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夢 ー時空を超えて 2の8ー

お葬式の会場に戻ると、会葬者が次々とジェフリーにお別れを告げているところだった。

私たちの番になり、全員揃ってジェフリーの最期のお顔を見て祈りを捧げる。ところが着物の着せ方が変で、私は靴を脱ぎ、祭壇の棺ににじり寄り、ジェフリーの棺に手を入れて胸元を直した。

やっと綺麗に収まり、ホッとして元の場所に戻ったが、何人かが奇異の目を私に向けていた。
それはそうだ。私達にとって祭壇は神聖なものだから、当たり前のように靴を脱いでいたが、彼らには靴を脱ぐ習慣がない。それ以上に、棺に手を入れるのもあり得なかったのかも知れない。

だが、そんな事は全然気にならなかった。少しでも長くジェフリーの顔を見ていたかった。

それ以外は、友人代表でジョンがスピーチをした事、ジョアンナが挨拶をした事くらいしか覚えていない。ジョンは、教会であるにも関わらず、最後の合掌のポーズは仏教式だった。

その翌日か翌々日、ジョンに連れられて火葬場に行った。その時は、ジョアンナ、娘、息子、ジル、ジョン、そして私の6人だけだった。

火葬前のジェフリーが安置されている部屋に通されると、ジェフリーの息子以外は全員泣き出した。特に娘は声をあげて泣いており、見ている人の胸が痛む様な泣き方だった。

そして、棺は火葬場に吸い込まれて行った。

その日も空は澄み渡っていた。一昨日の雪がまだ残っていて、空気が肌に刺さって来るように感じられるので、私はジョンに頼んで車の中にいさせてもらった。窓越しに、ジェフリーのものか?煙が影になって地面に映っているのが見える。

その地面の煙の影を目で追いながら呆然としていた時、私の右斜め上にジェフリーがいた。

彼はイタズラっぽい目で笑っていた。

そして
「トモコ、君は大丈夫だよ。僕は知っている。君は大丈夫だ」と囁いた。

私は身動き出来ずにいた。

ジェフリー!なんて酷い事言うの?あなたがいなくなって、どれだけ辛い気持ちになったか分かる?どれだけ泣いたか分かる?何が大丈夫なの?教えてよ!

大丈夫なんだよ。
それは、君が1番良く知っている。

それだけ言い終えて、ジェフリーの気配は消えた。手を伸ばせば触れる事が出来たのでは?と思うほど近くにいたのに、私は微動だに出来なかった。

気がつくと脇の下にじっとりと汗をかいていた。

アメリカの火葬はお骨拾いはない。
お骨は粉々に粉砕され、骨壷に納められる。
私とジョンはジョアンナ達を見送った後、車をスタートさせた。

車中でジョンがゆっくり話し出す。

トモコ、今日ジョアンナもジェフリーの娘も泣いていただろう?これであの2人は大丈夫だ。時間はかかったけれど、やっと彼の死を受け入れられたのだと思う。…息子は…彼は心配だ。怒りがあるうちはまだ良いんだが、それが引いた後も死を受け入れられないと、彼の立ち直りには時間がかかるだろうな。。。

私は沢山泣いたけど、まだ受け入れられる気持ちになれないわ。。。

ジョンはそれには答えず、ジェフリーの遺書の話を始めた。
ジェフリーは、家族と2〜3人の友人に遺書を遺していたが、ジョンと私には遺していなかった。私はまだしも、ジョンに遺していないのは意外だった。

その時の私は、何かしらジェフリーの想いが伝わるものが欲しかった。遺書をなぜ遺してくれなかったの?と毎日心の中で彼に問い続けていた。

これがどう言う意味か分かるか?彼は僕らには、遺書が書けなかったんだ。僕たちに黙って死んでいくことへの罪悪感。そして、それを遺したら彼への想いに囚われる。そこから抜け出るのが難しくなる。特に君はね。遺書を遺さなかったことが、彼の最後の優しさだったんだ。

その言葉を聞いて、さっきの火葬場でのジェフリーの幻影が蘇る。

ジョンの言葉が深く深く胸に落ちてきて、色々な感情が溢れ出して来る。
それを押さえ込む様に、私はゆっくり目を閉じた。

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