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世界で一番かわいいお姫様へ


この作品は2021年文学フリマにて販売した短編集『ぶっ飛んでいると言ってくれ』に掲載したものです。




世界で一番かわいいお姫様へ


私は君と過ごしたあの日々を思い出す度に、青春みたいで楽しかったなぁとか、あの時はきっとひどく傷つけたよなぁとか、今はどんな風に過ごしているのかなぁとか、色んなことを思うのだけれど、今でも一番に思い出すのは、君の顔ってかわいいよなぁってこと。

私は、あの頃も今も、君のその、顔が大好き。超かわいい。


あの頃の思い出、起こった出来事なんかも大切ではあるんだけれど、そのぱっちりした目とか、薄く開いた唇だとか、上目使いで見つめるときの顔、あと、大体いつもちょっと剥げてた派手なネイルとか、思い出しては「かわいかったなぁ」と思う。

今の君がどんなメイクしてるのかなんて知らないし、最後に会ってからもうだいぶ経ったから、ナチュラルメイクに変わっているかもしれない。

目尻の跳ね上げた黒いアイラインが好きだったな。濃いメイクが好きだった君が「それじゃリトルマーメイドに出てくるアースラみたいって言われたの。ひどくない?」とウケてたのを思い出して笑っちゃった。


君がいつかこの文章を見る機会があるかどうかは分からないけれど、なんとなく、SNSをよく見てる君のことだからそのうち読まれることになるんじゃないかなとは思っています。

もし読んでいたら、もう全然会ってないのに、こうやって君のことを書き綴ったりなんかして、気持ち悪がられないかな。怖がられないかなと心配しています。不快な気持ちにさせたらごめんなさい。


君にはイメージできると思うけれど、私はあの頃から何も変わってない。変われずに居ます。少しも大人になんてなれやしなかった。

今も変わらず、調子乗りでナルシストな私が、君との思い出に浸ってエモい気分に浸って、それをこうやって文章に残して、誰かに見てもらいたくて本にしている。

君が純粋に私を好いて、支えて、心配してくれたあの青春の時間を、私の公開オナニーみたいな行為に利用してしまって、本当にごめんなさい。


あの頃と違っていま、君と私の生活は少しも重なっていない。

君は君の毎日を過ごしていて、私にも私の毎日がある。私はそれでいいと思っている。

たまに君のLINEのアイコンが変わると嬉しいんだ。私は君のツイッターのアカウントもInstagramのアカウントも知らないから、私が君の今の状況を見れる唯一の手段。かわいい姿を見れてとても嬉しい。


私はアラサーになった今も、19歳のとき君がカラオケで歌ってたり、ライブに連れて行ってくれたりして覚えた曲ばかり聴いているよ。

10代の女の子に刺さるような、ちょっと切ない恋愛ソングばかり聴いていたけど、今はどんな曲聞いて過ごしてるの?


『清く正しい風浴びてね 悪いことしないでね

 お洒落なセンチメンタルとか意味無いけど 馬鹿ニヒルな事情なの』

「この曲聴くとやよいちゃんのこと思い浮かぶの」って、カラオケ館で君がアカシックの8ミリフィルムを歌ったあとに言った言葉を今も覚えているよ。私はこの曲を聴くと、今も君のことを思い出している。


私はあれから清く正しい、とはどんどんかけ離れてしまっていった。

笑い飛ばせもしない、どうしようもないことばかりしてきたよ。うちの親はいっつも泣いていて、結局一緒に暮らせなくなっちゃったし、クスリやって、彼氏でもない人の子供妊娠しちゃって同意書にサインも貰えずにひとりで中絶の手術もした。

うまくいきそうになっても結局自分で全部壊しちゃう。バカみたいだよね。私はなんにも変わらず、絶対に見失っちゃいけないことも全部、見て見ぬフリをしてきちゃった。


君は、私と一緒にバカみたいなこともやったけれど、病んで手首に傷も作っていたけれど、見失っちゃいけないこととそうじゃないことの区別がつく子だった。

きっと今もそうだと思う。君は、私よりずっとずっと賢くて、真面目で素敵な人だ。


これから君との思い出話を遡って書いていきたいんだけど、今年私たちは26歳で、二人が出会った制服を着た17歳のころからは、もう10年近くも時が経つの?まだ私、17歳のころなんてつい最近のことのように感じてるよ。

昔に二人で話してた「永遠にこの年のまま時間止まってほしいねぇ!」って願いは、当然だけど叶わなかったね。


君と撮った何百枚もの写真を見返しながら色々思い返して書いているんだけど、なにか間違って記憶していたらごめんね。

私は元々気分の波が激しいから、記憶が曖昧になりやすくて自分の都合のいいようにすり替えがちだし、君との思い出を美化しすぎてしまっているかもしれない。いや、美化して浸っているんだと思う。


私の人生を振り返ってみたとき、美しいと思える瞬間が君とのあの時間だけのような気がしてしまうから、思い返す度にキラキラ光って、輝きを増していくのかもしれない。

ぐちゃぐちゃの泥の中に、小さな宝石がきらきら散りばめられているみたいで、君との思い出が愛おしいんだ。


高校生のときの君は、学校で浮いてたよね。

私も浮いてたから、人のこと言えないんだけどさ。


自称進学校って皮肉なワードが丁度ピッタリの高校の中で、地元じゃヤンキーグループに居た私はイキがって一番派手な見た目してた。時代錯誤のルーズソックスまで履いて。

本当は友達が欲しい気持ちもあったんだけど、ちょうど中学を卒業するころに一番周りの友達に合わせて調子に乗ってた私は、すぐに切り替えてにこやかにクラスのみんなの輪の中に入るのもなんだか恥ずかしいような気がしたし、自分は真面目な子たちとは違う!なんて一匹狼ぶって、女子同士で馴れ合ってる良い子ちゃんたちなんてどうでもいいしー、と強がってた。


色んな要因はあったと思うけど、入学してからすぐにメンタルを拗らせ始めた私は、あっという間に学校に行くのが、授業を受けるのが苦痛になった。

いつの間にか人の目がひどく恐ろしくなって、どうでもよかったはずの「いい子ちゃん」たちが私の悪口を言っているんじゃないかと被害妄想が止まらずに怯えていたな。

だから同級生の〇〇ちゃんが〇〇ちゃんと実は仲が悪いとか、〇〇ちゃんって〇〇先生が好きなんだって、とかそんな情報は知らないことばっかりだった。


けど、君が悪口を言われてたのは知ってたよ。トイレとか、廊下とかで噂されてるのを何度か聞いたことがあった。

あの子援交してるらしいよ、とか、なんかそんな噂だったと思う。

今思えば笑っちゃうよね、君はそのとき処女だったし、初めての彼氏もまだだった。


当時私は年齢を誤魔化してキャバクラでバイトをしてて、ときたま出会い系掲示板を使って援交までしてたから、いつも高校生にしては多すぎるくらいのお札をお財布に入れてた。

朝、寝坊して単位を落としそうな授業に間に合わなさそうなときは隣町の学校までタクシー通学してたくらいだったから、君の噂を聞いたとき、JKブランドでお金稼げるの今のうちだけだしラッキーだよね、わかるわかる、なんて思った覚えがあるよ。

君は全然、そんなんじゃなかったのにごめんね。純粋で、繊細で、傷ついた普通の女の子だった。


君とは、私が高校に入って初めて出来た女の子の友達が紹介してくれたことから話すようになっていったね。最初に君と話したときから、すごく可愛い子だなぁと思ってた。

下駄箱でばったり会うと声をかけあったり、最初は三人で遊んだりしながら仲良くなっていったね。

私、君と仲良くなりたい!って知り合ってすぐに思った記憶があるよ。なんでって言われたら、うーん、言葉にするのは難しいんだけど…その頃の私たちはタイプも全然違ったのに、すごく似てるような気がしたんだよね。

あの頃、金髪にヤンキーの定番アディダスジャージで登校してた私、あけすけな性事情の話や冗談なんかを言うと「えー?」ってちょっと控え目にくすくすと笑う君は、ピンクのカーディガンを着てたっけ。


二人とも中学の時は家庭教師ヒットマンREBORN!の獄寺くんってキャラクターにドハマリしてたことが分かったり、お互いBL漫画もちょっと病んだテイストの漫画も好きだったし、学校でうまく馴染んでやっていけてないのも一緒で、仲良くなってくスピードは早かったよね。


学校サボって、一緒に制服のまま電車で上野まで行ったの、覚えてる?和風なカフェで甘いもの食べて、観光のパンダのバスに乗った…んだっけ?

その時初めて「私学校こうやってサボるの初めて」って聞いてびっくりしたのは覚えてる。

制服着てても外のあちこちで煙草を吸う私に、いつも付き合ってくれて嬉しかったな。今思えば、補導されたりなんかして、君に何か迷惑かけるようなことが無くてほんとによかったと思うけど。


授業の合間の10分休憩のときに、学校の自販機の紙パックのいちごミルクを君の席の机にこっそり置いとくのが好きだった。あとから「ねぇまたいちごミルク置いてくれたでしょー」って君が笑って声をかけてくれるのが嬉しかったんだ。

卒業してから、覚えてる?ってそのこと話したら「あれ、飲まずにまだ部屋に置いてあるよ」って言ってくれて、びっくりしすぎて笑っちゃった。「それ、もう飲めないじゃんー」とか言って。


卒業式、黒板にチョークで名前書いて、それと一緒に写真撮ったね。

私のスマホに今でも写真が残ってるんだけど、やっぱり君、かわいいなぁ。女子高生最後の日の君、前髪がぱっつんの君。



高校を卒業してから私は進学もせず、家を出て風俗の仕事をして、適当にいろんな男の人とセックスして、SNSで病んでるツイートばかりして、一人のときはラリって過ごす日も多くなった。

あの頃は特にジェットコースターみたいな精神状態だったから、じゃらじゃら瓶から直にすごい量の薬流しこんで、もうなるようになれって、いわゆる自暴自棄状態?まぁ今も、あんまり変わらないんだけどさ。


君は「どうしよう、絶対どこも受かんないよー」と言ってたけど、卒業してからはちょっと遠い場所にある大学へ進学した。

普通ならここでちょっと距離ができたりするものなのかもしれないけど、私たちは高校を卒業してからより仲良くなっていった。

大学生になって、新しく何人か友達もできたようだったけど、君もやっぱり集団生活が肌に合わなかったのかなぁ。学校サボっては、私と一緒にフラフラしていたね。


なんで私みたいなのと毎日一緒に居てくれたのかなぁって、今思い返すと不思議にも思うんだけど、多分私たちはあの頃、お互い色んなことで傷付いていたんじゃないかと思うんだ。

だからなんだかお互いが仲間のように思えたのかな?

私はね、運命の人に巡りあったかのような気持ちだったな。一緒に居てこんなに楽しくて気が合う女の子は今までもこれから先も君しか居ないと思った。


実際に君と会わなくなってからも、親友みたいになんでも話せる友達なんて私にはできやしなかった。

ずっと一緒に居る中で、君の嫌なところなんて一つも見つからなかった。知れば知るほど大好きになって、精神科で出される薬は増える一方だったけど、君と居た時間だけは私もキラキラ笑えていたような気がする。


毎日二人で夜遊びばかりしたね。一週間のうち5日は一緒に居たんじゃないかなぁ。

月に会う予定をたくさん決めるっていうよりは、会ったら楽しくて、些細なこともおかしくて仕方なくて、ねぇ明日も会おうよってそんな感じだったね。


「ダイエット中でも焼き鳥はセーフなの」って君が言うから、チェーンの焼き鳥居酒屋か、カラオケか、喫茶店、とにかく一緒に居れて話せたらなんでも楽しかった。

このころ、私は君に自分の中の隅から隅まで色んなことを話して、誰にも言えなかったことも全部打ち明けた。君も私にそうしてくれているんじゃないかな、と当時は思ってたけど、どうかな。

今思い返すと、私よりも君のほうがすごく大人だった気がするし、全部知ってるような気になってただけで、本当は君の知らない部分もたくさんあったのかもしれないね。


でも、二人とも間違いなくかなり拗らせたメンヘラだったと思う。承認欲求が強くって、自己肯定感が恐ろしく低いところとか、やっぱり似てる部分や共感できる部分が多かったからあそこまで一緒に居れたんじゃないかなぁ。


そのうち、私たちはすっかり「大親友」になったね。

君の黒いゆるく巻かれたボブっぽい髪は、明るい茶髪のショートカットになってた。リップも、ピンクから濃い赤っぽい色に変わってった。


どっちも弱くて繊細で病んでたけど、二人揃うと私たちはなんだか最強みたいに思えたよね。

刺激が欲しくなって相席居酒屋に行ってみたり、HUBでナンパ待ちしてみたり。渋谷に出て、二人で「楽しいことないかなー」って飲んで、ふらふら歩いてみたり。

男の子たちにナンパされて合流して一緒に飲んで、二人でトイレでひそひそ「こいつらなんかめんどくさいから帰っちゃおうよ!」って笑いながら逃げるように帰っちゃったり。


拗らせた二人の寂しい心は、男の人にどれだけ誘われるかで満たされる。ような気がしてた。いや、あの時もう既にそうではないってちゃんと分かってたかもしれないね。

だからきっと二人で「一生このまま遊んでたいね」「歳とりたくないね」「ずっと二人で楽しいことだけしていたいよー」って何度も確かめるように言いあったのかもしれない。

私たちの最強の武器は若さと、弱さだったのかも。



あの頃は私もあまり君のことを考えられて無かったけれど、君のお父さんやお母さんは、私と毎日のように居ることを心配していたんじゃないかなぁ。

毎晩夜遊びして、どんどん見た目も派手になってって、お酒やタバコのニオイを纏って帰ってくる君に、変な影響を与えてるって思ったと思う。

実際、思い返せば私のせいで変な影響を与えてしまったかもしれないなって思う時もあるよ。

君は、今でも家族とはうまくやれているのかな?元々家族が大好きな君だったから、ずっとずっと大切にされていて欲しいと、今も願っています。



ある時、君に初めて彼氏が出来た!

ネットで出会ったというソイツは、なんか聞けば聞くほどしょうもない男だったけど、君が好きだと言うなら仕方がない。あんまり悪くは言わなかったけど、正直見ていられなかった。

君みたいな素敵な女の子には釣り合わない!そう思ってた。


「初めて付き合った人と初めてのエッチして、その人と結婚するのが夢」って言ってた君の夢は儚く散って、ワガママで適当で自分勝手なクソチンコによって傷を付けられた君は、とっても荒れていた。

けらけらと笑っていても、いま本心から笑ってるのかな、無理してないかなって心配になってたな。


あれから私は今でも「浅草のあたりが地元」という男の人を見かけると、ちょっと無意識に警戒してたりするの。笑えるよね。


君は処女じゃなくなって、そのクソチンコにあっけなくフラれてからも、自分の大事にしたい部分を守り続けていた。

私なんて、当時は誰とセックスしたって鼻の穴に指入れられるのと同じような感覚だったっていうのに、君は寂しくて寂しくてたまらなくて男の人とホテルに行って、行ったはいいけど触られたくなくて拒んで逃げてきてしまって、そんな自分に苦しんで、悲しくて泣いてた。


私は「自分の身体を大事にする」なんて感覚、10代のころも今もこれっぽっちも理解できないけど、君には自分の身体や、存在の価値をちゃんと感じていて欲しいと思う。

これは私の単なるエゴなんだけど。お姫様はお姫様のように扱われていて欲しい、やっぱりそう思ってしまうなぁ。



君はどんどん綺麗に、垢ぬけて、色っぽくなっていった。黒髪でガーリーな雰囲気から、バッサリ茶髪のちょっとボーイッシュなショートカット、ミルクティー色みたいな明るい髪でエクステ付けて完全にギャルになってたり、メイクも派手に、上手になって、気づけば短いタイトなスカートや、肩や谷間の見える服ばかり着るようになってた。

濃いリップと、目立つ色のネイル、柄物の服がよく似合ってた。エロそうなギャルっぽい女の子、って感じだった。


そうだ、この間男の人と手を繋いだときに「なんか変な手の繋ぎ方するね」と言われて気が付いたんだけれど、ヒールの靴ばかり履く君がよく転ぶから、転ばないように君が転びかけても掴まれる位置で、いつも私が下から手のひらを向けるように手を繋いでいたから、まだ癖になってるんじゃないかな?と思ったの。

そういうのも、やっぱり私が君との思い出をいいように脳内で変換しているのかな。本当にそうだったか、自信を持って言えないや。


こうやって書き出してみると、記憶が薄くなってるのが分かるね。

そりゃそうか。あのころ私たちは10代で、今はもう、アラサーだもんなぁ。



私たちが無敵だったあの頃、派手な見た目で若く、そしてノリの軽い私たちが飲み屋街を歩けばナンパしてくる男もたくさんいたし、私もチヤホヤされるのは正直気持ちが良かったな。

毎日朝方まで飲み明かしてもハイテンションで元気だったよね。今じゃ私は朝まで飲む…なんてことすら考えらんないよ。絶対途中で疲れて眠たくなっちゃって、持たないと思う。


最初は二人で飲んで、あとから男が二人くらい加わって、また二人に戻って「さっきのあいつらさー、かたっぽは良かったけどもうかたっぽマジウザくなかった?絶対ついて行かなきゃよかったよねー」って、最後のこの二人でする悪口ばっかりの反省会が一番楽しかったね。


散々男遊びしたけど、マジいい男だったよね!なんて日、思い返しても一回も無かったような気がする。

二人だから毎日楽しかったし、無敵な気がして無茶もした。でも若すぎて弱すぎてなんにも満たされなくて、二人ともわざと頭の中空っぽにして遊び回ってた、そんな日々だったように思う。君は、どう思う?



いつもみたいに二人で相席居酒屋行ったら、20代後半くらいの男二人と相席になった。そう、君が彼と出会ったあの日のこと。

一人はいかにもイケてる、遊びなれてる感じのお洒落な男で、もう一人はひょろっとした塩顔の、あきらかに連れてこられました、って感じの少年みたいな見た目の人だった。


私には分かる。絶対、君は塩顔の男がタイプだ。最初に挨拶したときから、そうだろうなとは思ってた。

君もそうだったかもしれないけれど、私は男の人と遊びたい!っていうよりは、君との時間が刺激的で面白ければなんでも良かったんだよね。

OK、君はそっちね、じゃあ私はこっちの人と、ってな感じでその日、うまい具合に二組ずつ別れて解散した。


二人で散々遊び歩いてはいたけれど、こんなことになるのは珍しい。というか今まであったっけ?

奢ってもらってチヤホヤされて、派手で露出した服を着てて、ヤレそう、なのに頑なにヤラレない君がその男と…なんだっけ、その日は、そのままホテル行ったんだったっけ?


私はそのもう片方の男の家に行って、乗り気じゃないままアナルを舐めさせられた記憶があるけれど…それ以外はあんまり覚えてないや。

君のアイフォンケースがいつも派手なキャラクターものだったのとかは覚えてるんだけど…色々、時と共に記憶は薄れていっちゃうんだね。



驚くことに、君は割とすぐにその男と付き合い始めた。あの浅草のクソチンコ以来、久しぶりに君の恋愛がスタートした。

なんとなく付き合った、というよりは、すごくすごく好きなように見えた。


誰が話を聞いても苦い顔をするような勤務内容のブラック企業で働くその真面目な、少年のような塩顔男は、時間が無さすぎてデートもろくに出来ないどころか頻繁に連絡すら取れないようだった。

だから、君に彼氏ができたと言っても私が寂しい思いをする、ってことは無かった。

今まで通りの頻度でたくさん遊んで、変わらず焼き鳥屋であーだこーだと喋り倒したね。


君はその塩顔男と付き合ってから「連絡が来ない」「さみしい」「電話1本くれたっていいのに」とよく怒っていた。

あとから私も何度かその彼に会ったし、君からも話をたくさん聞いたけれど、彼はすごく優しい人だった。でも、女心が分かるような器用なタイプでもなさそうだった。そういうところが好きになる要因でもあったのかもしれないけど。


今、君と彼は付き合って何年になるの?

一年半前、たまたま横浜の喫茶店で偶然君と彼に会ったときは、すごく仲が良さそうに見えた。

あの日、私は実家を追い出されてでっかいキャリーケースを持ってて、この年になっても自分がこんな状況なことが恥ずかしかったんだけど、あの絶望した真っ黒な気持ちの日に君に偶然会えたこと、私にとっては奇跡みたいで、女神様に会えたような気持ちだったんだ。

あの日見た君が、私の中の最後の記憶の君。

やっぱりとっても可愛かったよ。


彼とうまくいってるのかな。いってるんだとしたら、素直に嬉しいな。



付き合い始めた当時は君と彼とですれ違いも多かったようで、当時の君はいつもヤキモキしていた。

泣いて、怒って、不貞腐れていたね。


私は「世界で一番君がかわいい」と頻繁に言ってた。褒めて持ち上げたかったわけじゃない。自分の顔が嫌いだと否定ばかりする君を慰めたかったわけでもない。本気でそう思ってたんだ。自分でもびっくりするほどに。


人気のモデルやテレビで人気の女優と比べ物にならないくらい、君が一番世界で綺麗でかわいい。どんな顔してても、どんな恰好してても、かわいくて色っぽい、と思ってた。

女の子に対してそんな風に思ったのは初めてだった。


君は当時、ときどき醜形恐怖みたいになってる部分があって、自分の見た目に対して思うことが色々あるように思えた。

同じ女の子だし、似たような思いがある私にもその気持ちは分かる。君はいつだって誰よりもかわいいけれど、自分でそう思えるか思えないかは自身の問題だもんね。

近所のコンビニにもすっぴんで行けないと言ってた君は、今ではどう?少しは気持ちも楽に過ごせているのかな?


そういう女の子ならではの悩みとか、痛みとか、君の拗らせた部分とか、そういうのは君の彼より私のほうがずっと分かる自信があるのにな、なんて思うことが増えていった。

私だったら、君の欲しい言葉や行動で安心させてあげられるのにな。君が世界一かわいいと本気で思っているし、泣かせたりなんかしないのにな。そんなバカげたことばかり思ってた。


「やよいちゃんが彼氏だったら幸せなのになー」

そう言われるたびに、不思議と誇らしい気持ちになってた。彼に勝ったような気にもなってたよ。

気づけば、君の気を引こうと必死だった。


いつから、どの時点から君へ持っている感情を恋だと思っていたか覚えていないんだけど、しばらくして自分で抱えていられなくなると、私と君を繋いでくれた高校時代のあの子に会って「私、好きになっちゃったっぽいんだよね」って相談したりしてたんだ。

「へー、いいんじゃない?アタックしちゃいなよ~。奪っちゃえばいいじゃーん」って言われた覚えがある。あの子ならいかにも言いそうなセリフだよね。


でも、あれが本当に恋だったのかは、正直今でも分からないや。

親友の女の子に叶わない片思いをしている私、というシチュエーションに酔っていただけかもしれないし、親友を取られた気がして寂しい気持ちを恋と捉えてしまっただけなのかもしれない。

私は思い込みが激しくて自分の状況に酔うタイプの人間だったし、私にも、長続きしないとはいえ男の人との恋愛がアレコレとあったし。

熱しやすく冷めやすい私は彼氏ができてすぐ別れたり、また新しく彼氏ができたり、彼氏が居ながら気になってる人が出来たり。私なりにその時付き合ってる人のことは好きだったし、素敵だなと思う男の人は常に居たような気がする。


バカで空っぽな当時の私は、それでも私は君のことを恋愛感情として好きなんだろうな、と思ってた。

変わらずバカで空っぽな今の私は、当時君に持ってた感情が友情か恋愛感情かなんて今更分かんないし、今となっては正直どっちでもいいかなと思ってる。

君が世界で一番かわいくて、結果そうできなかったけど、大事にしたかった。それはなんにも変わらない。


二人で夜遊びしているとき、クラブやHUBで私たちが男の人らの前で「うちらめっちゃ仲良しなんだよねー」ってキスすると、場はワッと盛り上がった。

「え、レズ?ちょーエロいんですけど!」っていい反応が返ってくるから、たびたび人前でふざけてキスするときがあったよね。

あれ、私が酔っぱらって勝手に君にキスしてただけだったっけ?でも、酔ってない時も酔ったふりしてキスしたことは何度もあったな。


いつでも手を繋いで歩いた。腕を組んで歩いた。

週に何度も会ってるのに、毎日LINEもしてたくさん電話もした。私の待ち受けはSNOWで撮った君の猫耳が付いた自撮りだった。

酔って唇にキスした。スキンシップのふりでほっぺたにキスした。


君がなにしたら喜ぶかばかり考えてた。待ち合わせのときお土産用意したり、駅まで迎えに行ったり、バレンタインには、バラの花束なんか渡したっけ。あれ、実家に住んでた君は家に持って帰りにくかったんじゃないかなぁ。今思うと申し訳ないな。バラの花束なんて抱えて帰ってなんて説明したか分からないけど、困らせてごめんね。

でも、本数で意味の変わるバラの花言葉を調べて、お花屋さんで包んでもらったとき、私、幸せだったなぁ。


君が作ってくれるバレンタインのお菓子は、不器用な君らしい味で、それもまた嬉しかった。

クリスマスはラブホテルでサンタクロースのコスプレして、ラブホ女子会したっけ。

あ、まちおかでお菓子を大量に買い込んで、デカいお菓子の家を作ったの覚えてる?あれ、作って満足しちゃってほとんど食べずに捨てちゃったんだよね。


私のお誕生日に、君は私が好きなキャラクターのでっかいぬいぐるみとたくさんのグッズをくれたね。あれ、どうしても実家を出るときに取っておけなくて、処分する形になっちゃったんだけど。

私の実家には私のものが何一つ残ってないから、君との思い出はスマホの中の写真くらいかなぁ。

高校時代の同級生で連絡先を知ってる人も居ないし、卒業アルバムも捨てちゃったから、君が何組だったか確かめる術もないんだ。


確か、そろそろ夏だね、なんて季節の時かな。

君が「お祭りでおもちゃの指輪を買ってもらうの憧れるんだよね」と乙女ちっくなこと言ってて、私は単純でバカだから、お祭りに誘っておもちゃの指輪買ってビックリさせよう、なんて思ってワクワクしてたんだけど、ふと、あ、そうしてもらいたいのは私からじゃなくて彼氏からか、って我に返ったあの瞬間、なんとも言えない気持ちだったなぁ。

きっと優しい君は、私が得意げにおもちゃの指輪を買ってはめてあげても「えーうそ、ありがとー」って喜んでくれたと思うんだけど。


でも結局、君の気を引きたくて、カッコつけて駅前のシルバーアクセの出店で君にぴんきーりんぐをプレゼントしたね。安物だったけど、お揃いで大切に付けてくれてて嬉しかったな。

私はこのピンキーリング、最後にいつ失くしちゃったのか覚えてないや。一度風俗の仕事中に失くして、その日行ったラブホテルを夜中に何件も回って見つけたことはあったんだけど、あの指輪は、お互いいつから付けなくなったんだっけ。


君は彼氏と上手くいかないと、よく怒ってた。電話口で、聞いた事のないような冷たい口調で彼を責めている。眉を顰めて怒鳴っているのも横で見てた。

「もういい」みたいな捨て台詞で電話を切ると、君は短いスカートのまましゃがみこんで大泣きする。私は君の背中をさする。


「あんな男別れなよ、私が大事にするよ」って思わず喉まで出かかると、君が「やよいちゃんはいつだって欲しい言葉をくれるのに。やよいちゃんが彼氏だったらあたし幸せなのにね」って泣くから、何も言えるわけがなかった。

私にはきっと、あんな冷たい声で怒ったりしないだろうな、と思った。感情が抑えきれなくて彼に手を出してしまうと悩んでいたことがあったけど、私はそうされる彼のことがちょっとだけ羨ましかった。


可愛い、可愛い、可愛い、お姫様みたいな君、いつも涙で化粧が落ちて目の下が真っ黒だった。


君は多分、私のそれがハッキリ恋愛感情だったかどうか気付いてたか分からないけど、私が君の顔や仕草が可愛くて仕方がなくて、デレデレだったことは分かっていたと思う。


渋谷から電車で地元までの帰り道。私の方が先に「明日朝からバイトだから、さすがに今日は帰んないとマズいから」と降りようとすると君がうるうるした瞳で私の服をぎゅっと掴んで「やだ。まだ帰りたくない」って、もうそれがかわいい。私がそれに弱いのをよく知ってる。


「今日はほんとに帰んないとダメだから、すぐ連絡するね。気をつけてね、タクシーで帰るんだよ」って私が先にホームに降りる。

でも、電車の中に一人残った君のその寂しそうな顔みたら、ドアが閉まる直前に君の腕引いて、一緒に降りちゃったことあったよね。

あのとき「ねえ、王子様みたい」って嬉しそうにしてた君に、もうこりゃ叶わないなぁと思ったよ。


私も実家に住んでたし、色々あって自分の部屋に連れて帰れるような環境じゃなかったから、こういうときは大体二人でラブホテルに泊まってた。

「ねーなんかみようよ」ってベッドで寝転んだ君がふざけてリモコンでAVを再生し始める。勘弁してよと思ったよ。

私はさあ、君の肌荒れした足に優しく触れたかった。舌を絡めたキスがしてみたいんだよ。短いスカートで寝転がる君を横目にそんなことを思ったらムシャクシャして、もうなんだか止まらなくなりそうで「私シャワー浴びてくるね」って、一人広いバスルームで、シャワーの音で誤魔化しながら、オナニーした。

髪も身体も洗ってメイク落として出たら、君の寝顔は赤ちゃんみたいで可愛かった。


君はヒールとかサンダルとか、歩きにくい靴ばっかり履いてて、そこから見える足の爪が伸びてることが多かった。

痛くならないか心配で言ってあげたかったけど、こういうのって同性の友達に言われたら傷つくかな?恥ずかしいかな?と思って言えなかったんだ。


あるとき足の爪が綺麗に短くなってて、あ、切ったんだ、よかったー、と思ってたら「ねぇ、なんか彼氏がさ、急に足の爪切ってあげるよって言い出して切ってくれたんだよねー」って。


その時、あぁ私の負けだなって思った覚えがある。

私は今までこの子を一番大事にしていると思っていたし、一番の理解者だと思っていた。

でも全然そうじゃなかったんだなって、私じゃダメなんだなって分かって悔しかったけど、君のその嬉しそうな顔に、その声のトーンに、あぁ君が幸せそうでよかったなって素直に思えたんだ。

恋みたいに思ってた気持ちは、そこで諦めがついたかな。

私じゃ「私が切ってあげる」って君の足元にしゃがんで、爪、切ってあげられなかったもん。


どうやって気持ちを書いたら良いのか思い返しながら書いてると、何だか大事な出来事は忘れているような気がするし、書いていて時系列もメチャクチャになってると思う。

中には私の頭の中で捏造された出来事とかも混じっちゃってるかもしれない。

私は君と一緒に居た時も、会わなくなってからも、君の話を周りの人にたくさん話してきたから、曖昧なまま話しているうちに全然違う記憶にすり替わってる可能性、全然あると思うんだよね。


あとは、そうだなぁ。君をひどく傷付けたあの時のこと、今更謝ったってしょうがないんだけど、今もう一度ちゃんと謝りたいとずっと思ってた。


私が毎日君と一緒に居た、19歳の9月。

私はツイッターで知り合った、死にたいって言ってるよく知りもしない女の子と一緒に練炭自殺を図って、そのまま救急搬送されて閉鎖病棟に入院、20歳の誕生日もそこで迎えることになったときの話。

覚えてる限り、その時はいわゆる躁鬱病の、躁状態だったと思う。

絶望して死のうと思ったわけじゃなかったんだよ。君との日々が楽しくて幸せで、私は「今ならなんでもできるような気がする」というハイな状態で自殺の選択をした、と記憶してる。


「なんで色々相談してくれなかったの、あたしあんなに傍に居たのに」と言ってくれたけど、本当にダサくってバカなことに、躁状態だった私は君に最期、ラブレターを残して死ぬことがなんだかロマンチックに思えていたんだよね。

アホだよね、君の気持ちも考えないで。でも、当時の私は君が一生、死んだ私のことを思い出して生きてはくれないかと、そんな馬鹿げた、拗れた恋をしていたんだよ。


手紙にどんなこと書いたかは覚えてないけれど、文章の最後の部分に、二つ、曲の歌詞を書いたと思う。

君が私にカラオケで歌ってくれた、そして私が君のことを思い浮かべながら何度も聴いたクリープハイプの「大丈夫」という曲の中の、

『大丈夫、一つになれないなら せめて二つだけでいよう』


それと、その時二人の間で流行ってた、さめざめの「きみが死ぬとき思い出す女の子になりたい」の中の歌詞、

「あたしが死ぬ時思い出す男の子はきみです」の部分を、

『あたしが死ぬとき思い出す女の子は君でした』と、書きかえて最後に書いたと思う。


こんなの、今思い出して考えても酷いよね、最低だね。

バカでナルシストで最低なラブレターに書かれてたのは、君が死んだ私のこと忘れないようにかける呪いのような言葉だったというのに、当時の私にはそうは思えなかった。

君にラブレターを残して死んでいくことが、私にとって一番素敵な人生の終わらせ方だと思ってた。

君は後から「どうしてそんなに辛かったなら、私と一緒に死のうとしてくれなかったの?どうして私じゃなくて知り合ったばっかりの女の子とそんな風にしたんだろうって思ったら、すごく悲しかった」と言ってくれたけど、私に君を連れて行くことなんてできやしないよ、だって君は、賢くて可愛いお姫様なんだもの。


私も相手の女の子も、後遺症も残らず無事だった。

ねぇ、本当は、最後練炭を焚くのにお風呂場に目張り、ってガムテープで空気が漏れないように最後の準備してるとき、相手の女の子は「やっぱり死にたくない」って言ったんだ。

でも私は、もうここまで来て引き下がりたくなかった。無理やりでは無かったけど、死にたくないというその子を必死で宥めて一緒に睡眠薬を飲ませたんだ。死ななかったけど、やったことは人殺しと同じようなものだと思ってる。

君にも一生のトラウマを植え付けてしまうところだった。この時ばかりは、死ななくてよかったのかもしれないと思う。


閉鎖病棟まで送ってくれた手紙に、死ねなかったことがなんだか恥ずかしく思えて、茶化した返事を書いてごめん。

連絡が急に取れなくなったもんだから、私のバイト先に実家の住所を頼み込んで教えてもらって、実家に来てくれたと親から聞いた。

自殺を図って閉鎖病棟に居ると聞いて、ひどく泣いていたと後から教えてもらったよ。

私はこんなだから、君のこと「彼より幸せにできるのに」なんてアホみたいなこと思ってたくせに、一番の理解者だと思ってたくせに、君に大きな傷をつけて泣かせてしまった。


その後、私が戻ってきてからも私たちの関係は続いていて、何度も会って遊んでいたけれど、私はやっぱり精神的に不安定で、君はいつも心配していた気がする。


君と会わなくなっていったのは、それからどれくらい経ったころのことだったかなぁ。

私が子供の居る人と付き合うようになって、仕事も忙しくなって、少しずつ会わない時間が増えて、少しずつ距離が離れていったね。

私は地元から遠い土地で、新しい環境で母親の真似事みたいな日々に夢中になって、結局また自殺未遂とかしちゃって、地元に戻ってきて、また自殺未遂して。


なんのキッカケだったか「久しぶりに会おうよ」って連絡を取り合って、地元の喫茶店で君と会ったね。

2年ぶりくらいだったかなぁ。私は、今思えば自傷行為だと思うんだけど、衝動的に丸坊主にしちゃって、少し髪が伸びてきてモンチッチみたいな変な短髪の髪型のころ。

君は茶髪のショートカット、少し落ち着いた見た目になってて、大人っぽくて綺麗になってた。


「うちらはもう前みたいな関係にはなれないけど、これからもまた友達で居れたらいいよね」って二人で話して、それから度々ラインしてた時期もあったよね。

「やっぱりやよいちゃんは私にとって特別なんだよね」って言ってくれたの、嬉しかったなぁ。

思い出話もたくさんして、これからもまた遊んだりしようよって。


でもそれからも、私が長期間精神的に安定することはなくって、むしろ年齢を重ねれば重ねるほど自分の中で拗らせていくものは多くなって、気付けば誰かと深く関われなくなっていっちゃった。


あの頃と違っていま、君と私の生活は少しも重なっていない。

君は君の毎日を過ごしていて、私にも私の毎日がある。私はそれでいいと思っている。


君は私のツイッターのアカウントを知っているから、今でも私が自殺しようとしていたり、自暴自棄になってたりするのを見ると、「大丈夫?」「心配だよ」「気が向いたらラインしてね」とラインで連絡をくれている。


そのどれにも、返事を返せなくてごめんなさい。

君からのライン、とてもとても嬉しかったよ、まだ君が私のことを気にしてくれて、友達だと思ってくれてるような気がして、本当に嬉しかった。


私はどうしても、君を自分勝手に傷付けたあの頃から、懲りもせず死ぬことを諦めきれず、何度も何度も死のうとしてしまうよ。

それは26歳になるいまも変わらない。私はこの自分のまま生きていくしかないのか、どこかで死ねるのか、まだ君と出会った17歳のときと同じ位置で足踏みしている。


私は、今すぐに死ねるボタンみたいなものがあったら迷いもせずそれを即座に押すと思う、10代の頃からそんなことを思い続けてきたよ。

私はあの頃から何も変わってない。ずっと変われずに、大人に、まともになれずに居ます。


私は君とまた連絡を取り合って、前のようには戻れなくても、少し形は変わってしまっても、時々遊んだり連絡を取る友達になることもできるかもしれない。

でも、私はなかなか自分をコントロールすることが出来なくて、衝動的な気持ちが湧いて出てきてしまう。

君と関係を繋げていると、また君を傷付けて心配させてしまうと思うから、君は君の人生を、私は私の人生を、その方がお互いにとって良いと思う。


君は、私と一緒にバカみたいなこともやったけれど、病んで手首に傷も作っていたけれど、見失っちゃいけないこととそうじゃないことの区別がつく子で。

きっと今もそうだと思う。きっと、なんて言わなくても分かる、君は私よりずっとずっと賢くて、真面目で素敵な人だもん。昔も、いまも、これからも。

寂しいけれど、私の勝手な思いかもしれないけれど、きっと君は幸せになる。とびきり幸せになって欲しい。


私は、一番最後に自殺未遂した2021年の8月、アラサーになって自分がちっとも変わっていけやしないことに気がついたし、こうやって「死ななくちゃ」という呪いに取り憑かれているうちは、大事な人が近くに居れば居るほど、自分も傍に居る相手も苦しくて辛いんだってことを嫌というほど実感してきた。


本当は、君にラインの返信がしたいし、電話で声が聞きたいし、直接君に会って可愛い顔が見たい。

今何してるの、どんな風なのって、色んな話を聞きたい。

でも、私が連絡を返せないのは、自分の思い出の中で今もきらきら輝いている君と繋がってしまうことが怖いから。


君に抱いた淡い恋心、だったのかそうじゃなかったのか分からないけれど、あの日々はずっと私の中の宝箱に大切にしまってあって、でも悲しいことにするすると、箱と蓋の隙間から、それは少しずつ流れ出していってしまう。

私がこうやって記憶を手繰り寄せて書き綴ったこと、それと実際に君と居たときにあった事実と、多かれ少なかれズレがあるとは思うけれど、私はどれくらい君との思い出を自分の中で勝手に、都合の良いように補填してしまっているのかな。


君は今、生きていて、日々を過ごしていて、幸せですか?

毎日よく眠れていますか?ご飯は食べてますか?自分を嫌になったりしていませんか?


さっき、君を傷付けたくないから、とかお互いにとって別の人生の方が良い、とか書いたけれど、こうやって君の目に触れる可能性があるところで君への思いをこれだけ書いてること自体、ひどく勝手で矛盾していると思う、ごめんなさい。

一方的に自分だけ君に対してのことを書いて、連絡は返さないなんてズルいなと分かっている。


でも、私はやっぱり君に連絡するのがとても怖い。

決して振り回したくないのに、傷つけて心配かけてはまた連絡をして、また結局傷つけてしまう。

そしてまた君のことを大事な存在として思ってしまうと、若さを失った私は死ぬのが怖くなる気がするんだ。ずっと信じ続けていた「死ぬことが私を救ってくれる」という唯一の希望を失ってしまいそうで怖い。

死にたくなったとき、私は過去のことを振り返ってしまう。これが原因だったんじゃないか、こうしていたらよかったんじゃないか、と回り続ける思考に頭を抱えて唸ってしまう。

本当にしょうもなくってバカで呆れるようなことばかりで、思い返すたびに「やっぱ死んじゃう方が良いじゃんね」と、過去の記憶が「死ぬのは正しい」と説得力を与えてしまう。


そんな中で、泥の中に散りばめられた、きらきらと輝く宝石でいて居てくれて、ありがとう。

今でも私の中で、一番可愛いお姫様で居てくれてありがとう。


私は今、生きて日々を送っています。死にたいと願いながらも日々を送っています。時々、君のことを思い出しています。可愛かったなぁ、と君の顔を頭に浮かべています。


世界で一番可愛いお姫様へ、勝手に、勝手なことばかり書いてごめんなさい。今君は私に対してそこまでの関心を持っていないかもしれないし、こうやって色んなことを長々と書かれて気持ち悪いと思うかもしれない。

でも私は今でも君との思い出に縋って生きている。君を忘れられずに、宝物箱に閉じ込めてしまった。


いつか彼と結婚式をすることになったら、君のラインのアイコンがウェディングドレス姿になったらいいなと思ってる。君の人生で一番の晴れ姿、スマホの画面で見たとしても私はきっと嬉しくって泣いてしまうと思う。


君の幸せを、平穏な日々を、健康を、ずっと祈っています。


いつか、いつか私が「死ななくちゃ」という呪いから解かれたそのときは、その時はどんな距離感でもどんな関係性でもいいから、また友達になって欲しい。そんな勝手なことを、ずっと勝手に思っています。

死ぬことばかり考えていたのが私にとって過去のことになったら、ちゃんと生きていく勇気を持つことができたら、そのときは真っ先に君に連絡をしたいです。


こんな気持ちの悪いラブレター、君に読まれて嫌われたくないから、どうか、どうか君が、こんな勝手で最低でどうしようもない文章を読んでいませんように、と願います。


世界で一番かわいいお姫様へ


























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