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めちゃくちゃ忙しいのに、仕事が片付かない人が勘違いしている、たった一つのこと(マルチタスクの誘惑とは?)
ドキュメンタリー番組「Alone 孤独のサバイバー」(Amazon Prime)にハマっている若林です。
この番組では、毎回10名の挑戦者が、野生の熊や狼などの危険動物がウヨウヨいる大自然に放り込まれ、最小限の道具で何日間サバイバルできるかを競います。人類が長い間、危険な動物を「狩る」側ではなく、「狩られる(捕食される)」側として恐怖に怯えながら、知恵を発達させてきたことを彷彿とさせる番組です。
さて今回は、人が自然のなかでサバイバルするために発達させたマルチタスク能力と、それを現代でうまく飼いならすための方法を考察します。
マルチタスクはサバイバル能力だった
いうまでもなく大自然は危険がいっぱいです。一生懸命に眼の前の魚を獲っていたら、突然ワニが出てきたり、背後からハイエナに襲われてゲームエンドといったことが、人類600万年の歴史では、無限に繰り返されてきました。
「集中する」ということは一見良さそうに見えますが、周囲からの危険信号を察知する能力を一時的にシャットダウンし、眼の前のタスクに全能力を注ぐことを意味します。
私たちもスポーツや読書に集中していると、周りの雑音が聞こえなくなる「ゾーン」(フロー)に入ることがありますが、昔だったら死に直結する可能性もあった訳です。
だから脳は、人を一つのことに「集中」させず、常に周囲の危険信号にアンテナを立てさせるように進化しました。すぐに「気が散る」というのは、長い間培ってきたサバイバル能力のなごりとも言えます。
ドーパミンに操られる人間
これは生物学的にも証明されており、人がマルチタスクをする際には体内にドーパミンが分泌され、我々を気持ちよくさせます。そして、それは2つの対照的な行動を引き起こします。
1つめは不安の解消のための行動です。心配なことが発生すると、あれやこれやと、いろいろなことに手を付けたくなります。マルチタスク状態に自分を置くことでリスク回避しようとする本能の現れであり、実際に体内ではその報酬としてドーパミンが分泌され、安心感を手に入れることができます。
もう一つは、有能感を得るための行動です。いろいろな仕事を並行してやっていると、手軽な達成感を味わうことができ、ハイな状態になることがあります。もちろん、これもドーパミンの仕業であり、脳がマルチタスクを推奨しているのです。
体感としても、より多くのことが達成できた気がしますが、本当にこのマルチタスク状態で効率が上がっているかは「?」です。
というのも、そもそも人間の脳はパソコンやスマホのCPUと違って、情報を並行処理できないからです。音楽を聞きながら本を読むようなことはできても、高度な知力を必要とするタスクを同時に「全集中」で処理することは構造的に不可能なのです。
精神科医でありベストセラー「スマホ脳」の著者であるアンデシュ・ハンセン氏によれば、マルチタスクをしているように見えても、脳の中ではシングルタスクを高速で切替えているに過ぎません。
しかも、その切り替えには数分の時間がかかります。次の作業に切り替えても、直前にやっていた作業がしばらく脳に残っている「注意残余(Attention Residue)」の状態になり、パフォーマンスが確実に低下します。
更に、元の作業に戻る際には「思い出す」という追加のタスクも発生しますので、さらに非効率になります。
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もちろん、ドーパミンがどんどん出ているので、マルチタスクをしている本人は効率的に仕事をしていると錯覚してしまうのですが、実際は逆なのです。
この状態を手軽に体感できるのが「マルチタスクゲーム」です。下記の番組でやり方が紹介されているので、ぜひお試しください。(5分ぐらいの簡単なゲームです)
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「集中」を取り戻すためにできる3つのこと
さて、マルチタスク状態を解消し、集中を取り戻すにはどうすればよいでしょうか?
まず1つ目は、「一個流し」でタスクを処理することです。集中が必要な作業は一つずつ処理します。”1つずつ”とはいっても、10分単位で行ったり来たりしては、「注意残余(Attention Residue)」の弊害が避けられないので、マルチタスク状態と同じになります。
そこで目安として1〜2時間ぐらいを1つのタスクにして、優先順番が高いものからシングルタスクで処理します。そして、そのタスクが終わるまで、次のタスクに着手しないことで質の高い集中を維持します。
2つ目は、できるだけノイズは入らない状態を作ることです。具体的には、パソコンのポップアップ機能などは全部OFFにし、スマホもマナーモードにします(OFFがベストですが、なかなか実際には難しいので、まずはマナーモードで練習。)
この効果を示す面白い実験があります。「スマホを廊下においてテストを受けた被験者」と「スマホをポケットにいれてテストを受けた被験者」では、スマホを持ってテストを受けた被験者のほうが、成績が有意に低かったとのこと。
スマホが作業に悪影響を及ぼす類似した実験がいくつもあり、その理由として、実際にスマホを見ないでも「スマホを見たい」という誘惑をOFFすること自体に知能の処理能力が使われているからだろうと結論付けられています。(アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』2020)
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また文章を読む際にも、ハイパーリンクがたくさん入っている画面上の文章と、印刷された文章では、理解度にかなりの差が出ます。Kindleだとどうなるかが気になりますが、これも「ハイパーリンクをクリックしたい」という衝動を抑えること自体に、知能が消費されているからのようです。
集中力を維持するための3つ目の方法は、タスクを書き出すことです。スマホやPCで、常駐アプリが大量にあると動きがもっさりするのと同じで、脳も覚えておかなければならないタスクが複数あると、動きが悪くなります。そこで「外部メモリー」としてメモやホワイトボードなどに書き出して整理することでストレスレベルが下がり、集中力アップに役立つのです。
アナログの「まほうのノート」が効果を発揮する
さてTOC(制約理論)の真髄と言えば、「制約」に集中して改善することです。ただ制約に対処する際にも、あれを改善しよう、これもついでに改善しよう、というマルチタスクの誘惑が邪魔してきます。
そこでプロジェクトの現場で効果的に「集中」を促すために「WIPボード」という仕組みがあります。(番組紹介はこちら)
これを個人向けにカスタマイズしたのが「まほうのノート」です。
DXの時代、クラウドのタスク管理ツールのほうが便利な気がするのですが、AIアシスタントなどの便利機能が逆にノイズになってしまうこともあります。
その点、物理的な印刷物である「まほうのノート」は、ペタペタと付箋を貼りながら、アナログの紙上で集中すべきタスクを管理することができ、ノイズは一切入りません。
もちろん紙のノートなので、かさばるというトレードオフがありますが、それを上回るメリットがあります。
私の場合は、知的作業を余り必要としない軽めの「TO DO」タスクは、メールのフラグ機能とGoogleのメモ帳で管理し、チームで共有が必要なことは「トレロ」、集中が必要なタスクは、「まほうのノート」で管理しています。
ただ、体がマルチタスクっぽいやり方に慣れてしまっていたので、一個流しで仕事をするのに心理的な抵抗感があり、しかも「TO DO(雑務)」タスクが多いので、うまく使いこなすために結構時間がかかりました。
いまも完璧ではありませんが、だんだんと「TO DOタスク」と「集中タスク」を分けて仕事をすることが習慣化されてきました。
やる気があっても「プロセス」がないと実行できない
マルチタスクの甘い誘惑に立ち向かうには、具体的に行動を変える「プロセス」が必要です。「やるぞ!」という精神論ではなかなか解決できません。その点、前述した3つの方法(「一個流し」「ノイズ除去」「タスクの書き出し)の実践を強力にサポートする「まほうのノート」はなかなか秀逸です。
Goldratt Channelプレミアムの会員(月額1,100円)になれば、入会特典で進呈されますので、これを機会に「脱マルチタスク」にチャレンジしてみませんか?
執筆者プロフィール:若林計志 (Kazushi Wakabayashi)
『ザ・ゴール研修』開発運営責任者、ゴールドラットチャンネル総合演出。学生時代、予備校のオンライン授業のあまりの面白さに大きなショックを受けて以来、下手な対面授業より、一流講師の動画授業のほうが価値が高いことを確信。世の中の「つまらない授業」の撲滅を目指し、オンラインMBAプログラムをはじめ、オンライン講座プロデュースを手掛ける。著書に『プロフェッショナル演じる仕事術』『MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み』(PHPビジネス新書)などがある。
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