3分で出来上がる矛盾
家に置いたままの携帯電話。
開催時刻の決まったゲリラライブ。
すぐに寝つける方法を検索し続ける夜。
世の中には多くの矛盾が転がっている。
カップ焼きそばもその一つといえる。
焼かない焼きそば。
カップ焼きそばのガラを剥いてから食すまでの間、僕は焼く工程を踏んだことがない。
3分間で出来上がる矛盾だなんて、ただのカップ焼きそばから、なんともミステリアスな香りが立ち込めているではないか。
いいパンチラインを出した気になりながら、今日もファミリーマートで一平ちゃんを買う。
最近、人生何度目かのカップ焼きそばブームが訪れている。今週はこれで3つ目のカップ焼きそばだ。
たびたびブームが来るくらいだから、僕が焼きそば好きと勘違いされてもおかしくはない。
しかし僕は、カップ焼きそばが大好きでも、焼きそばは苦手だ。
これは矛盾ではなく好き嫌いだ。
焼かないとはいえ、同じ" 焼きそば "なのだから、矛盾ではないか?と感じる方もいるだろうが、この2つは全く別の食べ物なので、矛盾ではない。
野菜を全く食べない少年が、ステーキを美味しそうに食べていても、それが矛盾ではないのと同じだ。
野菜は野菜、肉は肉なのだから。
少年の食生活が心配だが、カップ焼きそばと焼きそばは全く別の食べ物という話に戻し、それぞれの特徴を挙げていく。
カップ焼きそばのことを一言でいうなら、濃いソース味の絡む、水分たっぷりのモチャモチャの麺だ。
僕はカップ焼きそばのことを、咀嚼できるソースだと思っている。
僕は、あの口の中がモチャモチャとソースでいっぱいになる感覚が大好きなのだ。
そして、お手軽さだ。
お湯を入れて3分で出来上がる。
現代はインスタント食品が溢れかえり、感覚が麻痺しているが、これは魔法のような話だ。
家で一人で過ごす夜、この味と手軽さを求めてついついコンビニへ足を運んでしまう。
一方、焼きそばは、火を入れるためモチャモチャしておらず、水分が少ない状態をソースの油分で補い、だましだましやっている。
そして、とにかく作るのが面倒くさい。
わざわざ一人前作るのは難なので、人数を揃え、多きめの鉄板を引っ張り出してきて焼く以外ない。
特に面倒くさいのが具材を切る作業だ。少しでも時短するため友人や家族と作業分担して具材を切る。
その後もまだまだ作業は終わらない。焼いたり混ぜたり、おまけに最後は洗い物まである。
その作業を省くため外で食べるとするなら祭りだろうか。
一緒に行く人と夜店の焼きそばを食べ、笑い合った時、歯に青のりがついていたら恥ずかしがる以外出来やしない。
以上のように比較すると、カップ焼きそばは焼きそばとは全く別ジャンルの食べ物であり、カップ焼きそばの方が断然魅力的であることがわかる。
各々の特徴を考えるまで、こう締めたかった。
でもこれ、焼きそばの方が断然魅力的じゃないか?
改めて各々の特徴を見直すと、焼きそばが充実感の面で圧勝していた。超楽しそうだった。
先程の野菜嫌いの少年も、焼きそばでなら楽しく野菜を食べられるに違いない。
もしかしたら僕は、無意識に充実しているものを遠ざけているから、焼きそばが苦手なだけかもしれない。
それならなんと寂しい理由なのだろうか。
そう思い始めると僕にはもう、カップ焼きそばに捧げる3分間の孤独にも耐えられる自信がない。
焼きそばにまつわる素敵な思い出があり、カップ焼きそばよりも断然焼きそばが好きなあなたのことを考えると、僕は妬いてしまう。
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