を持ちつつその資本を軍事力に転化し、アメリカの利益を維持するために使用することによってアメリカは覇権国家としての地位を保ち続けた。
2.地理
アメリカは北アメリカ大陸に位置している。アメリカは成立当初東海岸沿岸のみを領域としていた。宗主国のイギリスから独立を果たし、当面の脅威を取り除くと西へ武力や領土を買収し拡張を続け1890年ごろには太平洋に領域は達した。19世紀ごろには北に国境を接していたカナダは自治領となり、メキシコもスペインから独立を果たしたことによってアメリカは直接国境を接する大国の脅威を受けない状況になった。唯一の脅威はアラスカを領有するロシアであったが、これも買収し領有したことによって完全にアメリカは「島国」化した。更にグリーンランドやアイスランドを買収・領有することも検討されていた。
このようにアメリカは大陸に位置する国家でありながら、自国を優越または同等の力を有する国家の脅威にさらされない状況となった。この段階でアメリカはが取りうる手段は2つであった。積極的に欧州情勢に介入するか、干渉せずに代わりにアメリカ大陸に対する干渉に対しては断固反対するというものであった。建国時からアメリカは欧州との相互不干渉を志向しており、その顕著な例が1823年にモンロー主義である。時代が下るとモンロー主義は拡大解釈され、カリブ海地域に対して「棍棒外交」に代表れるような外交路線を採り影響力を拡張した。第一次世界大戦ではアメリカは参戦することとなり、ウィルソン大統領は国際連盟の創設を提案しアメリカはモンロー主義から離れるような動きを見せた。しかし、アメリカの国際連盟加盟は議会の反対にあって実現せずモンロー主義への回帰が見られた。ルーズベルト政権に至り、対日参戦から第二次世界大戦に参戦、大西洋憲章や国際連合の創設に深くかかわるなどアメリカは積極的に国際社会へ関与していくこととなる。
アメリカは強大な経済力を持ちつつ通商によって莫大な富を蓄積した。海上交通の保全はアメリカの覇権・利益を保護するには絶対に必要である。イギリスがかつて強大な海軍力によって植民地帝国を維持したようにアメリカは現代に至るまで常に強大な海軍を保有し続けている。2つの大海にまたがるアメリカはその海軍力を効率的に運用するためにカリブ海やパナマ運河周辺を影響力に置くなどしている。冷戦期に至ってはソ連をはじめとした共産圏がユーラシア大陸を横断する形で勢力を伸ばすのと対照的にアメリカは西欧、極東、中東の海岸部においてその影響力を確保した。アメリカは強大な海軍力を背景に世界中のどこにでも軍を展開できる能力を裏付けとして、経済力と通商関係を拡大世界の覇権国家として君臨している。イギリスの覇権と異なる点は植民地支配による影響力の確保ではなく地域ごとに親密な同盟国を持ち、そこにアメリカ軍の根拠地を設置することによって間接的にその影響力を保っている点である。
アメリカが上述したような強大な軍事力は、人口や工業・農業・経済・資源様々な要素の出力である。農業面においてはアラスカやハワイといった一部の州を除いて耕作に適している。また、チェサピーク湾やサンフランシスコ湾など良港にも恵まれメキシコ以南に存在する湾よりも多くの良好な港を領有している。また、それらの港は防衛上にも非常に適している。加えて内陸水運も発達しており、ミシシッピ水系をはじめとした大河川が多く存在しており、北東部には五大湖も存在している。海水運に適している地理状況から陸運よりもより効率的な物資運搬が可能なこともアメリカにとって良い影響をもたらしている。また、太平洋側はハワイとアラスカ、グアムが大西洋側には西欧同盟国が存在することによって容易にアメリカ本土には手を出すことが出来ない。
アメリカは独立戦争、米英戦争時を除いて深刻な外国からの侵攻を受けたことがない。最も戦死者が出た戦争が南北戦争であり約50万人である。ベトナム戦争が5万人程度でありかつ外征であったことを鑑みれば如何にアメリカという国が外からの脅威に直接的に晒されずに済んでいるかがよくわかるであろう。
3.民主主義
アメリカは建国から今日に至るまで200年以上民主主義を貫き通している国家である。民主主義は独裁体制と比較した際に意思決定や大胆な行動に際しては劣る部分がある。これは意思決定に際して賛成多数を得る必要性や権力の分散がなされており、相互に緊張関係にあるためである。一見独裁政治は意思決定を行う速さとその大胆さによって民主主義よりよく見えるかもしれない。ただ、一方独裁政治は抑制と均衡が行われないが故に様々な破滅的政策も行われてしまう。例えばナチス・ドイツによる世界大戦、中華人民共和国における文化大革命と歴史的例には事欠かない。チャーチルは次のように述べている。「民主主義は最悪の政治形態らしい。ただし、これまでに試されたすべての形態を除けば。」
独裁体制において施行された政策が失敗に陥っていても批判や修正の機会が民主主義と比較して極めて乏しい。文化大革命における虐殺と暴力の悲劇が止められたのは惨禍が巨大になった後であるし、硬直化したヒトラーの東方生存圏思想によって未だにイギリスを屈服させられていないにもかかわらずナチス・ドイツはソ連と開戦し結局敗北した。ソ連においてはフルシチョフが農業政策の失敗などから徐々に権威を失い半ばクーデター的な形でようやく権力者は交代した。他方アメリカはベトナム戦争を引き起こし、多くの人的・経済的損害を被ったものの国民の反発が比例して大きくなりついに政府はベトナムからの撤退を決定しなければならなくなった。国民の意思や意見が反映されているという「形式」が取られていれば国民は暴力による革命ではなく言論によるリコールを行うことができる。また、権力者は賛成の多数を意思決定の際に必要とするため何かしらの妥協を図らなければならなくなる。独裁的体制においては反対意見を取り入れるインセンティブが薄く、これを抹殺することのほうがよりたやすい。この結果が生み出すのは弾圧と圧制である。民主主義国家においては国民のすべて、またはほとんどが有権者である。権力者は有権者によって選出される都合上利益を独占的に支配するのではなくこの分配が必要とされる。そのため富の妥当な均等化が行われ生産的な社会になりうる。
このような民主主義の中でアメリカ独自の特徴的な性質を持ち合わせている。それはアメリカ合衆国という連邦制国家であるという点だ。アメリカにおいては行政システムの多くが地方の州政府に委ねられている。州政府によって法制度も異なる。死刑の是非、銃規制の度合い、自殺ほう助の可否様々な違いが存在する。このような法制度の違いは一見すると不可解ではあるものの大きな利点が存在する。それは同じ国家の中であっても様々なシステムを導入することによって、ある種制度の実験を行うことができるわけである。成功した事がわかればそれを模倣し効率的な行政システムの構築に寄与することができるのだ。ジャレド・ダイアモンド(2019)は『危機と人類』において下記のような事例を挙げている。
他の例として、私はアメリカ北東部にあるマサチューセッツ州で育ったが、初めて知り合ったカリフォルニア州出身の人物が「一時停止後であれば赤信号でも交差点で右折できるという法律を全米で最初に採用したのはカリフォルニア州だ」と教えてくれた。アメリカでは道路交通法は国ではなく州の専権事項である。一九六〇年代のマサチューセッツ州の住民や、カリフォルニア州以外のすべての州の住民にとって、この右折ルールはとてつもなく危険に思えたし、そんなことをしようと思うのはいかれたカリフォルニア州の住民ぐらいのものだろうと思っていた。しかし、カリフォルニアが実験台になり、安全が証明されると、他の州もカリフォルニアにならい、ついには全州がこの法律を採用した
このような政治形態もアメリカの特徴と利点と言えるだろう。
参考資料
・『危機と人類下』著 ジャレド・ダイアモンド 訳 小川敏子、川上純子
日本経済新聞出版社 2019年11月8日発行 2版
・「米国の歴史の概要 – 西への拡大と各地域の特徴」
https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3478/ (最終閲覧2020年9月18日)
・「トランプ、突然の「グリーンランド買収」表明の本気度と隠された真意」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66968?page=2 (最終閲覧2020年9月18日)
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