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第八十六景

新聞を読むわけでもなく、パラパラとめくっていると、なにかの問題と答えのページがあった。題に目を向けるとそこには、大学入学共通テストと書いてあって、センター試験の名前が変わったんだっけと頭に浮かんだ。

その日は雪が降っていた。しきたりなのか、この地域の特徴なのか分からないが、例年試験の前日に近くのホテルに前泊するのが恒例になっていた。会場は大学のある隣の市だった。車で1時間あれば、行くことが出来るが、大雪が降った場合、倍以上の時間がかかるから、前泊するのかもしれない。朝、母親の車に乗り、駅まで向かった。駅に着くと大雪で、電車が遅れていると表示されている電光掲示板が目に入った。同じ高校の生徒が何人か既にいた。時間になっても電車が来ないので、少し不安になっていると、もうすぐ到着するとのアナウンスが流れた。風で横向きに雪が吹き付けているホームに出ると、電車がやってきた。扉が開くと、中には隣の駅から乗ってきたと思われる学生たちで既に一杯だった。空いているスペースを見つける前に、電車は発進してしまった。参考書を開いてる人もいれば、無駄話をしている人もいた。目的の駅まで直で行けるのかと思ったが、大雪のためにその前の駅で止まることになり、そこからはバスの代替輸送でホテルに行くことになった。自分の将来を決める試験になるかもしれないのに、前日からとんだ災難だった。バスに乗ってしまうと、すぐにホテルに着いた。予定より数時間遅れていた。部屋に入り、部屋着に着替えた。当時付き合っていた彼女が部屋に来て、少し話したあと、夕ご飯の会場に向かった。どんなプランだったのかは定かではないが、鍋物が付いていたり、普通に豪華な食事だった。緊張のせいか、食べたものは直ぐに水便となり、体の外に出てしまった。水分を取っても、おんなじことだった。どんな経過か忘れてしまったけど、近くのコンビニに行くことになったが、道は踏みしめられて凍っていた。歩くのがちょっと危なっかしい彼女をおんぶして、コンビニに入るとチャイムが鳴った。お菓子みたいなものを買って、一緒に勉強でもしようとしたのだろうか。勉強などせずに、いつの間にか同じ布団で寝てしまっていた。今考えると、大胆な事をしたものだ。心配して彼女の友達が部屋の外に来ていたようだが、何を心配するのか意味が分からず、追い返してしまった。朝ご飯を食べても、それは直ぐに水便となって体から排出された。出るものが無くなっても、お腹の痛みは引かなかった。しかし不思議なことに、試験会場に着いてからはトイレに行くことは無かった。順調に試験を受けたが、彼女は国立を目指していなかったので、1日目で帰ってしまった。ホテルの部屋に戻り、トイレと机を往復して、速報で答え合わせをしていると、目指していた大学には足りる点数を取っていた。でも前期で受けた埼玉のS大は落ちてしまった。おそらく二次の点数が悪かったのだろう。後期で受けようと思っていた地元のN大は、センター利用で受かっていた関東の大学があったため、面倒になってしまって受けずじまいだった。彼女と離れたくなかったから、という理由と当時の担任から高校の実績のために国立を受けろとの圧力がひしひしと伝わってきたので、それに反発してしまった。

問題文も読まず、パラパラとめくってスポーツ欄を見たあと、もう10年以上も前のことなのかと、しみじみ思った。

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