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現在地

前回の日記から一ヶ月が経った。その間、私は一体何をしていたか。  気になって暴飲暴食に走り、胃を始めとした各内臓器官を悪くした方も多いだろうと思われる。もしくは千一夜物語に手を出し、眠れぬ夜の一助としたか。
「きっと、次の文学フリマに向けて寝る間もない生活をしていたに違いない」と感の鋭い方もいただろう。
しかしながら、そうではなかった。では何をしていたか。それはスポコン青春マンガさながらのサインの練習に継ぐ練習であり、それこそ小説化、もしくは映画化をしようものなら世間を席巻するだろう。

前回の文学フリマにおいて、私は本を買ってくれた女性にサインをねだられた。
すわ!これはここから私のモテ期が始まるのではないか。
そう思った私は指先に力を入れ、乾坤一擲の会心のサインを描いた。だが、そこにはミミズが這ったような、ヘナヘナの文字が描かれていた。
んん?  これでは私の品性と教養が疑われる。リテイクだ!リテイクをさせてくれ!
そう思ったものの、女性は「ありがとうございましす」と礼を言うと、私に握手を求めることも、ツーショットの写真を求めることもせずに去っていった。
女性が去ったあとの私は、サインを求められるという思いも寄らぬ展開に動揺し狼狽え、この後もサインを求めて長蛇の列が出来たらどうしよう?と不安にかられ店の売り子が手につかない状態だったが、全くの杞憂に終わり、モテ期も未だに訪れていない。

普段こそ「人生は何が起こるか分からない」と悟ったようなことを言っておきながら、いざ予期せぬ出来事が起こると狼狽する自分に不甲斐なさを覚えた私は、次の文学フリマの準備もそこそこに、メンタルトレーニングとサインの練習に励んだ。

メンタルを鍛えるために、最適な動画をYouTubeで探り、最適な本を選ぶためにAmazonという密林を探索し、そして都心に出てあらゆる書店に足を運んだ。
YouTubeでサインの練習に最適な動画を検索していたが、私の探究心を阻むように、おすすめ動画が次々と現れ私を邪魔をしようとする。

これらの艱難辛苦こそ日記にするに値すると思ったが、どんどんと話がそれに逸れ、何を言おうとしていたか分からなくなる恐れがあるので、それは止めておく。

それはともかく、私はひたすらにサインの実践形式の練習に勤しんだ。コピー用紙に何千何万回とサインをしたため、コピー用紙に余白はなく黒一色となり、そのコピー用紙も三束を消費した。おかげで私の右手は腱鞘炎となり、箸も握れぬ日々が続いた。そして腱鞘炎を治すための最高の名医を探す旅に出ることになり、同時に左手で文字を描く練習も始めたのだった。

まさに激動の日々。そうして私の右手は今、こうして完全に復活を果たし、この日記を書けるまでになった。これらの過酷な道を通った私はコピー用紙と向かいあった。さあ、今から完璧なサインを書いてやろうではないか。
私は大きく深呼吸をすると、神経を研ぎ澄ましペンを握った。完璧なペンの持ち方、絶妙な筆圧と、筆記速度。このサインはいずれ国宝となり国立博物館に、否、ルーブル美術館に渡ることも夢ではないだろう。

そして私は出来上がったサインを見た。文学フリマで書いたサインはミミズが這ったようなサインだったが、今度は、今度こそは。

そこには活きのいい鰻がのたうち回ったような筆跡のサインがあった。一体、私はどこで間違えたのか。私には最早、何も分からなかった。

あまりの結末に私は膝から崩れ落ちかけたが、その前に私にはやるべき事がある。次の文学フリマの告知である。
Twitter(現X)でも散々呟いており、煩く思っているかもしれないが、そこは勘弁してほしい。

以下、文学フリマ東京37の詳細である。
https://bunfree.net/event/tokyo37/
私のサークル米麦党は第一展示場のD-20で会場の奥まったところにあるので、私のブースに来る予定の客が道中で散財してしまい資金不足に陥り「ま、こばやんのところは良いか。次にしよ」と、そのまま帰宅してしまうのではないかと危惧している。

今回は前作の「おっさん、かく語りき」と、新刊の「続 おっさん、かく語りき」を頒布する。
いずれも各600円。前作は印刷屋を変えたことで値下げが可能となった。

この制作過程も語れば三日三晩は必要とするのでここでは割愛する。

ともあれ私は11月11日(土)に皆の来店を待つ次第である。時間帯によっては、私がお世話になっている読書会の主催者の方が売り子をしているが、そこは承知してほしい。
また、当日の様子は随時、Twitterに上げるのでチェックをしてほしい。
そんなわけで、私はこれから再度、サインの練習をする為に指立て伏せを20回×5セットという過酷なトレーニングをする。

では、当日にお会いしよう。




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