読書録:うちは「問題」のある家族でした by 菊池真理子さん
菊池真理子さんによる新作が発売されました。
前作「毒親サバイバル」については下記でまとめています。
が、今改めて読み返すともう少し丁寧にまとめ直したほうが良さそうです。失礼しました。毒親、というテーマは自分と重ねることが難しかったのかもしれません。
今回は、マルチ商法・反医療・陰謀論・きょうだい児・貧困・DVなど、親族が原因で家庭関係に「問題」が発生した9つの物語を、インタビューに基づき漫画で記したものです。
ニセ医学・反医療
1人目は親が反医療に傾倒してしまった薬剤師の黒川摩耶さん。父の反医療の行動が気になってついていったお母さんも傾倒してしまう。そのような中で、リストカットを繰り返していた日々。薬剤師として患者さんを受け持つ中で、本人は予防のために効果があると信じて飲んでいるものの成分を調べるシーンがありました。成分上薬にもならないようなものがある中、そのお子さまが標準治療にかかれているか、少し心配になりますね。今は学会や講演などもされているそうです。
きょうだい児
2人目はライターの雪代すみれさん。「きょうだい児」というテーマです。障害や病気のある兄弟姉妹を持つ人を指し、日本では660万人ほどいるそうです。親が障害を持つ弟のケアに忙殺され、自身をたまに構ってくれる時は「からかい」程度に感じられていたとのこと。しかし、中高生になった頃弟さんとのやり取りで性的なことで嫌な思いが多々あったそうです。「親は半生、きょうだいは一生」という言葉が改めて突き刺さります。「家族が障害者を支える美談ばかり取り上げるが、きょうだい児として縛られる義務はないのでは」と最後に投げかけられていました。
貧困
3人目はライターのヒオカさん。テーマは貧困。自衛隊で聴力を失ったことをきっかけにお父さんがお母さんにも暴力を振るうようになったとのこと。留学したいという夢を叶えられず、ライターとして自身から見える課題を書くように。家賃・学費・治療費、当たり前の日常を過ごせなかったヒオカさんから見える世界は大きく違っていた。最近ではお父さまが緑内障にかかったことをきっかけに友達ができてお母さまへの暴力が止まったとのこと。それは本当に良かったです。ヒオカさん著書はこちら。
陰謀論
4人目はSE職に就く飯島宗さん。テーマは陰謀論。奥さまがコロナ禍に陰謀論にハマって変わった様子が生々しく描かれていました。初めて誰かの役に立てるという想いで家族への愛情と使命感でハマってしまったのだろうと描かれていました。我慢の限界で話しあった結果、奥さまは引き続き陰謀論者ではあるもののその話はしないという協定を結び落ち着いた生活を送られているとのことでした。
DV
5人目はDVがテーマです。何と、DVの加害者と被害者、夫婦両方でインタビューに応じられています。にさごさんとちまこさん。育児などを巡り旦那さまからDVが。離婚調停に発展する中、旦那さまはDV加害者支援団体GADHA(ガドハ)のイベントに参加されます。その中で、ご自身の行動を振り返り、DVを認めて謝られたそうです。再婚はせずとも一緒に暮らすという新たな選択をとられているようです。
ギャンブル依存症
6人目は安井昌子さん、息子さんがギャンブル依存症になってしまったとのこと。辞められずに家族のカードや大学生で所属していたゼミのお金も使ってしまい、最終的には闇金にも手を出してしまうほど。都度お母さんである昌子さんが督促状などが来るたびに返済されていたようです。そのような中で、「ギャマノン」と呼ばれる自助グループと「全国ギャンブル依存症家族の会」に参加されました。具体的な支援もあり息子さんは着の身着のままギャンブル依存症の回復施設に入寮されました。無事に卒寮された今も、「それぞれが大人と大人として、息子さまは当事者の仲間の中で、お母さまは家族の仲間の中で回復していく」そんなことを話されていました。
なお、ギャンブル依存症とマルチ商法にハマる方は似ているのではと言われることもあります。当事者と周りの家族それぞれを支援する会があって初めて双方が前を向いて活動できる。これは1つの新たな形であると感じます。「ギャンブル依存症 治療」で調べると正しい情報が出てくるとのこと。病気であることを理解し、治療法を探す、そうした取り組みにつながると良いなと思います。
ヤングケアラー
7人目は町田優美さん。ヤングケアラーがテーマです。最近市役所などでもヤングケアラーに関する話などが取り上げられています。幼い頃より母親から自分の選択の権利を奪われ、自分の感情を押し殺し、結果学校にも行けなくなった優美さん。その過程で父親は仕事をしなくなり、その責任を自分のものとされ、家事を手伝うようになったそうです。周りの親族からもプレッシャーを与えられている様子も描かれていました。公立高校無償化施策ができたことをきっかけに高校に再入学し、少しずつやりたいことを広げられているとのこと。「家事は女性がするものだ」という凝り固まった考え方で、子どもが被害を受ける。そうした世の中が減ることを望みます。高校無償化施策の効果を実感する事例でした。
児童虐待
8人目は川瀬信一さん。一般社団法人「子どもの声から始めよう」の代表をされています。ゴミで溢れかえる家、母親からの暴力、母が起きているうちは家に帰らないなど、大変な幼少期を過ごされていました。児童相談所に保護され、里親家庭や児童自立支援施設を経験、その中で「聴いてもらえる体験」を積み重ねられたと言います。
施設を卒業後、再度実家に住むことにしたもののまたトラブルが続き、伯父さん・叔母さんの助けにより引越して窮地から脱出されたとのこと。母親とは絶縁、父親とも連絡をとっていないそうです。
過去の経験をもとに、困難に直面している子どもや若者の声を聴く活動を続けられています。
ここに私の事例が入り、全部で9つのテーマに話がまとめられていました。
まずは読み終えて、とても穏やかな気持ちになりました。
いずれのテーマも答えがすぐに出るものではなく、家庭の置かれている状況によっても様々。難しい問題です。問題にストレートに向き合うとしんどいものばかり。
ですが、今回各物語の主人公の人たちは、家族が抱える問題によって傷つきながらも、課題にそれぞれの立場で立ち向かい、自分なりの現時点での結論を出している。家族の問題や傷ついた過去をそれで終わらせない勇気を持った行動の様子を、全ての物語から感じ取りました。加えて、菊池さんのイラストで丁寧に描かれることによって、重たい問題であるにも関わらず悲しい話で終わらないような工夫もなされていました。
一方で、結論やスタンスは様々でした。離婚・絶縁という選択肢を取ったり、付かず離れずの関係を保ったり、新しい関係性を構築したり、類似した問題を抱えている人のサポートを行ったり。
苦しみを抱える家族にとって、幅広い事例・選択肢から自身で選んでいいんだよ、どんな選択をとってもいいんだよ、と本書を通して伝えてもらっているように感じました。
私が今回インタビューをお受けしたのも、そうした難しい問題に立ち向かう人を取材したいという菊池さんと編集のハタノさんの想いに共感したためです。
最後に、菊池さんからの手紙が記されていました。暖かい言葉本当にありがとうございます。
菊池さん、ハタノさん、この度は貴重な機会をいただきましてありがとうございました。
この本が1人でも多くの方に届きますように願っています。