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「魔界のメッセンジャー」 ---- Short Story ----        

       買わされた奇怪な本は本ではなかった。
         最近見かける黒く奇妙な鳥。
         奇怪な本に始まる短い物語。

  おかしな箱

電子も印刷も扱うネット出版社の編集部で働いている藤巻新伍(以下新伍)は24歳。 
残業で今日も真夜中の帰宅になった。
都心も近いので人も車も多いが、新伍は歩きながらちょっと振り返った。

電車を降りたときから見知らぬ男につけられているのだ。
コートを着た大きな男で帽子をかぶり、手には大きなカバンを提げている。
新伍が止まると男も止まり、歩き始めると男もまた歩き始める。
しかし少しづつ新伍に近づいている。

(同じ帰り道なのか、いややはりつけられている)
横断歩道が赤になると、男は一気に近づいてきた。
(何だよ、真後ろについて、誰だこいつ)
すると男は新伍の横に回って声をかけた。

「すみません、時間をいただきたいのですが、ちょっとよろしいですか」
威圧感を感じるほど大きな男で新伍を見下ろしている。
大きな目と眉に大きな鼻と耳、唇は厚くて口も大きい。
身体に合わせて顔のパーツがみな大きい。
しかしどこか憎めない雰囲気で一見すると紳士風だ。

「何でしょう、急いでるんですけど」
男はニコニコ笑いながら交差点から離れて「こちらへ、こちらへ」と新伍に手招きした。
どうしてと思ったが、身体が勝手に男に近づいていく。

男は少し背をかがめながら言った。
「電車の中からあなたを見てましてね、あなたならと思い、失礼とは思いましたが、あとをつけてまいりました」
「ご用件は何でしょう」

男はいきなりカバンから赤っぽい本を取り出した。
A4くらいの大きさで2センチ程度の厚みがある。
それを新伍に見せながら言った。
「この本を買っていただきたいのですが」

「本なら結構です」
「いいえ、あなたなら買っていただけると思いましてね」
「宗教の勧誘ですか」
「宗教とは関係ございません。あなたに良き未来を授けてくれる本です。これは誰にでも売れる本ではなく、それに値する人物でなければ売れませんし買うこともできない本です。どうぞ手に取ってみてください」

と男は言うや、いきなり新伍の手を取りその手のひらに本を載せた。
「アアッ」
想定外の重さに新伍はあやうく落とすところだった。
(この大きさと厚みで、この重さは異常だ。まるで鉛のようだ)
「何ですか、これ、重くて落とすところでした」

「ああ、重かったですか。わたしは持ち慣れているものですから。すみません」
新伍はカバンを置き、両手で本を持って表紙を見た。
街灯の明かりにさらすと赤黒い表紙に金色で「希望の書」と書かれている。

「これ、宗教の本でしょ」
「ですから違いますと申し上げたでしょ。一度お読みになれば虜になります。どんな境遇にあっても希望の光が見える、という本です。買いなさい」
男はいきなり命令口調になった。

(命令する気かよ、怒らせたら面倒そうだな・・)
「でも本の中身が分からないと」
と新伍は言いながら表紙を開けようとした。
しかし表紙が開かない。

「これ開きませんけど」
「ああ、それは買っていただいて家に帰れば開きます」
「いま見れないのですか」
「そう、いまは呪文がかかっていて家に帰れば解けます。不思議でしょ」

新伍も元からこういうものには興味をそそられる性分だ。
こうなったら値段次第で断わろうと思いながら尋ねた。
「おいくらですか」
「1500円です」

「中身も見せずに1500円は高いですよ」
「お金が無いのですか、貧乏ならやはり買ってこの本を読み人生を変えるべきです」
「貧乏てほどじゃありませんけど」

新伍が黙っていると男は言った。
「じゃ1000円でどうですか」
いきなり安くなった。
新伍は値切ればもっと安くなりそうだと思った。

「じゃ800円なら買います」
男は少し考えた。
「900円にしてくれませんか。わたしにも立場があるので」
「じゃ900円で」

新伍は男に本を預け、背を向けながら胸ポケットの財布から1000円札を一枚取り出した。
男がのぞき込んでいる。
「のぞかないでくださいよ」
「ああ、すみません」

「じゃ100円おつりをください」
つり銭、つり銭、と言いながら男はポケットをさぐり、カバンまで調べ始めたあげく新伍を見て黙っている。
新伍は気づいた。
(こいつゥ、つり銭払う気ないな、結局1000円か)

「つり銭なきゃもういいです」
「ありがとう。あなたに神の祝福を」
(何が神の祝福だよ、やっぱりどっかの新興宗教か)
男は1000円札を握り込んでスーツのポケットにねじ込んだ。
(変な男だ。本の中身も本当にあるのか、箱のようにも見えるし)

「じゃ、確かにお渡ししましたから。失礼、おやすみなさい」
男はスッと消えた。
「?!どこへ消えた」
見回してもどこにもいない。

新伍は誰かに見られているような気がした。
何げなく上を見上げると、青信号の上に奇妙な黒い鳥がとまって新伍を見下ろしている。
青信号をわたる新伍、黒い鳥は新伍が見えなくなるまで後ろ姿を見ていた。

 新伍はアパートに帰るとテーブルに本を置いた。
「家に帰れば呪文が解ける本なんて聞いたこともない」
指でそっと表紙の端を上げてみた。
すると少し開いた。
「オッ 開きそう、へええ、呪文かよ、まさかな」

ページをよく見ると本の天も小口も硬く固まっている。
「こりゃ本ではなく箱じゃないか。なら中に何か入っているのかもな」
指先でゆっくり表紙を開けると厚めの扉が現れた。
扉は皮らしく、黒いインクで縄の十字架が描いてある。

「本といえば本か、縄の十字架とは珍しい」
十字架にイエスの姿はない。
「問題はこの下か」
そう思いながら十字架を指で軽くなぞったときだ、指の先からズズッと引き込まれていきそうになった。
びっくりして指を引っ込めた。

新伍は怖くなった。
「この箱、ただの箱じゃないぞ、これは」
すると風が吹いたように扉がフワッと浮いてその下が一瞬見えた。
穴が開いている。
「・・・何だ、これは」

指でゆっくりと扉を開けた。
箱は周囲をわずかに残して真っ黒な四角い穴が開いている。
そして穴の底が見えない。
どこまでも深いような穴だ。

新伍は黒い穴をじっと見ている。
穴の中からかすかに風が吹いた。
もう一度穴をのぞき込んだ。
どこまでもどこまでも深そうな穴だが、でも下はテーブルだ。

新伍は穴に人差し指を入れた。
スッと入る。
ゆっくり入れていくと手首から肘まで入っても底に届かない。
自然とテーブルの下を見た。
もちろん何も無い。

「指も手首もどこへいったのよ」
そのときだ、穴の中からいきなり手首をつかまれ引き込まれそうになった。
「ウワッ、はなせ」
相手の手がゆるんでズルッと抜けた感じがした。
手首を見ると手の甲が赤くなってひりひりしている。

「この箱は何だ。穴は小さいのに身体が吸い込まれるような気がした」
穴の底に何か得体の知れないものが存在しているようだ。
「これ以上、何もしないほうが良さそうだ。これは何かの入り口じゃないのか、開けたらオレの終わりのような気もする。どうしよう」

 あっと思い出した。
会社に最適な人物がいた。
すぐに新伍は箱をマジックテープで巻いて止め、巾着袋に入れ、それをまたビニール袋に入れ、最後にタブレットなんかを入れるカバンに収めファスナーをしっかりと閉めた。

さらにテーブルの上に置き、骨董屋で買った銅製の筆箱をその上に重し代わりに置いた。
「これなら何かが出てくることはないだろう」
 明日は土曜日だが会社は休みなく動いている。
「室田さんも来るはずだ」

室田とは会社の資料室長のことだ。
出版社の一角に森羅万象様々な資料を集めた資料室がある。
国立博物館の学芸員が資料探しに来るほどの資料室だ。

そこにいるのが室田室長という105歳を超えた人物だ。
出版の道に入って80年を優に超え、数々の功績で国や業界から何度も表彰を受けている有名人で著作も数多い。
歩く百科事典であり、当然ながら人間離れした雰囲気も漂っている。

「室田さんなら、これが何か分かるかも、明日持って行って見せてみよう」
そのままウトウトしていると、どこかから叫んでいるような声が聞こえ続けていたが、寝てしまった。

 室田室長

朝の陽ざしがまぶしい。
新伍は頭が少し朦朧としている。
昨晩、ひと晩じゅうどこからか叫ぶような声が聞こえていたからだ。
「あけて、あけて」というように聞こえていたような気もするが、判然としない。

アパートを出ると向いの二階家の鬼瓦に黒く奇妙な鳥がとまって新伍を見ている。
「あいつ、昨日の夜もいた奴だ。何か頭の辺りの形がおかしいのよな・・」
 午前9時、室田はもう資料室にいた。

「おはようございます」
「おう、今日は出社かい」
「実は室田さんに見てほしいものがあって」
「何だい」

新伍は本を入れたカバンを室田の前に置き、昨晩の男のこと、本のような箱のこと、穴と手首をつかまれたこと、そして夜通し聞こえていた「あけて」と呼ぶような声のこと、など総て話した。
室田は最初はニコニコしながら聞いていたが、縄の十字架、と聞いた辺りから表情が変わり始めた。

「その本を見せて」
室田の顔は今まで見たこともないような緊張感に満ちている。
そして新伍は本を取り出した。
「それは・・」と言ったまま室田は黙ったが、指先がかすかに震えている。

新伍は表紙を開いて扉を見せた。
「黒い十字架です」
室田の目は黒い十字架に釘付けだ。
じっと黙る室田。

「この扉の下は穴が開いてると言ってたな」
「はい、穴の中に何かいるような」
室田は新伍に言った。
「藤巻君、もう開けるな・・・しかしまさか君がこれを持って来るとは」

「これ、ご存じでしたか」
眼鏡をかけ直した室田は本をじっと見ている。
「つかまれたような手首もまだ赤くなってます」
室田は新伍の手首を見ながら言った。

「よく助かったな。つかまれたら最後だと聞いていたが、助かったとはな、どういうことか・・」
室田は考えている。
「室田さん、そもそもこれは何ですか」

「この本はだな、聞いたことはあるが、しょせんは噂だけだろうと思っていた。昨晩も本から何かが『あけて』というように聞こえていたって言うたな」
「聞こえたというか、聞こえていたような」

「間違いない。本物だ。う~ん、普通なら誰も信じない話しだが、君はすでに経験しているし、ボクの知っていることを総て話そう」
やはり室田さん、と新伍は楽しくなった。
(こういうの大好き)と心の中で思っている。

「これ、また包み直してくれるかな」
「はい」
新伍が本を包み直すと、室田はそれを貴重な資料を保管する鍵つきのロッカーに入れた。

室田は黙ってコーヒーを二人分入れながら何か考えている。
コーヒーと砂糖とミルクがテーブルの上に置かれた。
何も言わない。
室田のこんな姿を見るのは新伍も初めてだ。

室田は深呼吸しながら新伍に言った。
「君が会ったその人物は生きた人間じゃないよ。その男が君に近づいたのも最初からの計画だったのかもしれん」
「どういう意味ですか、本代も払いましたし」
「ハハ、それはその男の遊びだったのだろう」

「お話しがまったく分かりません」
「うん、最初から説明しょう」
社内や外の音の総てが止まったように、ただ室田の声だけが聞こえてくる。

「あの本は悪魔に仕える人間を手に入れるための道具よ」
「表紙には希望の書とありましたが」
「それは人間をおびき寄せる誘いの文句だ。まあ人によれば希望と言えないこともないかな」

信じられない話しだが、昨晩からの奇妙な出来事は室田の言葉を裏付けている。
「本の穴の中にいるのは、昨晩のその男だろう。いま悪魔に仕えている人間だ。『あけて』と叫んでいたのもそいつだ。あけると、穴を見ている者を一瞬で魔界に引きずり込む。そこにいるのが悪魔だ。

一度引きずり込まれると悪魔の厳しい試練を受けることになる。
それに合格せぬ者はその場で死に至るが、元の肉体はまだ地上にある。それは同時に突発性の病や事故という形で死人となる。
だから誰もその死に疑問を抱かない。

逆に試練に受かれば新しい使用人となって799年を悪魔に仕えることになる。
この場合も地上にある肉体も同様に突発性の病や事故という形で死人となる」

「つまりは引きずり込まれたら試練に受かっても受からなくても地上にある肉体は死ぬということですか」
「そういうこと。引きずり込まれたらこの世にある命は消える。そして地の底にあるらしい魔界で799年を悪魔に仕えて過ごすわけじゃ。つまりその男は自分のあとを継ぐ新しい使用人をリクルートしているのよ」

「リクルートですか!? 」
新伍はとっさにそんな名前の会社を思い出した。
新伍は半信半疑だが、昨晩からの出来事は否定できない。

「穴の中のいまの使用人が、昨晩ボクをリクルートするために引きずり込もうとしたのですか」
「そういうこと。ただな・・・」
「何です」

「向こうが君の手を離した。それが分からん。いったん手をつかまれたら絶対に逃げられないはずじゃが・・」
室田は話しながらなぜ新伍が逃れられたのか、考えている。

「なぜ799年なのですか」
「799年を過ぎると仕える者は疲れ、悪魔もその使用人に飽きる。そこでじゃ、くたびれた使用人を本の穴に閉じ込め、その使用人に新しい使用人候補を引っ張り込ませるのよ」

「悪魔に799年仕えるのですか」
「悪魔、悪魔と人は言うけどな、それは見る立場による。立つ位置を変えれば悪魔も神だ」

新伍は思い出した。
「そういえば本を買ったとき、あの男は『あなたに神の祝福を』て言ってました」

「そうだろうな、たとえばキリスト教ではイエスは神の子だがイスラム教では預言者扱いだ。そしてユダヤ教から見れば異端者だ。昨夜の男にとっても主は悪魔ではなく神なんだよ。悪魔か神か、それは見る人の立ち位置次第だよ」
ひと呼吸おいて室田は話す。

「何も無い中でこのようなことを信じる者はおらん。しかし藤巻くんはそれの一端を見たし、わたしもいま見た。そして魔界への道も分かった。あの箱はわたしにとっては、まさに『希望の書』かもしれん」
「室田さん、それどういう意味ですか」

室田は続ける。
「いまあの本の穴にいる使用人は、次の使用人が決まれば永遠に消える」
「次ってボクじゃないですよね」
「うんおそらくな。悪魔はもう決めているのかもしれん。それにしてもなぜ君がその間を持ったのか・・」
「間とは何ですか」

新伍が尋ねると室田は話しを替えた。
「君の手をつかんだ男も799年前の人間じゃ。799年前といえば1225年ころか、そうなると鎌倉時代、浄土真宗が生まれたころ・・・小倉百人一首が出来る前ころかなァ~ あのころに・・図体のでかかった男か、誰だろうなァ・・え~」
室田は自分の世界に入りつつあるようだ。

新伍は改めて尋ねた。
「悪魔の使用人、もう一度お聞きしますが、ボクは大丈夫ですよね」
「それはボクにも分からん、分からんが、おそらく大丈夫だとは思うが」
「おそらくですか」

「新伍はスマホを取り出して電話をかけようとした。
「どこへかけるの」
「け、警察に・・」
室田は大笑いした。
「正気かね、藤巻くん、やめなさい。110番に怒られるぞ」

「でもイヤですよ、ボクは悪魔の使用人なんか」
「ただな、キミが手首をつかまれながら助かったのが不思議なのよ」
「必死で離しましたから」
「人間の力で離せるものではないよ、これは想像だけど、メッセージかもしれん」

「メッセージ、誰が、誰にですか」
室田はニコニコ笑い出し、新伍を見ている。
そして新伍の手を握りながら言った。
「藤巻くん、ボクに任せなさい」

室田はロッカーから本を出し、包装を解いた。
「もう一度見てみる」
と言いながら室田は新伍を下がらせ、自分は表紙も扉も開け、穴をのぞき込んだ。
「室田さん、いいんですか」

室田は指を入れ肩先までも入れた。
そして室田は手の先で何かしながら、何かつぶやいている。
室田は笑いながら手を戻し本を閉じた。

新伍は言った。
「何もおきませんでしたね」
室田は答えた。
「うん、これでいいんだ、藤巻くん、これ明日までボクに預けてくれんか。すぐに家に帰ってやりたいことがある」

「はい、いいです。どうぞ」
室田は帰り支度をすると本を大事にカバンにしまいながら新伍に言った。
「藤巻くん、君が魔界に行くことはもうないから安心しなさい。いい女(ひと)を見つけて家族をつくり元気で長生きするんだぞ。本当にいいものを見つけてくれた。君には感謝している。ありがとう。急ぐから、じゃ失礼する・・元気でな」

(元気でなって、室田さん、日ごろにないことを言う)と新伍は思った。
ふと窓の向こうを見ると、あの黒く奇妙な鳥がゆっくりと回っていた。
「またあいつ、ついてきてるのか」

  あくる日曜日の夜明け前、新伍は電話の音で目を覚ました。
「はい、藤巻です」
会社からの電話だった。
「エッ、室田さんが・・・」
室田が急性心不全で亡くなったという。
今晩は通夜だ。
新伍はハンカチで目をふきながら電車に飛び乗った。

 室田の葬式は無事に終わった。
参席も多く花輪も並び何人もの弔辞も無事に終わった。
だがあの本はどこにいったのか、遺族に頼まれて膨大な書籍を整理したときも見つからなかった。

メッセンジャー

 それからしばらく経った日曜日の朝、カーテンを開けるとベランダの手すりにあの黒く奇妙な鳥がとまって新伍を見ている。
「おお、お前、どうした」
よくよく見ると奇妙なはずだ、身体と同じ色のサングラスをかけている。
(なんだ、こいつ、鳥のくせにサングラスなんかかけて、カラスではないし)

すると鳥がしゃべった。
「おはよう、よく眠れたかい」
新伍はおどろいた、室田の声だ。
「・・ ムロタさん・・」

「そうボクだ、室田だよ。おどろいたかい。藤巻君、元気でやってるようだな、この鳥は便利なやつでな、魔界からのメッセンジャーだよ。以前何度か君と会ってるらしいが、今日はこいつの口を借りて話している。

わたしはいま悪魔、いや魔界の神に仕えている。
先に亡くなった女房もまた一緒だよ。
わたしが何十年も探しても探しても見つからなかったものを、君が目の前に置いてくれたおかげだ。ありがとう、本当に感謝している。

わたしの毎日は激しく苛烈な日々だ。だがそれがちっとも苦にならない。
ここは人間の総てが見える。面白いぞ、魔界は。
これから799年、まさにわたしが望んでいた死後の世界だ」

 そこまで言うと室田はひと呼吸して言った。
「ところで相談がある」
「何ですか」
「君の子孫をわたしの次の使用人にすると約束してくれんか。君の子孫なら絶対に悪魔いや神も気に入ってくれる。すでに許しも得ている。せいぜい頑張って子供を子孫をたくさん残してくれ。799年先に君の子孫と会いたい。頼むよ藤巻新伍くん、元気でな、また会おう」

新伍が何か言おうとすると鳥が言った。
「ご返事はできません。あしからず」
新伍は腰を低くして再度鳥に言った。
「直接室田さんを魔界に呼ばずに、なぜ間にオレを立たせたのか、それを知りたいだけだ」
「ですからご返事はできません。しつこい人はキライです。あしからず」
そういうとフワッと浮いて空に消えた。

「799年先にオレの子孫が魔界の神の使用人かい、まあええか、勝手にしてくれ、オレがいくわけではないし・・・それより先に、”彼女”だァ!」










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