③『ごまどうふを変えていく』
どんな商品に魅せたいか
「なんとか売れるようになってきた」
当時はこんなことを思っていたけれど、継いだばかりの頃と比べたら、、、という話であって、ごまどうふ屋1本で食べていくには程遠い状況でした。
月に1000個も売れていなかったと思います。つまり月の売上が30万円にも満たない。弱小商店。
根本から見直そうと思えたのはこの頃です。じいちゃんの代から使っている容器を変え、デザインを変え、ネーミングを変えようと心に決めました。
そうと決めたら即行動。
スーパー、デパ地下、お土産屋さん、とにかくいろんな商品のいろんなパッケージを見て回りました。
商品の佇まいひとつで、その商品が毎日のモノなのか、人にあげたくなるモノなのか、ちょっぴり贅沢したいときのモノなのか、買われるシーンがお客さまによってイメージされます。
では、ごま豆腐をどう魅せたいんだ。
当時のメモによればこんな感じだったと思います。
パッケージとネーミング
ぼくが出店販売を通して1番辛かった出来事。プリン屋さんと横並びで販売をしていたときのことです。子連れのママが立ち寄ってくれました。お子さんはごま豆腐に興味シンシン。
「ごまどうふってなぁに?」「これたべてみたい!」などとママにおねだり。
それに対して「これはごま豆腐、あなたは食べれないわ、プリンにしましょうね」とママの言葉。
なるほど、これが現実です。
すごくショックでした。
ごま、くず、さとう。材料はたったこれだけ、もちろん手作りで保存料など、余計なものは入れてない。ぼくは小さい頃からソレがオヤツでした。
なぜ子どもだからといって、ごま豆腐が食べられないのか。そのママの何気ない言葉には、「ごま豆腐はおじいちゃんおばあちゃんが食べるもの、大人の味だから子どもの口には合わない」。そんな意味が含まれていたと想像します。
すごく腹立たしかったけれど、これが現実。しかし腹を立てるだけでは何も解決できません。ならばネガティブイメージを1つ1つ取っ払っていこう。
まずは「ごま豆腐」というネーミングをやめる。それから「ごま豆腐」を連想させるパッケージもやめる。まずはここから始めます。
絵本作家とコピーライター
ぼくは、じいちゃんのごま豆腐を小さい頃から食べていました。だから知っています。子どもだってごま豆腐は食べられる、なんなら好んで食べる。
香ばしい胡麻の香り、自然な甘み、プルプルした食感、しっかり食べ応えもある。
それでいて栄養価も高いとあれば、親からしても、我が子が自らそんなものを食べてくれるなら万々歳だろう。
"子どもに食べさせたくなるごま豆腐"って切り口はどうだろう。
結局お金を払うのは大人であって、子どもが食べたいと言ったところで先の例があります。ならば親に対して「コレなら子どもに与えても安心かな」と思ってもらわなければいけません。
そんなタイミングで絵本作家でありデザイナーの、あだちあさみサンに出逢ってしまったのだから、すぐにデザインのお願いをしました。
親が子に読ませたい絵本が作れるんだから、親が子に食べさせたいごま豆腐も作ってくれるだろう、と。一緒に紹介していただいたコピーライターの横田サンには「ごま豆腐」というネーミングを変えていただくお願いをしました。
人には固定概念というものがあり、まずはそれを取っ払ってあげなきゃいけない。餅は餅屋、デザインはデザイナーに、ネーミングはコピーライターです。ごま豆腐の概念を変えるという、ぼくたちが生きていく上で最もどうでもいいことに挑んだのが、2017年の夏頃でした。
リニューアル初日
これまでのやり方では未来がありません。だから魅せ方,売り方を変えました。
2018年3月22日。東京日本橋にある、BRIDGE新潟にて行われる催事に出店。この日に合わせて新パッケージの用意を進めてきました。
新パッケージには、かわいいゴマのキャラクターが描かれており、名前も『ごまうふふ』へとリニューアル。子どもたちにも届けられる"かわいいごま豆腐"の完成です。
リニューアル1発目が東京で、しかも日本橋で、天下の三越様の目の前で販売できるなんて、夢にも思いませんでした。
出来立てを食べて欲しい、だから夜な夜なごま豆腐を作り、AM3:00出発、関越道にて東京へ。それでもゼッタイ喜んでくれる人たちがいるんだから、こんな苦労、ちょろいもんです。
しかし結果は惨敗。
2日間の出店でしたが、たくさんたくさん、売れ残りました。
何が原因で売れなかったのか、そんなデータすら取れないくらいの閑古鳥。悲しいけれど、何かにぶつけたって仕方がありません。
リューアル1発目、東京遠征、惨敗でした。
じわじわ広める
惨敗なんて慣れっこで、売れないことが当たり前。ぼくはそんなことじゃ挫けません。東京で売れなくたって、ぼくの拠点は新潟で、こっちで売れれば問題ない。
よし、新パッケージをみんなに見てもらおうと意気込んで、兎にも角にも出店の日々が続きます。
「ごまうふふってなに?」「どうやって作ってるの?」「へぇ、食べたことないから試してみよう」。
ごま豆腐だからと、避けられていたあの頃と違い、なんだかお客さんとのやりとりが増えました。やりとりが増えると買ってもらえて、買ってもらえると後日「美味しかった」と声をかけてくれます。
やっぱりじいちゃんのごま豆腐は世界一美味しいんだ、ようやく、少しずつ少しずつ伝えることができました。リピーターも定着し、ごまどうふ屋がごまどうふ屋らしくなってきました。
そして来たるは2018年11月。
AbemaTVの番組『株式会社ニシノコンサル』の第12回ゲストに出演。それから新潟日報への掲載。この偶然降ってきたメディア露出から、ぼくは初めて「忙しい」を味わうことになります。
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