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経営科学の博士号を取ってみて初めてわかった、TOCの驚くべき強み

こんにちは。本noteに初登場の渡邉です。
今年、猛暑日と熱帯夜が年間50日を超えた(大谷選手ばりの50-50!)の京都在住です。私はGoldratt への合流前、経営学の大学院に「入院」し、昨年ようやく「退院」しました。血の汗と涙を流しながら経営科学の博士号を取得したのですが、その過程で学んださまざまな経営学の理論とTOCを比べて、わかったことを読者の皆様と共有したいと思います。

「TOCって、経営理論としてどうなの?」
という方の参考になれば幸いです。

1) TOCは適用できる範囲が広い理論!
経営学はいくつかの分野に分かれています。ファイナンス論、マーケティング論、人的資源管理、プロジェクトマネジメント論、リーダーシップ論、イノベーション論など、会社の部門にある程度対応しています。各分野に固有の理論があり、それが他の分野にもそのまま適用できる!などということはあまりありません。

一方、TOCは生産管理からスタートした理論ですが、
・管理会計のひとつであるスループット会計
・プロジェクト管理のCCPM(Critical Chain Project Management)
・経営全般どころか日常生活にも活用できる思考プロセス
・イノベーションを実現するE4V(Eyes for Value|顧客・市場・商品の「目」で見ること)
など、「制約」という概念で組織運営や戦略的行動を広くカバーする理論体系です。

TOCは「オペレーション管理」という分野の理論という面があり(注1)この分野は「うまく仕事を回す」とはどういうことか、いかにそれを実現するかを扱います。だからこそ、他の分野に適用できる潜在力があったのだと思います。

ファイナンスの理論を学んだけれども人事異動で別部署に行くことになってしまっただとか、マーケティングの理論を学んだけれども自社の課題が生産管理に移ってしまったといった形で、学びが無駄になるのを避けるという意味でも、適用範囲の広いTOCはおもしろい経営理論です。

2) TOCは、実務でするべきことを絞り込める!
たとえばある経営者が、MBAコースで学ぶとします。さまざまな理論が提示され、それぞれが実務に役立つように思われます。しかし、どこから手を付ければよいのでしょう? 個別の分野の理論は、その答えを教えてはくれません。
TOCはオペレーション管理の理論であると同時に、システム志向の理論という捉え方もできます。つまり、システム全体を見て、いまどこに手を付けるのがベストなのかを予測できる理論です。

このnoteをご覧いただいている方ならばご存じでしょうが、「制約」を見つけて、そこに手を打つのがシステムの目的にかなうというのがTOCの考え方です。TOCは「何から手を付ければよいのだろう?」という実務的な問いに、理論に基づく明確な答えを出すことができます。
趣味であれこれ学ぶのならば別ですが、忙しい人がよりよい仕事をするうえ
で学ぶべき最低限の経営理論を1つ選ぶならば、TOCだと思います。

3) TOCは自然科学志向!
最後に、TOCが他の多くの経営理論と違うのは、TOCが自然科学のような再現性を志向していることです。これはゴールドラット博士が物理学者であったことによると思います。自然科学における「理解」は、できるだけ少ない要因で、多くの現象を説明したり、予測したりできるようになることだと言えます。同様にTOCも、制約というごく少数の要因で、組織全体の成果を予測できる理論として発展しました。

一方、経営学は、経済学、社会学、心理学といった理論を取り入れて発展してきた部分も大きいので(注2)、その結果として多くの理論が、社会科学の特性を強く持っています。社会科学における「理解」には、ある現象をさまざま」な観点からとらえられるようになる、ということが含まれます。「この会社は経済的に見ると利益が出ていて望ましいが、社会的に見ると労働者を搾取していて望ましくない」というように、多面的な見方ができるようになることが社会科学的な「理解」の意義の一つです。

個人的には、「そんな見方があったか!」と思える社会科学の理論も好きなのですが、快刀乱麻なTOCが実務上ではとても頼りになり、よく使っています。ある現象をいろいろな角度から解釈・理解したい人には社会科学ベースの理論、ある組織や状況を(少数の要因に着目して)変革したい人にはTOCが向いていると思います。

TOCと他のマネジメント手法との違いを理解し、それらを統合していく上では、下記の動画もご参照ください。

おわりに
私を含めて多くの職業人は、よりよい仕事をしていきたいものの、学びに使える時間は限られ、組織の課題は常に移り変わるという環境で仕事をしていると思います。そんな中、特定の分野に固有の(社会科学ベースの)経営理論を、すべての業務分野について網羅的に学ぶのは不可能に近いでしょう。また、それができたとしても、自然科学と社会科学では目指す「理解」の方向が完全には一致しないため、実務での成果に直結するとは限りません。
TOCは、適用できる範囲がものすごく広く、それでいていますべきことを理論的に絞り込めるという驚くべき強みを持った、自然科学ベースの経営理論です。

ぜひTOCを学んで、ご自身の成長や所属する組織にとっての制約を取り除いていってください!

執筆者プロフィール
渡邉文隆(Fumitaka Watanabe, Ph. D.)
社会人大学院生を経て京都大学で博士号(経営科学)を取得。現在は大学での研究や実務のほか、Goldratt Japanでも活動。京都大学iPS細胞研究所などの組織でTOCを活かした実務を実践してきた。専門はマーケティングで、特に非営利組織の寄付募集で多くの実績がある。信州大学社会基盤研究所特任講師を兼務。「経営科学で日本をおもしろくする」ことを目指す。青森県出身。住んでいる京都が年々暑くなっていることが最近の悩み。

参考文献
1)
Gupta, M. C., & Boyd, L. H. (2008),“Theory of constraints: a theory for operations management,” International Journal of Operations & Production Management, 28(10), pp.991–1012.
2)
入山章栄『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)