どシードの医療スタートアップが1.2億調達するまでの失敗遍歴 ~①医療って難しい編~
こんにちは。株式会社Genonという医療系スタートアップでCOOを務めております、高砂です。
22年の1月に設立し、昨年末に累計1.2億円の資金調達を完了しました。
本当に多くの人の支えがあって、何とかここまで走って来ました。
有難い限りです。
まだまだこれからの会社ではあるのですが、設立から約2年、活動開始からだと約3年。
まあ色々と失敗や後戻りを繰り返し、多くの壁にもぶつかりながらどうにかこうにかやって来ました。
新年という節目で、一度今までの失敗遍歴と得られた学びをまとめてみたいなあと思い筆を取った次第です。
2つに分けてまとめてみようかなと思っています。
①医療業界でスタートアップをするのってほんとにムズイ、という話
②医療者のパートナーを見つけるにあたっての失敗と成功エピソード
今回は第一弾、医療業界の難しさ3選、というテーマでお話できればと思います。
医療業界の特殊性と難しさ
「医療って難しい。」
これは医療業界に携わる人はみんな、関わっている年月が長いほど渋い顔で大きく頷くところかと思います。
「うちの業界は特殊」ってきっとどんな業界の人も思ってるし、医療だけが特別、というよりはそれぞれの業界の特殊性があるだけだとは思うのですが。
とはいえ、医療とビジネスって相性が悪いなあ…と思うことはとても多いです。
挙げ出したらキリがないですが、今回は3つのテーマにまとめました。
医療の難しさ①:ユーザーの「ほしいもの」がユーザーにとって「必要なもの」とは限らない。
これは課題解決の要素が強い事業に共通する部分かもしれません。
患者が自覚している「顕在ニーズ」は、患者にとって本当に良いものだとは限りません。
逆に、患者にとって本当に必要なものは、患者にとって顕在的に「ほしい!」と思えるものではないことがとても多いです。
人にとって、「健康」は、あらゆることを実現するために必要なことのはずで、例えばそのために「運動」は欠かせないものですが、それは多くの人にとって「面倒」だったり「楽しくない、辛い」ものだったりします。
治療においては、患者にとって「ほしい」と思うものでも、「治らなくちゃ」意味がない。逆に患者にとって「治るためのもの」でも、患者が「使ってくれなきゃ」意味がない。
そこに随分手こずりました。
私達が作りたいのは「Personal Health Record(PHR)」、つまり個人の健康データをしっかりと集め、個人差の大きい疾患に対して個別に最適な医療を届けることです。
これは、患者にとって必要なものであることは明らかですが、一方で患者は顕在的に「自分の健康データを記録したい!」とは思ってくれません。
まあ、面倒なので…笑
初期のサービスを友人の患者さんに使ってもらってのリアクションは、大体は苦笑いでした。
「こういうの、大事なのはわかるんだけどね…😅」
そうなれば、患者にとって顕在化している課題を解決しながら、実は裏側で本来実現したい課題解決を行っている、という「馬の目の前にニンジニをぶら下げることで馬が速く走る」というような状態を作る必要があります。
私達がそのためにやったのは、とにかく「医者と患者の両方の声を聞く」ということでした。
医師から、より良い医療の実現のために「必要なこと」を、患者から、診療を受ける上で「ほしいもの」を。
私達の場合1番PS/Fに近付く一歩になったのは、「医療相談見学」でした。
・医師と患者の医療相談を実施 →その一部始終を見学させていただく。
・終わった後、医師にヒアリング。
・その後、患者にもヒアリング。
そうして集まったそれぞれの声の間にあるギャップの中に、解決すべき、かつ解決できる人にまだ気付かれていない課題が見つかるものが多かったです。
医療の難しさ②:マネタイズが複雑になる
マネタイズは、「何の価値に誰がお金を払うのか」を考えること。
当たり前のことですが、医療ではここもとても難しいと感じました。
まず①に書いた通り、患者にとって「必要なこと」と、「ほしい・やりたいと感じること」が一致しません。通常人は、「必要なこと」に対して、「ほしい・やりたい」という感情に基づいてお金を払うものなので、「必要なこと」にお金を払ってもらう仕組みを作ることが難しくなります。
1番最悪なのは、「ほしい」と感じさせられるが、「必要」ではないもの、に患者がお金を払う状態だと思います。
(ここについての失敗談は、以前noteに書いたことがあるのでご興味あれば…👇)
医療・ヘルスケア分野では残念ながらそういうものも多数出回ってしまっており、いわゆる「アトピービジネス」でも典型です。
やり方としては2つあると私は思います。
1つ目は、「お金を持っている人が払う」という形。
要するに、恩恵を受けるのは患者でも、それを使うメリット(業務効率改善など)を医療機関側にも作り、医療機関がお金を払うことでwin-winになる形です。
私達は最初ずっとこっちをやろうとして、めちゃくちゃ失敗しました。
こちらの形が私達にはまらなかった理由は色々ありますが、1番は私達の事業ミッションに合わなかったという点だと思います。
自分達自身が患者であり、患者としての課題感から始まったサービスなので、そこへの価値提供を第一に考えると、両者のメリットを両立させようとするのはとても複雑で難しかったです。
2つ目は、①で書いた「顕在ニーズと潜在ニーズを両立させる」というやり方です。
患者が顕在的にほしいと思える価値に対してお金を払っていただき、同時に潜在的な価値も満たすというやり方。
私達はこれを実現するために、色々と紆余曲折を経て、最初の事業として「オンライン診療」にたどり着いたのでした。
この辺りをよくよく考えないと、本質的ではない事業が出来上がったり、逆にとても良い取り組みなのに持続性がなかったりと、なかなかうまく行かないですね…
医療の難しさ③:市場規模が広げにくい
これは医療×スタートアップの難しさかもしれません。
開発にがっつり投資して、Jカーブを狙うモデルに対して、深い課題ほどマッチしないことが多々あります。
希少性難病などは典型ですね。確実に困っている人はいても、その人数が少ないとなかなか「市場規模」を出すことは難しいです。
近いのが「LTV」かなと思います。医療では、「治る」ことを目指しますが、早く治れば治るソリューションほど、LTVは下がって行きます。
これはどの業界にも当てはまる基礎的な話かもしれませんが、そうなると「ロードマップを描けるか」が肝になると強く感じます。
誰にどんな順番で何を届けるのか。その中で、どこでちゃんとお金を稼ぎ(市場規模を取り)、どこで1番解決したい課題を解決するのか。
先に作った事業で何を集めて(データ?利用者数?ユーザーとの接点?etc )、次の事業にどう活かすのか。
先輩起業家には、「山の登り方を決める」という表現で教わりました。
最終登りたい山の全体像を見て、どのルートで登って行くのかを、山の麓にいるタイミングで描けていないと、投資を受けることはとても難しいです。
私達の場合は美容分野やより人数の多い軽度患者へのアプローチ、他科や海外への展開など可能性がある中で、最適なものをまだまだ吟味・検証している段階です。
ここに関しては、私の中で意識したいと思うことは2つです。
1つは、話が逆転しますが、まずは市場の大きさを気にし過ぎず、1番困っている人の課題解決をぶれずに考えること。
「儲かるための方法」を先に考え始めては、目的と手段が逆転してしまいます。
そしてその上で2つ目に、拡大方法の考え方は、私の中ではもうとにかく色んな人に話すことだけな気がしています。
・より広い視野を持ってくれるVCさんの意見
・同じ業種の先輩はどう事業展開しているのか
・別業界の方から見て自分達の事業とどんなコラボレーションができそうなのか
こんなの考えたり調べたってわからないことが多すぎるので、話して視野を拡げて行くしかないように思います。
「その事業じゃ儲からない」と言われたり、自分達の信念とは違ったお金儲けの話があったりと、混乱したり悔しい思いをすることもたくさんありますが、9割くらいは有難いご意見として受け流して、自分達に合う1割の意見を見つけて行く、その積み重ねなのかなあと思います。
逆に、私達は3年かけてようやく幅広い選択肢が見えて来た結果として1.2億の調達ができたとも言えます。
チームを拡大してやりたいことは無限にあります。
それにしても、ここに来るまで長かったですし、3年かけてようやくスタートラインに立ったような感覚です。
最後に:みんなで頑張って作って行きたい医療業界
以上3つが、私がこれまで経験した「医療業界の難しさ」の代表的な3つです。
他の業界にも共通することも色々あると思います。
医療業界は本当に事業化が難しいことがとても多いので、様々な業種・診療科・アプローチの事業者さんと協力しながら医療業界全体を良いものにして行くことができればと思います。
最後に、そんなチャレンジングな医療業界で、本当に困っている人の課題解決に携わりたい方、より大きな展開を目指して、医療業界に大きなインパクトを起こす取り組みに興味のある方、創業メンバーを募集しています。
興味を持っていただいた方は、ぜひ一度カジュアルにお話できれば嬉しいです。
失敗遍歴第2弾も後ほど公開する予定です!
興味を持っていただけた方は X(Twitter)のフォローなどもいただけると大変嬉しいです。
長い文章をお読みいただき、ありがとうございました!
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