避暑地、図書館
どうやって生計を立ててるのか分からない電気屋を右に曲がり、ファミマとセブンを通り過ぎたらゼリーの種類がやたらと豊富な小さなケーキ屋さんがあって、その分かれ道を古びた黄色い看板の喫茶店の方に進んでいったらお墓がある。突き当たりを右に進み、足が疲れた頃に左斜めに行く道を選択すると、すこし向かう先が競り上がってきてアキレス腱が伸びてきたら右手に見えるのが図書館だ。
3階建てになっており、現代図書を好む私は1階にそのまま入れば良いものの、手前に堂々と鎮座しているコンクリートの冷たい階段にいつも足を奪われてしまう。
真夏日のジメジメした空間から目を背けたい人たちが、険しい顔をして活字と向き合っている。若い女が来るのは珍しいらしく、みんな揃えたように薄いグレーのシャツを着てるおじさんたちがこちらをチラリと見ては、自分の読んでた活字へと視線を戻す。誰もが皆、他人への関心より誰かの書いた世界へと心が盗まれている現実が心地よくて、予測していたよりじっくりと、そこに居座ってしまう。
気になったタイトルを見つけるなり本の取っ手へと指を引っ掛け、一冊だけ引っ張り出す。タイトルのたった十字にも満たない言葉の羅列に限界を感じながらも数ページめくり、筆者の言葉遣いに評論家の面持ちで向き合うと、たいていはトキメキがなく、元いた空間へと真顔で押し戻すことになる。別に多くを求めてる訳ではないが、そう言う人ほど多くを求めてるものだ。
妥協して選んだ4冊を小脇に抱えて、いかにも読書家ですというドヤ顔で図書館を出た頃には、空色に黒い絵の具が多めにぶちゅっと混ぜられており、新しい空色になっていた。遠くでチカチカと光るものが雷であるとは、見たことない遊具がいっぱいある公園に気を取られて立ち止まった時に気づき、ここで本読んで帰ろうかな、と迷う隙も与えてくれなかった。15日後までに読み切れる自信はないけど、それまでに必ず図書館に行かなければならないという予定ができたことが人生の楽しみになってしまっている。かなり危険だ。次はコンクリートの階段に気移りしないようにと、胸に誓った。
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