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これが映画だ! 第三回

私は大いなる幻影を見た!

 さて二回に亘ってまえがき”なるものを記してきたが、後半に “歓楽街の一角にあり、ヤクザの皆様方がドンパチやったり、トルコ風呂(現在のソープランド)が乱立していたりと、およそ『宇宙戦艦ヤマト』を掛けるコヤとしては、そして子供たちが並んで鑑賞しようという土地柄ではなかったのである。” (第二回参照)と記していた劇場は今はもうない。しかしその当時、『さらば宇宙戦艦ヤマト-愛の戦士たち-』と『銀河鉄道999』は観に行っている。少なくとも、私の中での“ヤマト”と“999”は、そこで終わっている。そうその頃である。
 テレビで古典と呼ばれる映画を結構たっぷりと観ていたが、当時のガキの柔らかな頭に匆匆残るものではない。ましてやモノクロの古い作品より、ガキなのだから007=ジェームズ・ボンドが印象深く残っても無理はない。だが、あれはNHKの『世界名画劇場』だったであろうか?ある一本の映画を観た時、まずラストに流れた短い“音”が、なかなか耳から消えていかない。
 まず当時の映画は、シークエンス、シークエンスでほとんど“音”が流れていた。それも弦楽四重奏、良ければオーケストレーションで流れていたのだ。あの名編『風と共に去りぬ』のサウンドトラックなどは、現存しているCDで2枚組、細かくシークエンスごとに“音”があったはずだから、そのアレンジの異なる別ヴァージョンも加えたら、膨大なものになるだろう。そういう“音”はミュージカル風味とも言える。そして多くの古典と呼ばれる映画がそうだったのである。話は脱線したが、その私が観た映画のラストシークエンスの“音”が、一晩眠って朝が来ても、次の日も、そのまた次の日も、ずっと脳裏に焼き付いて離れないのだ。ガキの頭の中は恐るべし。
 時は経ち、多少私の脳裏から、その“音”が薄らいで来た頃、なんとその映画の再放送をラテ欄に見つけた。私はカセットテープレコーダーをテレビに向けてスタンバイした。勿論、その頃DVDはおろかビデオ時代でもなかったからだ。30秒、長くて1分のラスト・シークエンスで流れる曲のためだけにである。放送が始まる。私はまだ、全くの余裕である。本編がスタート。あれ?主役の男優、見たことがある!そうペペ・ル・モコ!『望郷』のジャン・ギャバンだ!私は心の中で叫んだ。父親の映画教育(?)のお陰で、私の中に擦りこまれていた知識が、初めて鼓動をし始めた瞬間だった。私はそうそう、そうだった。ストーリーをなぞりながら、こうなってこうなるんだ。と、おそらく私は目を輝かせていたんだと思う。
 いよいよラストが近づく。私は抜かりなくカセットテープレコーダーの準備を手探りでしながら、テレビの画面に釘付けになっていた。雪上をドイツ軍の捕虜役のジャン・ギャバンたちが、雪に足を取られながらも逃げてゆく。その後ろ姿が遠くになる。手前には追って来たドイツ軍の兵士たち、「打ち方…」、その時上官が「やめろ」、銃を構えていた兵士たちが上官を見上げる。「彼らは国境を越えた…」カチッ!私はテープレコーダーを録音にする。古い映画はエンド・ロールがないものが多い。それはあっという間だった。30秒もなかった。歌で言えばワンフレーズだった。録音は成功した。そして映画も再確認、やっぱりいいものはいいなぁと私は思っていた。その映画こそ『大いなる幻影』だったのである。
 この『これが映画だ!』では、極力ストーリーや内容に関しては記さないようにする。すべて記してしまったら、これを読んでくれた貴方に失礼だからである。貴方は貴方で目撃者になってほしいからである。ただ、タイトル、出演者、監督などデータを最後に載せておく。な~んだ。『これが映画だ!』とか言っておいてつまらない…と思われる方はご退席を…。


今回の主役級映画
大いなる幻影 La Grande Illusion
監督 ジャン・ルノワール
出演 ジャン・ギャバン、ピエール・フレネー 他

1937年/フランス/モノクロ/113分※
※現存するフィルムの上映時間

 







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