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ステイホームソロキャンプ

ここ数日の雨の降り様はなんなのだろう。

もうすぐ日付も変わるというのに、力強い雨音が屋根の上で鳴り続けている。布団を被っても聞こえてくる程のやかましさだ。
別に、降るなとは言わない。降るならば、僕が寝てから好きなだけ降って欲しい。

朝からずっとこの調子なのだから、流石に滅入ってしまう。ただでさえ外出しづらいこのご時世。雨まで降ると完全に詰まされてしまう。

この土日、また一度も外に出られなかった。体が疲れていないからか、なかなか寝付けない。



こんな夜はいつも、おかしな方向に頭が働く気がする。

「あぁ。ソロキャンプしたい。」

薄暗い部屋の中、ニトリのホテルスタイル枕に埋まる僕の頭は、突然、その欲求に支配された。

ちなみに僕は、ソロどころか、キャンプだって一度もしたことがない。
しかし、ソロキャンプがしたい。あぁしたい。

シュミレーションはできている。僕の中で、ソロキャンプのイメージは固まっているのだ。

僕の中のソロキャンプは
ーー人間の気配が欠片もしない、広大な湖の畔。
僕はそこに、こじんまりとしているが、しっかりした作りの薄グレーのテントを立てている。
水面には、逆さになった美しい山々が映りこむ。

聞こえる音は、木々のざわめきと小鳥のさえずり。そして目の前の焚き火と、その上の鍋の中で煮えるカレーの音だけ。

雄大な自然に耳を傾けながら、出来上がったカレーをゆっくり食べる。たまに小石を湖へ放り、ぼんやりと波紋を見つめるのも悪くないーー

てなもんだ。

まあ、こんなもの、恋に恋する少年少女の妄想と同じだろう。要するに、夢物語だ。
キャンプはこんな綺麗なものではないことは、簡単に想像できる。行き帰りの移動、テント設営、料理の準備、片付け、もろもろの手間が一切考えられていない。

でもいいじゃないか。恋に恋したっていいじゃないか。僕は今すぐソロキャンプがしたいのだ。

この欲求を満たしたら、雨音など無視して、健やかに眠れるに違いない。



すぐさま布団から飛び出し、台所へ急ぐ。運良くカレーの材料は揃っていた。

いつもならとっく寝ている時間のはずの夜更けに、突然気合いみなぎる表情で調理を開始する息子に驚く両親を横目に、カレーは着実に完成への歩を進めていく。
せっかくのソロキャンプなのだから、周りの人の反応など気にしていられない。


カレーが出来上がる頃には、当然、日付が変わっていた。
日付は変わっても、屋根の上の騒がしさは変わらない。

完成したカレーを皿に盛り付け、ベランダへ出る。先まで耳障りだったはずの雨音が、やけに心地よく感じる。
スピーカーで焚き火の音源を流し、準備は整った。

大雨と焚き火の音しかしない中、出来たてのカレーを頬張る。なんとも美味しい。
目の前には、大自然の代わりに、黒ずんだ住宅街しか見えない。しかし、住宅街でソロキャンプを完成させつつあるという浮遊感が、大自然の不足分を完全に補っている。
最高の状況下だからか、何度カレーをおかわりしても、美味しさは増すばかりだった。

「あぁ。ソロキャンプ楽しい。」

先まで寝付けなかったが、この満足感の後には快眠しかないだろう。全ての後片付けを明日の自分に任せ、布団に入る。


しかし、当然眠れない。

カレーで膨れに膨れた胃袋の懸命な消化活動に付き合わされる体は、快眠とは程遠いコンディションに仕上がっていた。

「あぁ。ソロキャンプ難しい。」

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